出版社 : 岩波書店
夢 十 夜 文 鳥 永日小品 元日/蛇/泥棒/柿/火鉢/下宿/過去の匂い/猫の墓/暖かい夢/印象/人間/山鳥/モナリサ/火事/霧/懸物/紀元節/儲口/行列/昔/声/金/心/変化/クレイグ先生 解 説 阿 部 昭 注 解 古 川 久(編)
金への妄執にとりつかれた少年の悲劇を寓話風に物語る「木馬の勝者」、夫を小気味よくあしらう若い女房の姿を軽妙なタッチで描いた「女房のたくらみ」など8篇を収める。リズムと色彩感あふれる文章にのったスピーディな筋運び、たくまざるユーモア。この一群の短篇に、読者はロレンスの思いがけない新鮮な像を見出すに違いない。
柿内園子は天王寺の技芸学校で徳光光子と知りあい、二人はやがて激しい同性愛におちいる。そして、ある事件を契機に夫の柿内も光子と…。上方言葉による女性の独白というスタイルで、女性心理の微妙な陰翳を写しとったこの長篇は、同性愛に託して人間存在の不安定性を見事に描き出している。
幼な子の昔、亡き母が唄ってくれた手毬唄。耳底に残るあの懐かしい唄がもう一度聞きたい。母への憧憬を胸に唄を捜し求めて彷徨する青年がたどりついたのは、妖怪に護られた美女の棲む荒屋敷だった。毬つき唄を主軸に、語りの時間・空間が重層して、鏡花ならではの物語の迷宮世界が顕現する。
「影をゆずってはいただけませんか?」謎の灰色服の男に乞われるままに、シュレミールは引き替えの“幸運の金袋”を受け取ったがー。大金持にはなったものの、影がないばっかりに世間の冷たい仕打ちに苦しまねばならない青年の運命をメルヘンタッチで描く。
回教徒軍の若い隊長に思いをよせる女の告白をきき、嫉妬と欲望に狂い悶えるバラモン僧は、呪法の力で女と己れを犬に化身させ、肉欲妄執の世界におぼれこむ。ユニークな設定を通し、人間の愛欲のもつ醜悪さを痛烈にえぐり出した異色作「犬」に、随筆「島守」を併収。著者入朱本に拠り伏字を埋めた。
平穏な日常の秩序をふみはずして、我知らず夢想の世界へふみこんでゆく主人公たち。幻想作家ホフマンは、現実と非現実をめまぐるしく交錯させながら、人間精神の暗部を映しだす不気味な鏡を読者につきつける。名篇「砂男」はじめ六篇を収録。