出版社 : 新潮社
いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合ってー。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。
練習場で橋口に声をかけられた江本美和子は、その強引な誘い方に驚くが、結局デートに応じる。一方、阿久津らの捜査から松川と橋口が同一人物であることが判明した。だが被害者の中にかつての恋人、美和子がいるのを知り、阿久津は愕然とする。あのしっかり者の彼女がなぜ…。橋口と被害女性、そして阿久津の心模様を丹念に追い、現代の結婚観を浮き彫りにした傑作サスペンス。
イケメン高校生の翔矢と雪乃、従姉妹の可奈子が謎のプロバイダに登録してから、次々と奇怪な事件が発生する。同級生の自殺、日本刀に取り憑かれる男、電源を切っても着信するケータイ、連続殺人、忍び寄る幽鬼の手。彼らが堕ちた魔界の連鎖とは?第4回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
あれは事故だった。夫の使うチェーンソーの操作ミスで、私は小指を失くした。その後、彼は何も言わずに家を出る。それきり音信不通だった夫が、拳銃で人を撃った挙げ句、廃屋に立て篭もっているという。しかも、女子高生と赤ん坊を人質にして。被害者の家族を巻き込んで展開する説得劇のさなか、一発の銃声が世界のすべてを暗転させた-。
阿蘇に旅した“豆腐屋主義”の権化圭さんと同行者の碌さんの会話を通して、金持が幅をきかす卑俗な世相を痛烈に批判し、非人情の世界から人情の世界への転機を示す『二百十日』。その理想主義のために中学教師の生活に失敗し、東京で文筆家としての苦難の道を歩む白井道也と、大学で同窓の高柳と中野の三人の考え方・生き方を描き、『二百十日』の思想をさらに深化・発展させた『野分』。
幼いわたしの前から、ある日突然、姿を消した父。成長したわたしは、父の人生をさかのぼって、四つの不思議な旅に出る。旅先の風景はいつしか幻想性を帯び、死者の霊がわたしを招く。追えば追うほどに、父の真実は遠ざかり、濃密な官能の匂いが立ち昇ってくる。時間と空間を超えた旅路の果てに待つものは…。著者によって、いつか書かれなければならなかった、きわめて個人的な物語。
パリ警視庁特別医務室に勤務する精神科医のラセーグは、犯罪者や保護された者を診断する毎日。折しもパリでは万国博覧会が開催され、にぎわうが、見物客の女性が行方不明となる事件が相次ぐ。そんな中、ひどく怯える日本人少女を面接し、彼女の生い立ちに興味をもつ。一方でラセーグは、見知らぬ貴婦人にストーカー行為を受け、困っていた。執拗な誘いに負けて、彼女の屋敷を訪ねるがー。
貴婦人の誘惑は執拗さを増すが、ラセーグは無視した。が、彼に好意をもつ先輩警視の妹が殺害されるに及び、貴婦人の関与を確信する。連続失踪事件で日本人少女も巻き込まれていたことが分かり、ラセーグは、それらと似通った過去の猟奇的事件を調査するー。優雅なパリの街並み、そこに集う人々との温かい交流を描きつつ、驚愕の事件を推理する精神科医の心情に迫ったミステリー・ロマン。
著者率いるNUMAは、現在も幻の沈船を求めて東奔西走。その模様はドキュメンタリー番組として全米で放映されている。今回、白羽の矢が立てられたのは、南北戦争時の南軍甲鉄艦マナサスとルイジアナ。北軍が誇ったキーオカック、ウィホーケン、パタプスコ。海洋史上もっとも有名な幽霊船メアリー・セレスト号…。歴史の秘話と探索の悲喜劇で綴る好評ノンフィクション第2弾。
