出版社 : 小学館
幸崎ナナミは十三歳の中学二年生である。喘息の持病があるため、あちこち遊びに出かけるわけにもいかず学校が終わるとひとりで図書館に足を運ぶ生活を送っている。その図書館で、最近本がなくなっているらしい。館内の探索を始めたナナミは、青白く輝いている書棚の前で、翡翠の色の目をした猫と出会う。
わたしの職場は、指示通りに仕事をすることを求められる場所。そこで出会ったのは、たった一人で祖国から逃れてきた14歳のザーヘル、17歳のアフメドとハーミドだった。ぼくたち家族いないよ。だれが面会に来てくれる?ぼくたちは、アフガニスタンの息子なんだ。静かな筆致で難民児童の現実と収容施設の新人職員の葛藤を描いた、2021年北欧理事会文学賞(YA&児童書部門)受賞作。
ハーフエルフのミスラは、草原で暮らす「遊牧エルフ」の一族のなかに身の置きどころがない、つまはじきものの底辺姫。純血のエルフではないせいで婚約破棄の憂き目にあったミスラは、街に住む人間の錬金術師・アスランに嫁ぐことになったがー「連れてきた家畜、百頭しかいませんが…(遠慮)」「連れてきた家畜って…百頭もいるの!?(驚愕)」過酷な自然の中で自給自足の生活を送ってきたミスラと、都市で生きてきたアスランの常識はまったく噛み合わない。それでも二人は少しずつお互いのことを知り、助け合い、ゆっくりと幸せになっていく。エルフの花嫁を錬金術師の花婿が甘やかす、じれったくもやさしい、異文化交流新婚生活。
時は明治、那珂川二坊は文学で名をなさんとす。尾崎紅葉に師事すれど執筆がかなうのは小説どころか三文記事ばかり。この日も簡易食堂に足を運び、ネタを探して与太話に耳を傾けた。どうやら昨晩、かの徳川公爵邸に盗人が入ったらしい。蓋を開ければ徳川公にも家人にもこれと云った被害はなく、盗人は逃走途中に塀から落ちて死んだという不思議な顛末。酔客らは推論を重ねるが、「そりゃ違いますやろ」という声の主、福田房次郎が語り始めたのは、あっと驚く“真相”だった(「長くなだらかな坂」)。京都・奈良を繋ぐ法螺吹峠、ナチス勃興前夜のポツダム、魔都・上海ほか、那珂川の赴く地に事件あり、妖人あり!一人の作家の生涯と帝国の興亡を描き切った全五話の連作短編集。
東京地裁に勤める高遠寺円は、中国製のAI裁判官“法神2号”のテスト運用を担当することに。裁判のデータを入力すると、実際の判決文とほぼ同じものを弾き出すという驚くべき精度だった。多忙を極める裁判官にとってこれは大きな福音となる。歓迎ムードが高まる中、円は一人それを受け入れられずにいた。そんなとき、18歳少年による父親殺しが起きる。裁判長は、“法神”にシミュレートさせると言うがー。
中高年が主人公のショートストーリー集。-私の見てきた商売の裏側を、洗い浚い書いちゃおうと思うの。…今お偉いさんになっている連中が、実名で、ばんばん出てくるのよ。みんな、青くなるな、きっと…-夜の店のママが、客の行状を洗いざらいぶちまける回顧録を書いていると聞いて、やましいところのある元常連たちが“対策協議会”を開く「近火御見舞」をはじめ、妻の浮気が原因で別れたのに、浮気相手に捨てられると元夫に秋波を送る女性に振り回される「あとの祭」、社員からも恐れられ、“財界の狼”と異名をとる男が、ひょんなことから海辺の町の女性と出会い、心癒される「狼男」など、中高年男性を主人公にした17のショートストーリー。P+D BOOKS『曲り角』に続く、味わい深い短篇集。
東京で学生をしていた仲代庫男は空襲で焼け出され、列車で佐世保の実家へ向かう途上、同年輩の芹沢治子と出会う。長崎の浦上に住むという治子と庫男は文通を始めるが、“新型爆弾”により治子の消息は不明にー。一瞬にして未来を断たれた原爆被害者、日本人であることを強いながら差別される朝鮮人炭鉱労働者、敗戦前から英語の辞書を買い漁っていた抜け目ない同級生…戦争によって生まれたさまざまな矛盾や理不尽を、富国強兵の象徴であった旧佐世保海軍工廠250トン起重機(クレーン)になぞらえてあぶり出した名作。
平成末期の2019年、神奈川県警の元公安刑事・吾妻仁志が爆殺された。吾妻が生前追い続けていた過激派組織“日反”の関与が濃厚だという。爆弾闘争を繰り広げた日反は幹部らの中東逃亡や内部分裂を経て、事実上の休眠状態だった。なぜ今になって?平成元年の1989年、横総大の学生・沢木了輔は吾妻の命を受ける形で、同大の日反組織を監視していた。接近したのが日反幹部の娘とされる月原文目だ。沢木は文目とともに警視庁と合同で立案されたプロジェクトに深入りしていくも、悲劇とともに計画は頓挫した。改元前夜、血塗られた30年前の計画に、公安刑事となった沢木が分け入ると官邸、警察、過激派、それぞれの思惑が絡まった国家の陰謀が見えてきた。相次ぐ関係者の死、行方をくらました日反幹部の出現、そして裏切り…ノンストップで展開する新時代のハードボイルド、ここに完成!
