出版社 : 岩波書店
高齢のヴィルヘルミーネを介護するために、ロシアからドイツにやってきた二十三歳のイェリザヴェータ。二人の人生には、第二次世界大戦の「爪痕」が生々しく遺されていた。ある日、一本の電話をきっかけに、その戦争の記憶がうごめきだすー。過去と現在を往還する、息詰まる心理劇。
シャトー・ディフから脱獄し、ファリア司祭から知らされたモンテ・クリスト島の宝を手に入れたダンテスは、遠大な計画の実行にかかった。モンテ・クリスト伯の名が社交界に高まり、次々とふしぎな事件やエピソードが生まれてゆく。達意の文章と複雑な構想を駆使したこの物語は、いよいよ佳境に入る。
代表作「夫婦善哉」に、二〇〇七年に発見された「続 夫婦善哉」をあわせて“正続”とし、その他、芥川賞候補作「俗臭」、作者が「或る意味で私の処女作」という「雨」、あるいは伝説の棋士坂田三吉を主人公にした「聴雨」など、織田作之助(一九一三ー四七)のおもに戦中期の代表的短篇を収録する。
敗戦直後の淡路島を舞台に、軍事教育から民主主義教育に一転する中、野球を通して民主主義を学ばせようとする女性教師と子供たちのふれあいを描いた阿久悠の代表作。野球との新鮮な出逢い、歌を自由に歌えるよろこび、少年たちの仲間への思いやりと友情、ほのかな初恋が少年たちの目を通して生き生きと描かれている。後に、映画化されて多くのファンを魅了した作品。
二百年の長い間、世界各国で圧倒的な人気をあつめてきた『巌窟王』の完訳。無実の罪によって投獄された若者ダンテスは、十四年間の忍耐と努力ののち脱出に成功、モンテ・クリスト島の宝を手に入れて報恩と復讐の計画を着々と進めてゆく。
ポール・ボウルズによる注釈魚が魚を食べる夢を見た男 アフマド・ヤアクービーゲーム アフマド・ヤアクービー昨夜思いついたこと アフマド・ヤアクービー三つのヒカーヤ:臆病,愚鈍,貪欲 アブドゥッサラーム・ブライシュトラック運転手ウマル アブドゥッサラーム・ブライシュ異父兄弟 ラルビー・ライヤーシー竪琴 ムハンマド・ムラーベトル・フェッラーフ ムハンマド・ムラーベト狩猟家サイヤード ムハンマド・ムラーベト黒い鳥 ムハンマド・ムラーベト蟻 ムハンマド・ムラーベト衣装箱 ムハンマド・ムラーベト解説 四方田犬彦創作と翻訳ーー訳者あとがきに代えて 越川芳明
パリのゲルマント館の一翼に引っ越した一家。家主の公爵夫人は神秘の輝きを放つ貴婦人。その威光にオペラ座で触れた「私」は、コンブレー以来の夢想をふくらませ、夫人の甥のサン=ルーを兵営に訪問、しだいに「ゲルマンのほう」へ引き寄せられる。
「人生に意味などない」-こう達観した文学者モーム自身の人生には、幾多の「謎」がある。モームが愛した女性、そして男性とは誰か。結婚から離婚に至る実態とは。スパイだったのは本当か。晩年に襲ったスキャンダルとは。モーム作品を愛する著者が、作品を改めて読み解き、新資料も用いつつ書き下ろした全一二章。岩波現代文庫オリジナル版。
『水沫集』より、ドイツ留学体験を下敷きとした初期作品、「うたかたの記」「舞姫」「文づかひ」のいわゆる“ドイツ土産三部作”。他、自身の家庭問題を描いたかといわれる「半日」、掲載誌が発禁処分を受けた「ヰタ・セクスアリス」等の単行本未収録作品。全九篇を収録。
ノーベル賞作家莫言の代表作で、五つの連作中篇からなる長篇小説『赤い高粱』の後半三篇を収録。日中戦争下の中国山東省高密県東北郷。日本軍を奇襲した祖父らだったが、その報復により村は壊滅するー。共産党軍、国民党軍、傀儡軍、秘密結社がからむ生と死、性と愛、血と土、暴力と欲望の凄烈な物語。
日本の近代演劇運動にも深くかかわった鴎外。その創作戯曲及び、未完に終わった長編小説等、先駆的試みの数々。戯曲及び対話形式の小品を集めた単行本『我一幕物』収録の多様な作品のほか、長編近代小説のうち、唯一未完に終わった「灰燼」等、全十篇を収録。
地獄変の屏風絵を画くために娘に火をかける異常の天才絵師が描いた「地獄変」、映画「羅生門」で一躍世界に名を馳せた「藪の中」などの表題作のほかに、「道祖問答」「六の宮の姫君」「二人小町」などを収める。王朝物とよばれるこれらの作で、芥川は古い物語の中の人物を見事に近代に蘇らせた。
「裏に一本の柘榴の木があって、不安な紅い花を点した」(小川未明「薔薇と巫女」)。何を視、どう伝えるのかー日露戦後の新機運のなか、豊饒な相克が結ぶ物語。明治三八ー四四年に発表された、漱石・荷風・谷崎らの一六篇を収録。
第三輯 序 1 不屈の恋 2 女房のものを見誤った法官 3 テュルプネー僧院の輝かしきアマドール修道士 4 悔い改めしベルト 5 如何にしてポルティヨンの美しき娘が裁判官を遣り込めしか 6 幸 運が常に女神の姿をして居ることの証左 7 古き羊皮紙という名の齢老いたる道を経巡る男 8 三人の巡礼者の戯けた言辞 9 天真爛漫 10 結婚せし美しきイムペリア 跋 解 説 訳者あとがき 文庫版あとがき 付 録 系図 地図
存在の悲しみに膝を屈し孤絶と諦念に生きる中年の「私」。その静かすぎる日常に不思議な裂け目となって襲いかかるさまざまな死。死を生きるかのような「私」と死してなお響く彼らの声。生者と死者の交錯の果てに待ち受けていた奇跡は「私」を再生へと導くかー。独自の小説世界を疾走する作家が満を持して放つ書き下ろし中篇連作。
模索と発見の小説黎明期。違和感も陶酔も、いま触れるすべてが新しい。明治二二年から三五年に発表された、逍遙・鴎外・一葉・鏡花らの一二編を収録。
第二輯 序 1 三人連れのサン=ニコラの代訴人見習 2 フランソワ一世陛下のご禁欲 3 ポワシーの修道女たちの楽しき夕べの語らい 4 アゼ=ル=リドー城館由来記 5 偽りの娼婦 6 事知らずも程々に 7 明日なき恋の一夜 8 ムードンの司祭の最後のお説教 9 淫夢魔裁判録 10 望みなき恋 跋 付 録 系図 地図
第一輯 序 1 美姫イムペリア 2 贖い能う罪 3 陛下の愛妾 4 悪魔の相続人 5 ルイ十一世陛下のご遊楽 6 大元帥夫人 7 ティルーズのおぼこ娘 8 剣に誓いし友 9 掛け替えなきアゼ=ル=リドーの主任司祭 10 咄嗟の機転 跋 付 録 系図 地図