出版社 : 小学館
「白く塗りたる墓」は、1960年代の高度成長期における公害汚染や原子力発電所の安全などの社会問題をベースに、報道機関の公器性や良心を問うた意欲作。TVカメラが持つ同時性から一躍報道の花形産業となったTV報道の視座をフィルターにして、目の前の現実と報道との溝に苦悩するテレビマンの狂気と孤独もドラマティックに描いている。もう一作は、ニヒリストの医者の堕落と病院に関わる人間の業を描いた「もう一つの絆」。共に第一部までの未完作であるが、著者の新境地ともいえる作品で、現代に連なる荒廃を予見している秀作である。
噴煙吹き上げる春まだ浅い三原山に、女子大生がふたり登っていった。だが、その後、夜更けに下山してきたのは、なぜかひとりだけー。遡ること一ヶ月前、同様の光景があり、ひとり下山した女子大生は同一人物だった。自殺願望の若い女性ふたりに、三原山まで同行して、底知れぬ火口に向かって投身させた自殺幇助者の京大生・鳥居哲代。生きていることに倦んだ高学歴の女学生たちの心理を精緻に描き、自殺者と自殺幇助者になっていく軌跡をミステリー風に仕立てた悽絶な魂のドラマ。高橋たか子の初期長編代表作で第4回泉鏡花賞を受賞。
長年離れて暮らしていた穏蔵が、音羽の顔役・甚五郎の身内になって一月足らず、倅との微妙な間合いに、いまだ戸惑う、付添い屋稼業の秋月六平太。ある夜、仕事の帰り道で鉢合わせた賊を斬り伏せて以来、謎の刺客に襲われはじめる。きな臭さが漂う中、六平太は日本橋の箔屋から依頼を受け、千住の百姓家で暮らす幸七のもとへ、娘のお糸を送り届けることに。ひとり宿に泊っていた六平太だったが、ふと、お糸の父・新左衛門の「なんとしても娘を連れ帰って下さい」という一言が思い浮かび、急ぎ表へ飛び出した。嫌な胸騒ぎが…。王道の人情時代劇第十二弾!
弟・重二郎に藩政をまかせ、江戸に出奔した博打好きの殿さま・百目鬼一郎太は、ひとまず、駒込土物店を差配する槐屋徳兵衛の世話で根津に身を落ち着ける。重二郎可愛さに、嫡男・一郎太の命を狙う実母桜香院とその腹心の国家老・黒岩監物。江戸家老・神酒五十八によれば、黒岩家の用人が密かに羽摺り(忍び)の隠れ里に向かったという。一方、一郎太と暮らす五十八の嫡男・藍蔵の心配をよそに、江戸の賭場八十八か所巡りを企てる一郎太。監物の放った羽摺り四天王との息詰まる死闘。いま明らかになる、突きの鬼一こと一郎太の秘剣・滝止の由来!大好評シリーズ第3弾。
超ド級の映画「空母いぶき」を完全小説化! 巨匠かわぐちかいじの同名コミックを原作とし、壮大なスケールで描かれた映画「空母いぶき」を完全ノベライズ! 【ストーリー】 --そう遠くない未来。東アジア海域における領土争いは激化、日本近海でも軍事衝突の危機が高まりつつあった。 日本最南端の波留間群島沖では、国籍不明の武装集団が海上保安庁の巡視船に発砲し、乗組員を拘束、領土の一部を占拠した。未曾有の緊張が高まる中、政府は航空機搭載型護衛艦『いぶき』を旗艦とした第5護衛隊群を現場海域に派遣する。 戦うか、護るかーー。 敵潜水艦のミサイル攻撃に対し、航空自衛隊のエースパイロットから『いぶき』艦長に抜擢された秋津竜太と、海上自衛隊生え抜きの副長・新波歳也の決断は? この国の未来を左右する運命の24時間。
日本初の水商売を専門に学ぶ都立高校が新宿歌舞伎町に設立されてから二十七年。いじめられ、カンニングの濡れ衣まで着せられた淳史は、通称「都立水商」にしか進学できなかった。しかし、入学の初日にマネージャー科の学級委員長に指名されてしまう。くせのつよい同級生や先輩は、問題を抱えてはいるが、いい人たちで、その道のプロから指導される勉強は、実践的で面白い。やがて、SM科三年の美人生徒会長にあこがれる淳史は、生徒会を手伝うことになるが、水商最大のイベントである文化祭が目前に迫っていた。笑いあり感動ありの傑作青春小説、待望の続編!
