出版社 : 新潮社
わたしたちはどんな痛みからも解き放たれる。泳いでいる、そのときだけは。過食、リストラ、憂鬱症ーー地下の市民プールを愛し、通いつめる人達は、日常では様々なことに悩み苦しんでいる。そのうちのひとり、アリスは認知症になり、娘が会いに来ても誰なのかわからなくなって、ついに施設に入ることになる。瞬時にきえてしまうような、かけがえのない人生のきらめきを捉えた米カーネギー賞受賞作。
台北からリスボンへ。ファドの調べが繋ぐ追憶の旅路ー。ヨーロッパの果て、場末の酒場で出会った歌い手。凛として舞台に立つ孤高の姿には、つねに死の予感が漂っていた。アマリア・ロドリゲスの名曲に触発され、紡がれた追憶と喪失の物語。「Sを捨てた女」併録。
東京中央テレビの諸橋孝一郎は、数多の特ダネをモノにしてきた敏腕記者。だが、部下のヤラセを機に、職場で閑職へ追いやられ、家庭内でも居場所を失っていた。そんな最中、IT界の風雲児・簗瀬拓人の息子が誘拐されるという事件が発生するー。現場を知り尽くしたテレビ局員だからこそ書けた報道小説ど真ん中!最後に選ぶのは、幼い命か、スクープか。マスコミの性を抉るノンストップ・サスペンス!
吾輩、ニャンと転生⁉ 漱石の猫の続きを描いたもふもふ×ビブリア奇譚! 「猫に九生あり」という。かつて漱石と暮らした黒猫は、何度も生と死を繰り返し、ついに最後の命を授かった。過去世の悲惨な記憶から、孤独に生きる道を選んだ黒猫だったが、ある日、自称“魔女”が営む猫まみれの古書店「北斗堂」へ迷い込む。文豪の猫と創作の業が絡まり合う日本ファンタジーノベル大賞2024受賞作!
中世北欧文学の最高峰!13世紀のアイスランドで花開いた、王、豪族、美姫、戦士、農漁夫、ヴァイキングの乱舞する雄渾華麗な物語。幻の名著が、最新の研究を踏まえた図版・系図・地図・文献案内を備えて待望の復刊!「サガ」とは、語り、語られた出来事、物語の意。ヴァイキング時代に人びとがノルウェーからアイスランドへ入植した経緯、活躍した英雄、戦い、何代にもわたる血族同士の復讐の応酬、キリスト教以前の異教時代の魔法や幽霊、呪いなどを活写した壮大な史伝的散文作品が約二百篇ほど現代に伝わる。本書は質量ともサガ文学中の圧巻とされる六篇を収める。
ある日、難民になる。「新しい故郷」を求めて、歩きだす。そんなに遠い世界の話ではないのです。シリアで、クロアチアで、アフガニスタンで、満洲で、生きのびるために難民となった、ふつうの人たち。その姿と心を、てのひらで触れるようにして描きだす。
神森で行方不明になった5歳児と迷い込んだ4人の男女。拭えない罪を背負う彼らの真実と贖罪。原生林で5歳のASD児が行方不明になった。1週間後無事に保護されるが「クマさんが助けてくれた」と語るのみで全容を把握できない。バッシングに遭う母のため義弟が懸命に調査し、4人の男女と一緒にいたことは判明するが空白の時間は完全に埋まらない。森での邂逅が導く未来とは。希望と再生に溢れた荻原ワールド真骨頂。
すべては奴の筋書きどおりなのかーー狂気と喝采に満ちた舞台の幕が今上がる。江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎にお熱のお春が、女房の座を狙って近づいたのは……。芸を追求してやまない扇五郎に魅せられた面々の、狂ってゆく人生の歯車。ある日、若手役者の他殺体があがり、ついには扇五郎本人もーー「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。芝居の虚実を濃密に描き切ったエンタメ時代小説。
韓国で33万部超のベストセラーとなった話題作。1909年10月26日、ハルビン駅で元韓国統監の伊藤博文を銃撃した30歳の青年・安重根は、大地主の家に生まれ、抗日義兵部隊で活動しながら、戦闘中に捕虜となった日本軍捕虜を解放したこともあった。彼はどんな怒りを抱えてハルビンへと向かったのか。韓国で33万部超のベストセラーとなった歴史小説。
