出版社 : 文藝春秋
いつも束の間の逢瀬しかできない2人。年末の一日、初めて過ごした2人だけの長い時間。鍋を準備して、「おかえり」「ただいま」と言い合って(「冬一日」)。ショウコさんと旅に出る。電話の最中に「なんかやんなっちゃった」と声が揃ってしまったのだ(「春の虫」)。いつか別れる私たちのこの一瞬をいとおしむ短篇集。
妻と幼い息子を連れた筒井は、むかし一緒に暮らしていたその人と、偶然バーニーズで再会する。懐かしいその人は、まだ学生らしき若い男の服を選んでいた。日常のふとしたときに流れ出す、選ばなかったもうひとつの時間。デビュー作「最後の息子」の主人公のその後が、精緻な文章で綴られる連作短篇集。
わたしは仕事以外になにもない、さっぱりとした日常をいたく気に入っていたはずだったー二十八歳にして処女、仕事ひとすじの奈津美に訪れた予想外のモテ期。三人の男を前に、はたして彼女は、棒に振ってしまった思春期を取りもどすことができるのか。愛すべき恋愛音痴のための可笑しくて、やがて切ないラブストーリー。
うつ病に苦しみ、老父の介護に疲れた私のもとへ現われた子猫。軒下で鳴いていた。トラや、ともに生き、生き延びてきた十五年をここに記そう。ささやかだけれどかけがえのない家族の年月を描ききって南木文学の新たな頂点を指し示す傑作小説。感動の書き下ろし作品。
1955年、共産党第6回全国協議会の決定で山村工作隊は解体されることとなった。私たちはいったい何を信じたらいいのだろうかー「六全協」のあとの虚無感の漂う時代の中で、出会い、別れ、闘争、裏切り、死を経験しながらも懸命に生きる男女を描き、60〜70年代の若者のバイブルとなった青春文学の傑作。
右腕を痛めイカサマができなくなった私こと坊や哲は新聞社に勤めたが‥。戦後の混乱期を乗り越えたイカサマ博打打ちたちの運命は。ピカレスクロマン第三弾! 解説・小沢昭一
戦後も安定期に入った。私こと「坊や哲」は唐辛子中毒で身体を壊し麻雀から足を洗って勤め人となった。ある日、会社の仔分がおそろしく派手な毛皮の半オーバーに鍔の広いテンガロンハットをかぶった一人の男を連れてきた。ドサ健だった。そして私は、再び麻雀の世界に身を投じることになった。感動の完結篇。
芸術院会員の座を狙う日本画家の室生は、選挙の投票権を持つ現会員らに対し、露骨な接待攻勢に出る。一方ライバルの稲山は、周囲の期待に応えるために不本意ながら選挙戦に身を投じる。会員の座を射止めるのは果たしてどちらか。金と名誉にまみれ、派閥抗争の巣と化した“伏魔殿”、日本画壇の暗部を描く。
本にサインして送って下さい。写真送りますから、会って下さいー熱狂的読者の要求はエスカレートし、やがて悲劇が…(「覆面作家」)、作家の了解も得ず講演会を企画する図書館司書(「講演会の秘密」)、下手な小説を送りつけ添削せよと迫る作家志望者(「ファンレター」)他、覆面作家・西村香を巡る怪事件の数々。
お町が番附売りの周二と出会ったのは霞ヶ関の坂道だった。男振りのいい周二から過去の話を打ち明けられたお町はいつしか恋心を抱いた。だが周二の話にはたった一つ、ついてはならない嘘があったー表題作のほか、江戸の喧騒の中を懸命に生きる七人の女たちの営みなどを艶やかな筆で描く著者会心の短編集。
彼の抱えた悲しみが、今、私の皮膚に伝わり、体の奥深くに染み込んできたー。人生の秋を迎えた中年の男と女が、生と死を見すえつつ、深く静かに心を通わせる。閉塞した日常に訪れる転機を、繊細な筆致で描く短篇集。表題作のほか、「観覧車」「ソリスト」「灯油の尽きるとき」「戦争の鴨たち」を収録。
『都賀留三郡史』なる書物の真偽を確かめるため、青森に赴いた光彦。三郡史を発見した八荒神社=アラハバキ神社の宮司は、史実であると譲らない。一方、偽書だとする人々の死ー大学教授がその学会発表の直前に病死、神社に出入りする大工の棟梁が事故死、その唯一の目撃者が刺殺ーが相次ぐ。アラハバキ神の祟りなのか。
男というものは絶えず急な斜面に立っている。爪を立てて上に登って行くか、下に転落するかだー。十年ぶりに会った女は、男の会社の実力派会長の妾だった。彼女を利用して昇進に成功した男はやがて彼女の存在が邪魔になり…。表題作の他、強盗殺人犯の妻と張り込みの刑事を描く「失敗」など全六篇の短篇を収録。
中国の密航船が沈没、10人の密航者がニューヨークへ上陸した。同船に乗り込んでいた国際手配中の犯罪組織の大物“ゴースト”は、自分の顔を知った密航者たちの抹殺を開始した。科学捜査の天才ライムが後を追うが、ゴーストの正体はまったく不明、逃げた密航者たちの居場所も不明だー果たして冷血の殺戮は止められるのか。ドンデン返しとサスペンスの天才ディーヴァーの大人気シリーズ第四弾。
冷酷無比の殺人者“ゴースト”は狡猾な罠をしかけ、密航者たちのみならずライムの仲間の命をも狙う。愛する者たちを守るには、やつに立ち向かうしかない。真摯に敵を追う中国人刑事ソニーの協力も得、ライムはついにゴーストの残した微細証拠物件を発見するー見えざる霧のような殺人者は何者なのか?大人気シリーズ第4弾。