中学生の妹が、妊娠したかもしれない。高校2年生の成田初は妹のために妊娠検査薬を買いに行くが、よりによって、幼い頃から初をいじめる大嫌いな幼なじみ・橘亮輝にバレてしまう。「誰にも言わないで、なんでもするから」「じゃあ、俺の奴隷になれ」俺様的性格の亮輝に弱みを握られてしまった初は、信じられない要求を飲むことになり!?累計450万部を突破した相原実貴による伝説的人気コミック原作の山戸結希督監作品「ホットギミック ガールミーツボーイ」(2019年6月公開)をノベライズ。映画とはひと味違う小説版「ホットギミック」をお見逃しなく!
猪目空我は、かつて少年探偵役で人気を博した子役くずれのイケメン。とくに技能があるわけではないが、過去の栄光を活用し外見重視の雰囲気探偵事務所を開くことに。早速、格安賃料で借りたのは古い屋敷の一角のうえ、他の住人は謎めいたお嬢さまと美しい執事のみ。ここに怪しさ爆発の大家と店子が誕生した。一方、屋敷の執事にも秘密があった。それは彼の正体が死神で、死にゆく者に乞われた場合“カーテンコール”で三回だけ、彼らをこの世に呼び戻せるというもので…。エリート死神執事とハリボテ探偵が贈る人生最後の“やりなおし”ファンタジー!
幼い頃から「あやかし」が見える芹沢天音。そのせいで仕事を辞め、祖父が生前、和菓子店を営んでいた家で暮らそうと京都を訪れる。ところがそこに見知らぬ青年と双子の幼いきょうだいが。青年・成清は祖父に頼まれて店「雲龍庵」を継ぎ、三人で切り盛りしているという。怪しく思いながらも、祖父の遺した言葉を聞いてしばらく同居することにした天音。ところが双子は眠くなるとなぜか小さな白虎に変身。しかも成清の頭には小さな角が見えて!?あやかしが営む店で、あやかしと始めた不思議で優しい同居生活。京都和菓子×あやかしストーリー!
自分の店を持つという大きな夢を抱き、アパレル業界で頑張ってきたあずみ。だがSNSでの出来事が原因で仕事を失い、故郷へ帰ることに。数年ぶりの地元で、あずみは幼馴染の太一と再会。幼い頃からどんな時もあずみの味方だった太一だが、夢を捨てた自分を恥じて、あずみは素直になれない。そんなあずみが最近気になっているのは、故郷に戻ってから毎晩見る夢。流星の夜、死んだ『誰か』の横で泣き続ける…そんな奇妙な夢を見続けているのだ。やがてあずみは太一の様子がおかしいことに気づいてー。繰り返される死の夢の真実とは。再生と希望の物語!
受験、アンバランスな心と体、性への限りない渇望、誰かに承認してもらいたいという欲求。思春期のとまどいと無鉄砲な強さを、みずみずしい筆致で紡ぎだす。『R-18文学賞』で鮮烈なデビューを飾った雛倉さりえが、痛くて切ない不器用な15歳の「熱」を描く。
銀色の日傘をくるくる回しながら子猫のアブサンと夏の盛りにふらっとやってきた真弓が、「時代屋」の女房として居着いたのは5年前のことだった。東京は大井町の一隅にある骨董屋を舞台に、男女の淡く切ない恋情と、市井の人々との心温まる日常を味わい深く描いて第87回直木賞を受賞した「時代屋の女房」。後に映画化もされ話題を呼んだ秀作と、追われた男と不思議な二人の老人、匿われていた女の“仮名の男女”が演じ合う夢幻劇のようなひと夏の出来事を描いた「泪橋」、著者による新たなあとがきも併せて収録。
1955-56年にかけて読売新聞に連載され、大反響の下、流行語にもなった「四十八歳の抵抗」。55歳が停年の時代に、真面目一筋に勤めてきた48歳の保険会社次長、西村耕太郎は恵まれた家庭を持ち、傍目には幸せそうな日々を送っているが、実のところはなにやら満たされない。その心中を見透かしたように社内の島田からヌード撮影会に誘われる。そして一度も恋愛をしてないという焦燥から、耕太郎はバーの娘で19歳のユカリを口説いて熱海の旅館に出かけるのだがー。社会的な地位があり体裁を繕って生きてはいるが、まだ燃え上がる激情も抱えた“ミドルエイジ・クライシス”を描いた普遍的な「男性研究の書」である。
岡山市内の商店街で営業中の古民家カフェ「桃源郷」。料理上手で世話好きの店主・吉備桃太郎は、祖父の真備から「お前は日本昔話の桃太郎の生まれ変わり」などと告げられるが、今ひとつピンとこない。しかし本人の自覚とは裏腹に「桃源郷」にはワケアリの面々が集まってくる。まずは元アイドルの犬養津与志、次に超方向音痴の大学生・楽々森類、そして浮世離れした美形・珠臣樹里。真備によれば彼らは桃太郎の家臣一族の末裔で、いわゆる犬・猿・雉なのだという。さらには幼なじみの大和尊まで、何か因縁がありそうで…?現代に甦る最強おとぎ話、シリーズ第2弾!