著者七年ぶりの新作長編!直木賞受賞第一作 その年の七月、丸田君はスマホに奇妙なメッセージを受け取った。 現実に起こりうるはずのない言い掛かりのような予言で、彼にはまったく身におぼえがなかった。送信者名は不明、090から始まる電話番号だけが表示されている。 彼が目にしたのはこんな一文だった。 今年の冬、彼女はおまえの子供を産む これは未来の予言。 起こりうるはずのない未来の予言。 だがこれは、まったく身におぼえのない予言とは言い切れないかもしれない。 これまで三十八年の人生の、どの時代かの場面に、「彼女」と呼ぶにふさわしい人物がいるのかもしれない。 そもそも、だれが何の目的でこの予言めいたメッセージを送ってきたのか。 丸田君は、過去の記憶の断片がむこうから迫ってくるのを感じていた──。 三十年前にかわした密かな約束、 二十年前に山道で起きた事故、 不可解な最期を遂げた旧友…… 平凡な人生なんていったいどこにあるんだろう。 『月の満ち欠け』から七年、かつてない感情に心が打ち震える新たな代表作が誕生。読む者の人生までもさらけ出される、究極の直木賞受賞第一作!
バイクの自損事故現場で轢き逃げに遭った新人警察官の桐嶋千隼。病院で目を覚ますと、バイクの少年は死亡していた上、桐嶋はその責任を巡る訴訟を起こされてしまった。途方に暮れる桐嶋を訪れたのは、「県警の守護神」と呼ばれる弁護士資格を持つ異例の警察官・荒城。真実よりも勝利を求める強引なやり方に反発しつつも、訴訟に巻き込まれていく桐嶋だが、調査を進めるうち、訴訟は同日に起きた女性警察官発砲事案にも繋がっていきー。第二回警察小説新人賞受賞作。
芸に命を捧げる歌舞伎役者には、血も涙も汗も枝葉に過ぎない。女形の歌舞伎役者・二代目瀬川路京は人気低迷に足掻いていた。天に授けられた舞の拍子「神の音」が聞こえなくなっていたのだ。路京は座元と帳元の強い勧めもあり、現状打破のため、因縁の演目を打つことに。師匠の初代路京が舞台上で殺され、さらに瀬川家が散り散りになったきっかけの「母子月」だ。子役として己も出演した因縁の公演を前にして、初代殺しを疑われた者たちが集まってくる。真の下手人は誰なのか?初代はなぜ殺されてしまったのか?終幕に明かされる真相に涙を流さずにはいられない、感動の時代小説!
公爵家に嫁いだソフィーアは、夫・アランとある契約を結ぶ。それは『アランを愛さない』こと。彼には十歳になる義娘がいた。弟夫妻の子供で、両親ともに事故で亡くなったらしい。その母役としてソフィーアは抜擢されたのだが、彼は女性に興味がないようだ。ある日、ソフィーアは予知夢を見る。それは大人になった義娘・レベッカが断罪される姿。愛を受けずに育った彼女は、悪役令嬢になってしまったのだ。「なんて可哀想!」ソフィーアは破滅を回避するため、レベッカを溺愛し始める。すると、アランの可愛らしい一面も見えてきて…?
世界征服の実現に向けて着々と勢力を拡大する勇者アレンと魔王リリス。二人の元に、当代最強の魔王ルシファーから『七大罪会議』への招待状が届く。ルシファーの城で対峙する、最強格の七人の魔王と最強勇者、一触即発の空気の中、ルシファーの側近として現れたのは、元大魔王の妻で、消息不明だったリリスの母親キスキルだった。ルシファーとキスキルの真の狙いとは?世界征服最大の脅威を前に、リリスは限界を超えるべくさらなる力に手を伸ばすー最強勇者と最弱魔王のコンビが挑む、バトルファンタジー第二幕!
