出版社 : 岩波書店
全篇ことごとく神仙、狐、鬼、化け物、不思議な人間に関する話。中国・清初の作家蒲松齢(1640-1715)が民間伝承から取材、豊かな空想力と古典籍の教養を駆使した巧みな構成で、怪異の世界と人間の世界を交錯させながら写実的な小説にまさる「人間性」を見事に表現した中国怪異小説の傑作。今回、92篇を精選して新訳。
「エリック、なんて変ったんでしょう」ともに少年期を過ごした館に帰り着いたエリック、コンラートのふたりを迎えたのはコンラートの姉ソフィーだった。第一次世界大戦とロシア革命の動乱期、バルト海沿岸地方の混乱を背景に3人の男女と愛と死のドラマが展開する。フランスの女流作家ユルスナール(1903-87)の傑作。
東京から北越の温泉に出かけた「私」は、ふとしたことから、「繁華な美しい町」に足を踏みいれる。すると、そこに突如人間の姿をした猫の大集団が…。詩集『青猫』の感覚と詩情をもって書かれたこの「猫町」(1935)をはじめ、幼想風の短篇、散文詩、随筆18篇を収録。前衛詩人としての朔太郎(1886-1942)の面目が遺憾なく発揮された小品集。
バースの女房の話 托鉢僧の話 召喚吏の話 学僧の物語 貿易商人の話 近習の物語 郷士の物語 医者の物語 免罪符売りの話 船長の話 尼僧院長の物語 トパス卿の話 メリベウスの物語 訳 注
ドアの由来 ハイド氏を探せ 泰然としたジーキル博士 カルー殺害事件 手 紙 の 話 ラニョン博士の身に生じたこと 窓辺の出来事 最 後 の 夜 ラニョン博士の手記 本事件に関するヘンリー・ジーキルの完全な陳述書 略 年 譜 あとがき 訳 注
三十三年余の短い一生に、珠玉の光を放つ典雅な作品を残した中島敦(1909-42)。近代精神の屈折が祖父伝来の儒家に育ったその漢学の血脈のうちに昇華された表題作をはじめ、『西遊記』に材を取って自我の問題を掘り下げた「悟浄出世」「悟浄歎異」、また南洋への夢を紡いだ「環礁」など、彼の真面目を伝える作品11篇を収めた。
所はのどかなハーフォードシア。ベネット家には五人の娘がいる。その近所に、独身の資産家ビングリーが引越してきた。-牧師館の一隅で家事の合間に少しずつ書きためられたオースティン(1775-1817)の作品は、探偵小説にも匹敵する論理的構成と複雑微妙な心理の精確な描出によって、平凡な家庭の居間を人間喜劇の劇場に変える。
オースティンにとっては「田舎の三、四軒の家族こそが小説の恰好の題材」なのだという。ベネット一家を中心とする恋のやりとりを描いたこの作品においても、作者が最も愛したといわれる主人公エリザベスを始めとして、普通の人々ひとりひとりの個性が鮮やかに浮かび上がる。若さと陽気さと真剣さにあふれた、家庭小説の傑作。
薔薇色のレースに彩られた寝室の中、女はベッドに横たわり、姿見に映る美しい青年の姿をみつめているー。五十歳を迎えようとする元高級娼婦と、シェリ(いとしい人)と呼ばれる親子ほども年の違う若者との息詰まるような恋。ジッドが「一か所として軟弱なところ、冗漫な文章、陳腐な表現もない」と賛嘆したコレットの最高傑作。
夢と現実のあわいに浮び上る「迷宮」としての世界を描いて、二十世紀文学の最先端に位置するボルヘス(一八九九ー一九八六)。本書は、東西古今の伝説、神話、哲学を題材として精緻に織りなされた彼の処女短篇集。「バベルの図書館」「円環の廃墟」などの代表作を含む。
過去を思わず未来を怖れず、ただ「この一瞬を愉しめ」と哲学的刹那主義を強調し、生きることの嗟嘆や懐疑、苦悶、望み、憧れを、平明な言葉・流麗な文体で歌った四行詩の数々。十一世紀ペルシアの科学者、オマル・ハイヤームのこれらの詩は、形式の簡潔な美しさと内容の豊かさから、ペルシア詩の最も美しい作品として広く愛読されている。
戦争で片脚を失い竹細工職人として寡黙に生きた父。美しいが土地の言葉を話さず、よそよそしかった母。いじめられた少年時代の孤独な日々の思い出。そして反権力を叫んだ紛争世代の決定的な裏切りの記憶。弱者としての自分を切り捨て、外資系企業の有望な管理職を務めるまでに十分な生き方を手に入れていた納屋増夫が、大学医学部のスターと謳われる旧知の男と再会した時、その華やかな転身と裏切りは許しがたいものとして映った…。