出版社 : 小学館
舞台は三浦半島の小さな産婦人科医院。主人公の医師・野辺地貞春の下では、不妊治療や出産、中絶と、さまざまに行き交う人々の喜びや苦悩が日々交錯している。なかでも中絶手術は、戦後、患者が公に語ることなく行われてきた大規模な水面下医療であった。産婦人科医は生命の誕生に立ち会い、そして同時に中絶という形で一つの命を消し去るという、特異な職業である。その日々の現場を綿密な取材に基づき、淡々と描くケーススタディは圧倒的なリアルさで、小説という概念を超える。生命の尊厳を鋭く問うた“衝撃の問題作”上巻。
両親が起こした火事で、ひとり生き残った幸子。子供たちを乗せた車で海に飛び込み、生き残ってしまったシングルマザーの雪絵。宿命的な出会いによって、二人の女性の人生が動き出す。“加害者”と“被害者”の思いが交錯した時、衝撃の真実が明らかになる!!慟哭のミステリー。
大学三年生になった真吾は、同級生の宮本から彼が住むアパートの部屋を借りないかと持ちかけられる。宮本は、アルバイト先の事務員で人妻のセイ子と関係ができ、さらには彼女から紹介された子持ちの未亡人・絢子とも深い仲になったという。そして、用心棒も兼ねて絢子と同居する顛末を真吾は聞かされたのだった。真吾の新しい部屋・昭和荘には雑多な人々が住んでおり、早速男女間トラブルに巻き込まれることになる。
新居の昭和荘に移った真吾の周辺では常に騒動が起こっていた。同じ階の金杉の恋人・あゆ子や、階下の人妻・時江からも誘惑されるがなんとか逃れ、改めて東京にはいろいろな人間がいることを痛感する。-そしてまた夏、郷里に帰る真吾は駅で同級生の岡本と偶然一緒になり、車内で知り合った春絵に誘われて彼女の実家がある瀬戸内の島に立ち寄るため途中下車をする。夏の島には濃厚なアバンチュールが待っていた。
ワルシャワ市内の教会で、右眼に焼き串を突かれ男が死んだ。容疑者は、彼と共にグループセラピーに参加していた男女四人。検察官シャツキは早速捜査を進めるが、調べれば調べるほど事件は混迷し、一方で夫婦関係に閉塞感を抱いていた彼は若い女性記者に惹かれ、罪悪感と欲望との挟間で悶々とする。やがて、被害者の遺品から過去のある事件に気づくシャツキ。真実に手が届こうとしたその時、衝撃の事態が起こる…。日本のミステリーファンを唸らせたポーランドの怪作『怒り』、本作はその「シャツキ三部作」の第一作。
ここは人生の最期に訪れる、幽冥と顕世を繋ぐ洋食店でございますー。シェフの九原脩平一家とアルバイト店員の和泉沢悠人が働く東京下町・人形町の「幽明軒」には、閉店後に死者が訪れ、思いのこした一皿をそれぞれ注文する。大正時代に交通事故で亡くなった女性が恋人と食べるはずだったライスオムレツ、バブル崩壊で挫折し、料理人として独立した息子を認められなかった父親の苦い思い出のナポリタン、元夫に毒殺されたと疑う女社長が最期の夜に食べた蟹マカロニグラタン。成仏できない死者たちに寄り添う洋食店での五皿の奇跡を描く、最後の晩餐ミステリー。
ある日、作家の新居航生のもとに一通の書状が届いた。それは、タイムスリップを研究しているという八木俊太郎という人物からで、タイムスリップを体験してみないかという勧誘だった。いたずらかとも考えたが、実際に体験したことを雑誌に書くことにしてやってみることにした。航生は中学生のときにいじめの標的にされたことがあり、それをリセットしたいと思ったのだ。タイムスリップはどう行われるのか!?果たして過去は変えられるのか!?いつしか、航生は中二の文化祭の会場にいた…。そして、過去に向き合った主人公に訪れた心境の変化とはー。ミステリアスな長編小説。
誠実だが真面目で性に対しても淡泊な薫と、好色で不誠実だが女性に優しく情熱的な匂宮。光源氏の血をひく、二人のイケメン貴公子の間で翻弄される女、浮舟の揺れ動く心と、愛欲におぼれゆく様を、恋愛小説の名手、林真理子がリアルに、執拗に描き切った問題作。恋愛小説の原初として、千年以上にわたって読み継がれてきた「源氏物語」の中でも人気の「宇治十帖」部分を大胆に新解釈。甘やかな恋心と若き男達の恋愛ゲーム、世紀を超えた二股愛の衝撃的末路は!?濃密な性愛描写とスピード感に読み始めたら止まらない!林真理子版「小説源氏物語」、ここに完結!