亡くなった年に発表された遺作短篇集。「もしも日本に帰れずに、かの地で死ぬようなことがあったら、私は必ず前歯にジェズスの教えのみしるしを刻みこんで置きます。」本家の敷地内から発見された壺の中から、365年前にマカオに流された先祖の“遺言”が発見された。遺骨の行方を捜しにマカオを訪れた千葉裕平は、亡くなった娘・由紀子に生き写しの女性、葉銘蓮と出会う。果たして、“みしるし”を刻んだ遺骨は見つかるのか、そして葉銘蓮の正体はー。マカオへの幻のような旅を綴った表題作に、八甲田山雪中行軍の外伝「生き残りの勇士」、イギリス公使オールコックが外国人として初めて富士山頂に立った顛末を描く「富士、異邦人登頂」など8篇を収録した短篇集。亡くなった年に出版された遺作のひとつ。
小説と随筆をシームレスにつなぐ小沼の世界。「グリイン・コオチと云ふ緑色の長距離バスがあつて、それを利用して娘と小旅行した。このバスは倫敦を出ると田園風景のなかを走る。巨きな樹立の続く竝木路とか、緩かな起伏を持つ牧場、森蔭に覗く町の教会の尖塔…そんなものを見てゐるだけで愉しかつた。」早稲田大学の在外研究員として半年間ロンドンに滞在した経験から書かれた表題作のほか、江戸時代にロシアに漂着したある日本人が、現地で日本語教師として活動し、ついには世界初の露日辞典まで編纂したという史実に基づいた「ペテルブルグの漂民」、師と仰ぐ井伏鱒二ら文学仲間との東北旅行を描いた「片栗の花」など、小説と随筆を取り混ぜて11篇収録。旧仮名遣いながら、ユーモアを交えた流れるような文章で、読者を小沼ワールドに誘い込む。
高校時代から社会主義運動に興味を持っていた著者は、運動の仲間と中国東北部などを転々とする。その途上で女児を産むが、母子ともに栄養失調だったため、子どもは間もなく死亡ー。金持ちが優遇され、そうでない者は薬すらもらえないという現実を記した出世作「施療室にて」に、重い腹膜炎で入院中の左翼活動家が、思想犯として逃亡していた夫の無事を祈りつつ、それよりも切実に自らの生還を願う第1回女流文学者賞受賞作品「こういう女」をカップリング。
ボストンマラソンの会場で、偶然古びた日記を受け取った新米駅伝監督・成竹と学生ナンバーワンランナー神原。それは、戦時下に箱根駅伝開催に尽力したとある大学生の日記だった。過去を覗いた二人が思い知ったのは、美談でも爽やかな青春でもない、戦中戦後の彼らの壮絶な軌跡。そこには、「どうしても、箱根駅伝を走ってから死にたい」という切実で一途な学生達の想いが溢れていた。現代の「当たり前」は昔の人々が死ぬ気で勝ちとってきた大会と知った彼らは…。そして、戦時下の駅伝を調べる彼らに起きた、信じられないような奇跡とは。先人達の熱い想いが積み重なり、第100回箱根駅伝は開催される。戦中に開催された「幻の箱根駅伝」と「最後の箱根駅伝」、そして戦後の「復活の箱根駅伝」。箱根を走ることに命を賭けて挑み散っていった青年達の熱い想い、青春を令和の現代と交錯させて描く。
衝撃の巨大自動車企業小説、ついに完結! 「99%が真実」という噂で書店から本が消えた!? 気鋭の経済記者が「覆面作家」となって、初めて書くことができた「世界一の自動車メーカー」禁断の真実。あまりに詳しすぎる内部情報や関係者しか知らない極秘ネタを小説に偽装したノンフィクションではないか……そう噂され、発売と同時にベストセラーとなった超問題作『トヨトミの野望』と続編『トヨトミの逆襲』。その「完結作」がついに発売! 世界中を襲った未曾有のパンデミックのなか、巨大自動車会社トヨトミも待ったなしのEV(電気自動車)シフト転換を迫られていた。しかし、販売ディーラーの相次ぐ「不正事件」や持ち株比率たった2%の創業家の「世襲問題」など暗雲が垂れ込める。カギを握るのは“トヨトミの母”と呼ばれる元女優の謎の老女。彼女がひた隠す「豊臣家の秘密」とは──。 「本書の内容のどこまでが事実でどこまでがフィクションなのか。これについて、巨大自動車企業に極めて近い経営者は99%が事実と私に言い切った」(夏野剛氏、『トヨトミの野望』文庫版解説より)綿密な取材をもとに描き、経済界を震撼させてきたトヨトミシリーズ。 その“衝撃のラスト”を見逃すな!