出版社 : 岩波書店
泥沼の前線から呼び戻され、軍需物資あふれる闇市場の調査に歩く韓国軍兵士安栄奎、解放戦線に志願し、恋人と別れて山に入るベトナム人学生ファン・ミン。2人の若いアジア人の目の前に交錯する、生と死、謀略、野望、狂気、阿片、そして革命と統一…。自ら海兵隊員として参戦した体験のある黄晢暎が放つ、80年代韓国の大ベストセラー長編小説。
敗戦直後の荒廃した世情のなかで、深い倦怠と疲労に自身の老いを自覚する信吾。老妻や息子夫婦と起居をともにしながら孤独を感じさせられる家庭にあって、外に女をもつ長男の嫁菊子に対する信吾の哀憐の情は、いつしかほのかな恋にも似た感情に変わってゆく。その微妙な心のひだをとらえた戦後川端文学の傑作。
平凡無垢な青年ハンス・カストルプははからずもスイス高原のサナトリウムで療養生活を送ることとなった。日常世界から隔離され病気と死が支配するこの「魔の山」で、カストルプはそれぞれの時代精神や思想を体現する数々の特異な人物に出会い、精神的成長を遂げてゆく。『ファウスト』と並んでドイツが世界に贈った人生の書。
理性を尊び自由と進歩を唱導するセテムブリーニ。テロと独裁によって神の国を実現させようとする非合理主義者ナフタ。2人に代表される思想の流れはカストルプの魂を奪おうと相争うが、ある日雪山で死に直面したカストルプは、生と死の対立を超えた愛とヒューマニズムの道を認識する。人間存在のあり方を追求した一大教養小説。
冬の桑名の月の夜、うどん屋の店先で酒をあおる旅芸人若者は、なぜか夜空に響く按摩の笛に怯えている。やがておかみを前に3年前の因縁話を語りはじめた同じその頃、旅屋湊屋では、芸妓お三重が旅の二老人に薄倖な身の上を明かしていた。二つの語りの交錯が幽艶な陶酔境を現出する鏡花一代の傑作。
この『唐宋伝奇集』は、中国でいう「古小説」のうち、唐、宋の、いわゆる「伝奇」(伝奇物語)から選択して翻訳し、注をつけたものである。この下巻には、唐代中期から唐代末期、五代を経て宋代までの代表的な作品を選んだ。
1945年以降1970年代までの韓国文学の傑作を精選した初の本格的選集。朝鮮戦争の体験による虚無主義の色濃い50年文学、四月革命の主体となった世代による60年代の社会参与文学、急激な経済成長の裏で疎外される農民・労働者をメインテーマとする70年代文学-骨太なユーモアに満ちた政治諷刺の作品から軽妙なタッチで小市民の暮らしを描く作品まで、本邦初訳6篇を含む19篇の傑作短篇を収録。
信じ切っていた友に裏切られ、人も世も神も呪う世捨て人となったサイラスの唯一の慰めは金だった。だがその金も盗まれて絶望の淵に沈んだ彼に再び生きることの希望を与えたのは、たまたま家に迷いこんできた幼児エピーの無心な姿だった。「大人のためのおとぎ話」として広く愛読されてきたエリオット(1819-80)の名作。
『南柯の一夢』の主人公は官僚を嘲笑する自由人である。そういう男が役人になって栄達の限りをつくし、得意と失意をたっぷりと味わう。味わったところで夢からさめ、槐の根もとを堀るとどうだろう、夢みたとおりの小さな蟻の王国があったのだ゛唐代伝奇の面白さは、幻想を追っているようで実は深く現実の人間の本質をついているところにある。
桃園で供物をととのえた3人は、再拝して誓いの言葉を述べる。「ここに劉備、関羽、張飛の3人、兄弟の契りを結び、心を一つにして力を合わせ、苦難にあい危険にのぞむものを救けて、上は国家の恩にむくい、下は民草を安らかにしたい」と。
洛陽に還御した天子は、衰微している漢室を救えるのは山東にいる曹操以外にないと勅命を下し彼を招聘した。精兵20万を率いて入洛した曹操ではあったが、やがて帝を奉じて都を許都に移し、権力をことごとくわが手に収めてしまった。
冬のさなか、劉備は諸葛孔明の教えを乞おうと臥竜山にむかったが、二度とも会うことができない。年改まったある吉日、三たび孔明をたずねた。劉備の、世の乱れを憂える真情と「三顧の礼」に応えて孔明は、彼とともに新野に出、天下の形勢を論じることとなった。
鬼神不測の術をもつ諸葛孔明は、七星壇を築いて東風を祈り、孫権と劉備の率いる呉・蜀連合軍は、折から吹き出した風に乗じ火攻めによって曹操の水軍を焼き払う。これぞ赤壁の戦いである。敗走に敗走を重ねた曹操は、関羽の義にすがって逃げのびた。
一たんは魏王の爵位を受けた曹操であったが、奇策を駆使する孔明の前に敗色濃く遂に漢中を捨てた。それを見るや諸侯もすべて降伏。蜀の勢いは大いに上り、「わが君はおん年五十をこえ、仁義のほまれ高く」と孔明、劉備に皇帝の位につくことをすすめる。
曹操の策略に落ち入り、さしもの豪傑関羽も落命。だが曹操の夢には夜毎に関羽が現れ病篤く、跡を曹丕に托して死を迎える。張飛は部下の恨みを買って寝首をかかれ、劉備もまた二弟の亡霊が自分を招いているのを見て、死の近いことをさとるのだった。
南中を平定し成都に還った孔明は、劉禅を擁し中原の地をうかがうが、戦況はかばかしからず病も重い。弟子に自分の亡き跡を細かく指示して息絶える。それを知った司馬懿は進軍する。だが車に孔明の木像が端座しているのを見、仰天して逃げ出してしまうのだった。
蜀、魏、呉の創業の英雄たち、劉備、関羽、張飛、孔明、曹操、孫権らはすでに亡く、2代目以降の守成の時代となるやその活力の低下は苦しい。やがていずれも晋の皇帝司馬炎の軍門に下り天下は統一された。太唐元(西暦280)年のことである。
イスラム世界の民話・伝説が奔放不羈な空想の翼に乗って燦然と花開いた物語の饗宴アラビアン・ナイト。千と一夜にわたってシャハラザードが繰り広げる綺談のアラベスクは歓喜と陶酔の夜へとあなたをいざなう。文学的香り高いマルドリュス版の完訳。
バグダードの床屋、自称「沈黙家」が、生来の詮索好きから、恋にやせ細った若者をさんざん悩ませたあげく、自分がいかに慎み深く口数が少ないか、6人の兄を引合いにとうとうと語りだす「仕立屋の話」はまさに抱腹絶倒の面白さ。シャハラザードの話術が冴える。