高校生の蕪木摂は、幼なじみで親友の名和秀真に告白しあえなく玉砕してしまう。気まずさを引きずったまま翌日、部活に向かう途中で不意に意識を失った摂が高校の保健室で目覚めると、そこは「どこか不可解な世界」に変わっていた。まったく同じ世界と目には映るのに、そこにいるはずのない人がいて、あるはずのない人間関係が成立している。夢か現実かと混乱するばかりの摂は、昨日とは別人のような秀真によって、とある古寂びた神社へと導かれた…。-世界は至極シンプルで、とても混沌としている。新感覚パラレル・ストーリー。
年に一度の休暇をのんびり過ごそうと、現世日本にやってきた地獄の大王閻魔様。炎真と名乗り、秘書の小野篁とともに古アパートで暮らしはじめるが、ついうっかり罪人を裁いては「また働いてしまった」と後悔する毎日だ。ある日、井の頭公園に祀られている弁財天から、炎真は奇妙な依頼を受けるが…。「地獄でまた会おう」と言いながら、悪を懲らしめ死者に安らぎを与える炎真が大活躍。池の主と赤子をめぐる不思議な一夜、結婚をひかえた姉が見る悪夢の結末、悪徳ブリーダーに立ち向かう少年の奮闘など痛快+感動の五話を収めた、地獄行き事件解決録!
温泉なし、設備古しの海辺のお宿は、経営難を乗り越えられるか?お客さまは、けっして神さまではありません。でも、ときどき神さまがお客さまになってお越しになることはありますー。ひよっこ若おかみに、世間の風は冷たい!
最上級職“竜騎士”から初級職“運び屋”に転職したアクセル。一行は『神林都市』に辿り着く。しかし、街にそびえ立つ神樹に異常事態が発生。混迷を極めるなか、アクセルは超絶難度の依頼を次々とこなし、人々に希望を届け始める!元竜騎士の最強運び屋が更に飛躍してお届けする、トランスポーターファンタジー第三弾!
漁師として生き、若くして自分の息子を海難事故で失ったジイ。末期ガンを抱えているが、ある日ひ孫の優生が訪ねてくる。優生はいじめが原因で不登校。饒舌に元気に振る舞うジイと優生が交わした、二人だけの約束とは…(『海神』)。長年開業してきた診療所を閉院する決断をした老医師のジイ。そんな彼を長年支えてきた48歳の看護師。閉院間近のある日、老医師は失踪する。看護師が探したどり着いたのは瀬戸内の島。もう戻らない、というジイの覚悟とは。(『夕凪』)。たたき上げで会社社長にまでなった後、潔く退職し島で石の博物館を営むジイ。大晦日、現実逃避でやって来た孫に、自分の半生を語り始める。それは、誰にも語ったことのない自身の青春時代、親友、そして、唯一の後悔だった…(『波光』)。
熟年主人公の「私」は大阪府出身ながら生家は郊外にあり、家庭を持ってからは東京暮らしとあって、大阪の街について、実はよく知らない。そこで「私」は妻の従弟にあたる「悦郎さん」に会い、昔日の大阪を語って貰おうと会いにでかける。そして明治・大正・昭和の三代にわたる大阪商人の日常を丹念に聞き取ることで、“水の都”の移り変わりが匂い立つように浮かび上がってくる。淡いファンタジーの如く、さまざまな市井の人々の営みが生き生きと描かれた“第三の新人”庄野潤三の秀作である。
昭和ホームドラマの金字塔、その原作小説 1977年夏にTBS系列で放送され、「辛口ホームドラマ」として放送史に燦然と輝く名作。その原作小説は1976〜77年にかけて東京新聞ほかで連載された。 高度成長期の大企業に勤めるモーレツサラリーマンの夫・田島謙作。傍目には恵まれた貞淑な妻・則子。才気煥発な女子大生の娘・律子と気弱な高校三年生の息子・繁。一見すると、郊外の戸建て住宅に暮らす幸福そうな一家が、ある1本の電話から破綻に向かって走り出す。主婦の浮気、レイプなど当時は斬新なテーマを意欲的に描いた、脚本家・山田太一の代表作。
さつきは、二号目の瓦版(読売)に近所での窃盗事件を取り上げた。犯人が「あやかし」だという読売に対抗して真犯人が分かるように書いたため、逆恨みした犯人によって兄の喜重郎が刺されてしまう。次の号に盗賊団「蛇の目」のことを書こうかと考え始めるさつき。しかし、同業である日吉堂の伍助と栗橋靱負からは「蛇の目のことを書くな」と言われてしまう。その頃、さつきの親友およねは“黒鳶式部”という筆名で黄表紙作家としてデビューし、これまでの熱い胸の内を喜重郎に伝えるのだが…。一方、さつきは伝蔵への恋心を伝えられずにいた。シリーズ第2弾!