出版社 : 岩波書店
一度目をかわしただけで恋におちた学生と少女が、歳月をへだてて、それぞれ外科医師と患者の貴婦人として手術室の中で再会し、愛に殉ずるー鏡花文学の原型をもっともよく示すこの「外科室」をはじめとする初期の代表作集。他に「義血侠血」(「滝の白糸」の原作)「夜行巡査」「琵琶伝」「化銀杏」「凱旋祭」を収録。
「あなたも学校の先生におなりで。素行不良で退学の学生さんは大半がそうですから」。学友の乱痴気パーティに巻きこまれ、あげくに放校処分をくらってしまったポール・ペニーフェザー君。わけ知り顔の門番の言葉におくられ、教職斡旋所の門をくぐるが…。かくして我らが主人公の多事多難な人生航路が始まる。絶妙のユーモア小説。
八十万年後の世界からもどってきた時間旅行家が見た人類の未来はいかなるものであったか。衰退した未来社会を描きだした「タイム・マシン」は、進歩の果てにやってくる人類の破滅と地球の終焉をテーマとしたSF不朽の古典である。他に「水晶の卵」等9篇収録。
ヴッツ先生は貧しくて本が買えない。そこで有名な本の題名だけを拝借しては勝手に著述し、それをわが蔵書の棚に並べて満足感にひたりこむ。ささやかな喜びを糧に人生をおくる平凡な小学校教師の姿を、ジャン・パウル(1763-1825)はユーモアとアイロニーたっぷりに描きだす。ドイツ散文芸術の大先達とたたえられる作者の傑作2篇。
アンデルセンが憧れの国イタリアを舞台にくりひろげた愛の物語『即興詩人』は、鴎外の格調高い文章によって紹介されて以来、広く人々の心を捉えつづけてきた。翻訳文学の傑作であり、明治文学史上記念すべき作品である。
原作が童話集ほどの名声を得なかったにもかかわらず、日本において今なお多くの読者をかちえ続けているのは、いつに鴎外の名訳にあることはいうまでもない。自由自在の語法と華麗でリズミカルな文章によって醸し出されるロマン的雰囲気は遙かに原作を凌ぎ、その後の日本文学に多大の影響を与えた。
長篇小説の国フランスでもいま短篇小説が注目されつつある。作家たちは「フィクション芸術のエッセンス」とよばれるにふさわしい表現を目ざして芸を競い、おのれのエスプリを証明する場として短篇を書くのだ。本書所収のリラダン、アポリネール、デュラスら、世紀末から現代にいたる作家たちの技の競演。
蒼茫と暮れゆく海上,その薄暗い水面にふっと現れてはまた消える細長いもの…。不審に思った釣客が舟をよせるとー。ほかに「骨董」「魔法修行者」など、晩年の傑作5篇をあつめた。
故郷小田原の風土に古代ギリシアやヨーロッパ中世のイメージを重ね合わせ、夢と現実を交錯させた牧野信一の幻想的作品群。表題作の他に「鬼涙村」「天狗洞食客記」等の短篇8篇と「文学的自叙伝」等のエッセイ3篇を収める。
収録作品 父 酒虫 西郷隆盛 首が落ちた話 蜘蛛の糸 犬と笛 妖婆 魔術 老いたる素戔嗚尊 杜子春 アグニの神 トロッコ 仙人 三つの宝 雛 猿蟹合戦 白 桃太郎 女仙 孔雀
チェコスロヴァキアにおけるスターリン時代の人権侵害を事実にもとづいて告発したこの短篇集が1963年に刊行されると、全世界に重い衝撃をもたらし、作者は亡命生活を余儀なくされた。激動する現在の東欧問題を理解するために、まず再読されるべき名著。
主人公ティルが放浪者・道化師あるいはもぐりの職人となって教皇・国王から親方連までさまざまな身分の者たちを欺きからかい、その愚かさを暴いて哄笑をまきおこす。500年余も読みつがれてきたこの作品はいまも諷刺の力を失っていない。中世ドイツ語原典の翻訳に気鋭の社会史家ならではの詳注を加えた。図版多数。