古賀先輩からの「まかない付き」という言葉につられ、休み明け早々、発掘現場の手伝いをすることになった考古学研究室の灯里。さっそく現場に向かうと、そこには『調査を止めろ!呪われるぞ!』と書かれた奇妙な張り紙が。どうやら昔、この現場で死者が出たらしい。同じ頃、図書館にあるはずの発掘資料が行方不明になる。呪いの噂が立つ現場で、灯里たちの発掘作業は続けられるがー?福岡県あさくら市を舞台に、極貧生活をタフに乗り切る灯里と甘党で男前な古賀先輩が、発掘現場に隠された謎を解き明かす!遺跡発掘×ミステリー、第三弾!
桂助と鋼次は、虫歯の治療に行くという妹のお房に横浜の居留地まで同行した。そこで、エーテル麻酔で痛みを感じさせずに、機械で虫歯を取り除くという最新治療を目の当たりにする。歯科医のウエストレーキから、日本の木床義歯の優秀さと、医療用以外で阿片の使用が広まる懸念を告げられた桂助は、謎の死を遂げた同心の友田が阿片密輸の大本に迫っていたことを知って、その真相に迫っていく。そして遂に、探し求めていた志保と再会を果たした桂助は、できるだけ抜歯をしない歯科治療を目指して、新たな世界に旅立つのだった。大人気シリーズ、感動の最終巻!
さつきと喜重郎は、およねが黒鳶式部の名で書いた黄表紙を紹介する瓦版(読売)を刷って好評を得る。そんなある日、姿を消したままの駒三が自分の兄ではないかという男が訪ねてくる。その男、清右衛門はその後も万葉堂にやってくるようになった。清右衛門が、盗賊団「蛇の目」の一味が瓦版を連絡に使っているらしいと話したことから、さつきと喜重郎は瓦版から得られた手がかりを同心に知らせたのだが…。「蛇の目」捕縛に繋がる情報は見つかったのか?そしてさつきと伝蔵、およねと喜重郎、それぞれの仲は進展するのか。シリーズ佳境となる、注目の第三作!
大いなる脅威が、恐るべき軍勢を連れて襲来した。その名はサノス。この無慈悲な覇者が集めようと目論むのは、6つのインフィニティ・ストーン。地球と宇宙の命運は、スーパーヒーローたちにかかっていた!『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の背景で、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ドクター・ストレンジ、そしてガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが何をしていたのか?オリジナルストーリーで描かれるヒーローたちの物語が『インフィニティ・ウォー』に向けて疾走する!ここでしか読めない『アベンジャーズ』ファン必読の1冊。
十五歳で家出し、二十歳で三遊亭小円朝に弟子入りし、朝太の名をもらう。「一人前の噺家になるまでは家にはかえらねぇ…」と、落語への情熱は本物だったが、十代から覚えた「飲む打つ買う」の三道は止められない。師匠を怒らせ、仕事をしくじり、改名を繰り返し、借金を重ねていく…。後の名人・古今亭志ん生の若き日の彷徨だった。酒でしくじり寄席を出禁になると、落語以外に自分の生きる道はないと痛感。昭和十四年、念願の五代目古今亭志ん生を襲名。名人・文楽と並び称された不世出の天才落語家の戦前、戦中、戦後を駆け抜けた破天荒人生を描く。