NUMAが追い求めるのは艦船だけではない。パリーニューヨーク飛行をリンドバーグと競いながら、散ったといわれる白鳥号。悪天候の餌食となった合衆国海軍の巨大飛行船アクロンー。タイタニック号の生存者を救助した後でUボートに撃沈されたカルパティア号や、あのJ・F・ケネディが艇長を務めた魚雷艇PT-109も含めた多彩な目標の謎がいま、白日の下に晒される。
豪農の家に生まれながら里子に出された矢野重也は、旧制一高、帝大へと進学する。フランス文学に耽溺し、一方でマルクス主義に傾倒、革命を信じ運動に身を投じるー。貧困と差別を目の当たりにした幼少期、養母や親友との死別、関東大震災、そして理想と現実との狭間で揺れ動く青年期。一代にして大コンツェルンを築き上げた男の、壮大なロマンを描く。中国へと渡った重也を待つ運命とは。
自らの理想に忠実であるために共産党を離れた重也は、地下に潜り文学に没頭していた。ある偶然から手を染めた実業の世界。巨大化する企業の中で、重也は新たな道を選ぶー。裏切りと策略に翻弄されながらも、押し寄せる運命を背負おうとした後半生。史上空前のマスメディア帝国に君臨した男の、円熟期までを描く大河小説。堂々たる人生を歩む重也の、締めくくりの大仕事とは…。
愛を知らずに育ち、生きることに倦んでいる君に、僕の想いは伝わるだろうか。もう君は一人じゃない。僕が必ず君を受け止めるからー。養護施設で成長し、自殺未遂を繰り返す十八歳の李理香の許に届いた一通の手紙。自らも同じ境遇だと明かす手紙の主・基次郎の素直な文面に、李理香も心を開くようになるが、意外な運命が二人を待ち受ける。往復書簡が織り成す、至純な愛の物語。
東京都下、武蔵村山市で占い師夫婦と信者が惨殺された。音道貴子は警視庁の星野とコンビを組み、捜査にあたる。ところが、この星野はエリート意識の強い、鼻持ちならぬ刑事で、貴子と常に衝突。とうとう二人は別々で捜査する険悪な事態に。占い師には架空名義で多額の預金をしていた疑いが浮上、貴子は銀行関係者を調べ始める。が、ある退職者の家で意識を失い、何者かに連れ去られる。
ニシノ君とのキスは、さみしかった。今まで知ったどんなさみしい瞬間よりも。女には一も二もなく優しい。姿よしセックスよし。女に関して懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう…とめどないこの世に、真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、著者初の連作集。
山あいの静かな町、雪沼で、ボウリング場、フランス料理屋、レコード店、製函工場、書道教室などを営む人びと。日々の仕事と真摯に向きあい、暮らしを紡いでゆくさま、その人生の語られずにきた甘苦を、細密な筆づかいで綴る最新短篇集。川端康成文学賞受賞作「スタンス・ドット」ほか、雪沼連作全七篇を収録。
桜の花の咲く頃に出会うはずのない二人が接近した…。凄惨な時代に翻弄された十一歳の少年。歪みを知らない信念が守り通そうとしたものは何だったのか。極限状況の“沖縄”を研ぎ澄まされた筆致で描く、話題の長編小説。
十二月三十日夕方、神奈川大学駅伝チームのマネージャーが行方不明になり、同じ頃、局内のモニターに女を監禁する映像が送られてきた。中継波が操られているのか?誰が?何のために?後手に回る捜査、見えぬ犯人像、刻々と迫る生中継。解決のメドも立たぬまま、ついに、選手たちは正月の箱根路へスタートを切った…。各区間で演じられる激走のドラマと、犯人側との攻防がシンクロする!一気読み間違いなしの感涙サスペンス。
暴力と許容、虚無と欲望、狂気と冷静の狭間を彷徨う男が世界を黒く染めていく-映画「ユリイカ」でカンヌ映画祭、国際映画批評家連盟賞とエキュメニック賞を、その小説バージョンで三島賞を受賞した鬼才・青山真治が、自身の劇場映画デビュー作を完全小説化。「Helpless」から続く秋彦と健次のその後を追った中編2本も収録。