出版社 : 岩波書店
夢と現実のあわいに浮び上る「迷宮」としての世界を描いて、二十世紀文学の最先端に位置するボルヘス(一八九九ー一九八六)。本書は、東西古今の伝説、神話、哲学を題材として精緻に織りなされた彼の処女短篇集。「バベルの図書館」「円環の廃墟」などの代表作を含む。
過去を思わず未来を怖れず、ただ「この一瞬を愉しめ」と哲学的刹那主義を強調し、生きることの嗟嘆や懐疑、苦悶、望み、憧れを、平明な言葉・流麗な文体で歌った四行詩の数々。十一世紀ペルシアの科学者、オマル・ハイヤームのこれらの詩は、形式の簡潔な美しさと内容の豊かさから、ペルシア詩の最も美しい作品として広く愛読されている。
戦争で片脚を失い竹細工職人として寡黙に生きた父。美しいが土地の言葉を話さず、よそよそしかった母。いじめられた少年時代の孤独な日々の思い出。そして反権力を叫んだ紛争世代の決定的な裏切りの記憶。弱者としての自分を切り捨て、外資系企業の有望な管理職を務めるまでに十分な生き方を手に入れていた納屋増夫が、大学医学部のスターと謳われる旧知の男と再会した時、その華やかな転身と裏切りは許しがたいものとして映った…。
胸に赤いAの文字を付け、罪の子を抱いて処刑のさらし台に立つ女。告白と悔悛を説く青年牧師の苦悩…。厳格な規律に縛られた17世紀ボストンの清教徒社会に起こった姦通事件を題材として人間心理の陰翳に鋭いメスを入れながら、自由とは、罪とは何かを追求した傑作。有名な序文「税関」を加え、待望の新訳で送る完全版。
ペドロ・パラモという名の、顔も知らぬ父親を探して「おれ」はコマラに辿りつく。しかしそこは、ひそかなささめきに包まれた死者ばかりの町だった…。生者と死者が混交し、現在と過去が交錯する前衛的な手法によって、紛れもないメキシコの現実を描出し、ラテンアメリカ文学ブームの先駆けとなった古典的名作。
隅田川の中洲に理想の町をつくろうとして挫折する奇妙な男たちの物語「美しき町」、“夢見心地になることの好きな人々の為めの短篇”「西班牙犬の家」など、選り抜きの8篇を収録。芥川・谷崎と共に大正文学を代表する早熟の天才詩人・作家佐藤春夫の、上質の酒の酔い心地のような、小説を読む楽しさを満喫させる短篇集。
日常の中に突如ひらける怪異な世界を描いて余人の追随を許さない百間文学。後期の傑作七篇を収録。水が電車道にあふれだした日比谷交叉点を牛の胴体より大きな鰻がぬるぬると這ってゆく描写に始まる連作短編「東京日記」をはじめ、「白猫」「長春香」「柳撿挍の小閑」「青炎抄」「南山寿」「サラサーテの盤」を収録 (解説 川村二郎)
夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。