出版社 : 岩波書店
現実界を超え、非在と実在が交錯しあう幻視の空間を現出させる鏡花の文学。その文章にひそむ魔力は、短篇においてこそ、凝集したきらめきを放ってあざやかに顕現する。そうした作品群から、定評ある『竜潭譚』『国貞えがく』をはじめ、絶品というべき『二、三羽ー十二、三羽』など9篇を選び収める。
母を常磐津の師匠に、伯父を俳諧の宗匠に特つ中学生長吉の、いまは芸妓になった幼馴染お糸への恋心を、詩情豊かに描いた『すみだ川』。また花柳界に遊んだ作者が、この世界の裏面をつぶさに見聞しみずからも味わった痛切な体験を、それぞれ独立した小篇に仕立ててなった『新橋夜話』のほか、『深川の唄』を加えて1冊とした。
短篇小説の面白さは人生のある局面を鋭く鮮やかに切りとって見せる、その技の冴えにあるといってよい。そういう実作にこと欠かぬ現代イギリスの傑作短篇から23篇を選りぬいておとどけする。上巻に収めたのはフォースター、ウルフ、ジョイス、ロレンスなど12人の代表作。どの1篇にも短篇の妙味をたっぷり味わうことができる。(全2冊)
どんな不幸にも決しておおらかな気持を失わず、馬鹿がつくほどの正直者で他人のためにただ働きばかりしているお人好しの老婆。無限のいつくしみをもって描かれたこの『マトリョーナの家』の主人公の姿には「古き良きロシア」のすべてがぬり込められている。ほかに『クレチェトフカ駅の出来事』『公共のためには』など珠玉の3篇。
コゼットとジャン・ヴァルジャンは青年マリユスの前から消えた。落胆にしずむマリエス。だがある日、隣部屋にすむ怪しげな一家の様子をそっとうかがう彼の目の前に思いがけずも2人が姿を現わした。そして2人を陥れようと悪事をたくらむこの一家の正体とは…
1832年6月5日、パリの共和主義者は蜂起した。激しい市街戦が展開する。バリケードにたてこもった人々の中にはマリユスとジャン・ヴァルジャン、そして今やスパイとして捕われたジャヴェルの姿があった。物語はいよいよ大詰にむかって進展する。
貧しさにたえかねて一片のパンを盗み、十九年を牢獄ですごさねばならなかったジャン・ヴァルジャン。出獄した彼は、ミリエル司教の館から銀の食器を盗み出すが、神のように慈悲ぶかい司教の温情を翻然として彼を目ざめさせる。原書挿絵二百枚を収載。
軍艦から海中に身を投じて巧みに官憲の目をくらましたジャン・ヴァルジャンは、コゼットの前に姿を現わし、彼女を悪辣なテナルディエ夫婦のもとから救い出す。2人はパリの一画に身をひそめるが、執拗なジャヴェル警視の追及の手はついにここにものびてきた。
廃墟と化した戦後の町で、現代の死神が作家の“私”に語ったのは…。ユニークな設定の表題作以下、第2次大戦下の言語に絶する体験を、作者は寓話・神話・SF・ドキュメントなど様々な文学的手法をかり、11篇の物語群としてここに作品化した。戦後西ドイツに興った新しい文学の旗手ノサックの出世作。