出版社 : 岩波書店
16世紀のオーストリアの小村に、ある日忽然と美少年が現われた。名をサタンといった。村の3人の少年は、彼の巧みな語り口にのせられて不思議な世界へ入りこむ…。アメリカの楽天主義を代表する作家だといわれる作者が、人間不信とペシミズムに陥りながらも、それをのりこえようと苦闘した晩年の傑作。
事件の衝撃から立直れないラスコーリニコフは、心配してくれる家族や友人にも、警戒と不信を抱き続ける。妹の婚約をめぐって悶着を起こし、殺人事件の捜査官と薄氷の渡り合いを繰広げる一方で、心の清らかなソーニャとの交流が次第に深まってゆく。
その年、ペテルブルグの夏は長く暑かった。大学もやめ、ぎりぎりの貧乏暮らしの青年に郷里の家族の期待と犠牲が重くのしかかる。この悲惨な境遇から脱出しようと、彼はある「計画」を決行するが…。世界文学に新しいページをひらいた傑作。
渋江抽斎(1805-58)は弘前の医官で考証学者であった。「武鑑」収集の途上で抽斎の名に遭遇し、心を惹かれた鴎外は、その事跡から交友関係、趣味、性格、家庭生活、子孫、親戚にいたるまでを克明に調べ、生きいきと描きだす。抽斎への熱い思いを淡々と記す鴎外の文章は見事というほかない。鴎外史伝ものの代表作。改版。
ササーン朝ペルシャがアラブの侵攻で倒れて三百数十年、11世紀初めにアラブ中央政権に対抗して書かれたペルシャ民族高揚の叙事詩ー神話・伝説・歴史時代の三部構成からなるペルシャ建国の物語。今も、誰でもその一節を暗誦することができる、と言われるほどイランの人々に愛されている『王書』からその名場面を抄訳。
焦土と化した戦後ポーランドの混沌とした状況を四日間の出来事に凝縮して描く長篇小説。ヨーロッパ戦線が実質上終結していた1945年5月5日、ワルシャワ南部の地方都市で党幹部と誤認された労働者が反革命テロ団により射殺される事件がおこった。
その三日後の5月8日、テロ団の一員マーチェクは、党の大物シチューカの暗殺を決行するが、街頭で保安隊のパトロールに出会い、射殺された。この日は、ドイツ軍司令部代表が無条件降伏の正式文書に調印した日であった…。ワイダの同名の映画の原作。
20世紀のほとんどを生きた、私たちと同時代の作家野上弥生子(1885-1985)。『真知子』『迷路』『森』などの骨太な長篇小説でしられる野上弥生子は、また、克明な観察力と鍛えぬかれた描写力による確かな人間造形が際立つ、練達の短篇作家である。「或る女の話」「哀しき少年」「明月」「狐」など、秀作7篇を編年順に収録。
「カフカ伝説」といったものがある。世の名声を願わず、常に謙虚で、死が近づいたとき友人に作品一切の焼却を依頼したカフカー。だが、くわしく生涯をみていくと、べつの肖像が浮かんでくる。一見、謙虚な人物とつかずはなれず、いずれ自分の時代がくると、固く心に期していたもの書きであって、いわば野心家カフカである。