由井鮎彦の到達点にして、文学表現の未知なる未来がここにひらかれる。空虚にして充溢する海。すべてを呑み込み、すべてをもたらす海。そこから漂着し、そこに堆積していく特異な「もの」たち。世界が始まり、世界が終わる場所。類似し相違する分身にして鏡像たちがさまざまな場所を彷徨し、分離と結合を、対話と衝突を、敵対と協力を繰り返す。静寂に閉ざされた地下駐車場から、無限の響きを奏でる果てしのない浜辺へ。第27回太宰治賞受賞作家、初の長編。
勝者も敗者も何かを失い、何かが壊れていく。雀荘「迎賓館」には並外れた技量の打ち手が集まる。枯淡の法務事務所オーナー、飲食チェーン取締役、広告会社局長代理、記憶システムが異様な高校教師。仲間内のゲームに飽き足らず、敢えて鉄火場に挑んだ国立大生・結城は、強者達の雀卓を凌げるのか。
老人介護施設で色香を振りまくキヌ子。夫とのセックスレスに悩む看護師ミサ。結婚五年目、過干渉な姑がしんどい水織。還暦を前に初めて「女風」に申し込んだ弥衣子。男性経験のないまま五十歳を迎えた明日香。人生の折り返し地点を過ぎた女たちの「欲」を正面から描く、第18回「R-18文学賞」大賞受賞作。
天皇家に忠義を尽くす小楯家の次男・有綱は、承久の変に敗れ隠岐に流される後鳥羽上皇を警護する最中、上皇寵愛の伊賀局から謎めいた使命を受ける。有綱はそれを源平合戦の際、壇ノ浦で失われた三種の神器の剣を探すことと理解し、備前の刀工・伊織、大三島の幼い巫女・奈岐とともに探索に旅立つ。やがてたどり着いた山中の集落で、彼らを待っていたのはー。日本史最大の謎を独創性豊かに解き明かす、かつてない一大歴史ロマン!
海から死を連想するように、少年は彼に美を思い描いたー。高校二年の春、同じクラスの北条の「美」の虜になった美術部の速水は、彼をモデルに肖像画を描きはじめた。画板を挟み向き合う二人は親しくなるが、夏休みのある出来事が速水の心を打ち砕く。新潮新人賞選考会で激論の末、史上最年少の17歳で受賞した話題作。
映画、演劇、父との記憶ー魅惑の創作世界の謎を探り行く。本との出会いを人生の時間と重ねて綴る9篇の連作小説集。泉鏡花文学賞受賞作『水 本の小説』に続く独自の“ものがたり”
この島で、母の死を癒してくれる男に抱かれたい。束の間、夫を忘れて。音楽家の優しい夫と、二人の子宝にもめぐまれ何不自由ない結婚生活をおくるアナ。毎年、母親が埋葬されているカリブ海の島へ出かけるアナだが、人知れず、現地の男と一夜限りの関係を結ぶことを心待ちにしていた。刹那的な関係に心身を燃やすアナが出会った男たちとはーー。ノーベル文学賞作家が最期まで情熱を注いだ未完の傑作。
老若男女に贈る、強炭酸エナドリ・最高最強エンパワーメント小説集! 過去のブログ記事が炎上中のラーメン評論家、夢を語るだけで行動には移せないフリーター、もどり悪阻とコロナ禍で孤独に苦しむ妊婦、番組の降板がささやかれている落ち目の元アイドル……いまは手詰まりに思えても、自分を取り戻した先につながる道はきっとある。この世を生き抜く勇気がむくむくと湧いてくる、全6篇。
いいひと歴40年。この度、一身上の都合によりサイテー男に転身します! 四十路の独身男、平田は自他ともに認める「いいひと」。だが、モテない。結婚はおろか恋人すらできない。「いいひとなんだけどね……」って、もういい! こうなったらとことんサイテーになってやる! 立派な「サイテー男」になるべく向かった場所とはーーふかわりょうが描く、痛快! 人生180度逆転劇!
オカルト、宗教、デマ、フェイクニュース、SNS。あなたは何を信じていますか? 口さけ女はいなかった。恐怖の大王は来なかった。噂はぜんぶデマだった。一方で大災害が町を破壊し、疫病が流行し、今も戦争が起き続けている。何でもいいから何かを信じないと、今日をやり過ごすことが出来ないよーー。飛馬と不三子、縁もゆかりもなかった二人の昭和平成コロナ禍を描き、「信じる」ことの意味を問いかける傑作長篇。