出版社 : 新潮社
女のくせにー若くして出世した涼子には、男たちの反感が集まっている。欲望を下敷きにした憎しみ。卑屈さの混じった好意。警察という男社会で、それでも必死に突っ張っている。そんな涼子が出会った謎の女。冷たい美貌と完璧な肉体を持ち、エレガントでいて野性的。可愛い女じゃない、硝煙と香水の似合う女たちが出会い、そして事件が起きたー。強がって生きている女のための物語。
山歩きの途中、男は偶然見かけた古い鉄塔の上に小屋を建てて、奇妙な空中生活を始めた。厳しい冬にも耐え、ようやく春が訪れたのだが…(『鉄塔のひと』)。ある秋の朝、庭先に一人の女がいた。まるで妻のようにふるまうのだが、まったく見覚えはない。しかも困ったことに、私には妻に関する記憶がなかった!(『妻』)。シーナ的発想が産んだ摩訶不思議な世界を描く短篇十連発。
雪のひとひらは、ある冬の日に生まれ、はるばるとこの世界に舞いおりてきました。それから丘を下り、川を流れ、風のまにまにあちこちと旅を続けて、ある日…愛する相手に出会いました。ひとりが二人に、二人がひとりに。あなたが私に、私があなたに。この時、人生の新たな喜びと悲しみが始まったのですー。永遠の愛の姿を描く珠玉のファンタジーを、美しい挿画でお届けします。
1994年1月17日、カリフォルニア大地震で父母を失ったルイス・クレインは三十年後、超一流の地震学者となっていた。日本の佐渡島で起きた大地震の予知に成功するなど、彼の理論は完成目前だったが、周囲ではイスラム国家の陰謀が渦巻いていた。やがてクレインは新たな大地震を予測。その規模は人類がまだ経験したことのないものだった…。
顔を上げろ、少年。少さな幸福に包まれた家族の喉元に突きつけられる“いじめ”という名の鋭利なナイフ。日常の中の歪みと救いをビタースィートに描き出す出色の小説集!五つの家族の小さな幸福と苦い闘い-。
三木助についちゃあ、話せないことの方が多いよ、特に若い頃は。当時高座名より“隼の七”って名で通ってた。鉄火場での渾名だよ、丁半賭博。そのうち踊りの師匠になっちまって、そこで後のおかみさんと知り合ったんだ。この人と出会ってなけりゃ、どうなったかわからない。芸も人気も上り坂だなと思ってたら、死んじまった。あっけなかったな。敵も多い人だったけど、腰が低くて憎めない感じだった。小兵だが、男前でね-。「芝浜」の名人芸で知られた噺家の生と死。
気がつけば、おれは石川五右衛門だった…。神出鬼没に時空を飛ぶ作家一家。読者を物語のブラックホールに突き落とし、ねじれた迷宮へと誘う表題作。被害者の遺族が死刑囚の刑を執行するという狂気の設定で、獄中で執筆し続けた囚人作家の断末魔を描く『天の一角』。長年の忍従に暴発した作家夫人の怒濤の糾弾を活写する法廷劇『妻の惑星』等、表現への熱い慟哭が刻まれた傑作7編。
青森港に降り立ったのは老若男女とりまぜて二十人ばかりの朝鮮人だった。ついこの前まで日本人としてカラフトに暮した彼らが、今は日本への不法入国者として故国へ強制送還されようとしていた。敗戦の日本を縦断する押送列車の一つ車輛の中で、しかし彼らの思いは決して一つではなかった…。混乱の時代の体験を基に、人間の諸相を根源から見つめ尽す記念碑的大作。野間文芸賞受賞。
大正中期、四国の隔絶された漁村に異国船が現れた。目的な高価な桃色珊瑚。乱獲の結果、珊瑚は採れなくなって久しかったが、イタリア人エンゾはあきらめずに海に潜り続ける。そんな彼に惹かれていく海女のりんを幼なじみの健士郎は複雑な気持で見つめていた。やがて採れないはずの珊瑚が発見されたことから、欲望にとり憑かれた若者たちが暴走し始め…。直木賞作家の傑作伝奇小説。
サンタ・フェの中年弁護士ウィルは、辣腕ながら、自らの素行ゆえに公私共に窮地に陥っていた。パートナーからは三行半、二度目の結婚は破綻、最愛の娘は近々遠くに行ってしまう。そこへ街を震撼させた異常殺人事件の弁護の依頼。第一級謀殺容疑を受けたのは、凶悪な嫌われ者、暴走族4人組。だがウィルは無実を直感する。圧倒的な劣勢の下、自身の復活をもかけて挑むウィルに勝機はあるのか。
ウィルには十分な勝算があったのだ。検察側の重要証人は頼りなく、一方バイカー達のアリバイは完璧で、弁護チームは最強。だが結果は有罪、第一級謀殺罪で被告の死刑は確定する。失意のウィルに、さらに刑務所での暴動勃発の知らせが。リーダーはバイカー達で交渉役に彼を指名した。
TV局記者のメガンは、取材先の病院で自分そっくりな女性と遭遇した。通り魔の被害者で間もなく死亡したが、その夜メガンは「あれは間違いだった」という不気味なファックスを受け取る…。体外受精で実績を誇るこの病院では不祥事が続き、胎芽を扱う医師の身分詐称も判明した。彼女の身元保証は、メガンの父の会社が行なっており、父は帰宅途中の事故で、行方不明のままだー。
美貌の富豪ビリーを義母に、映画プロデューサーのヴィトーを父親にもつジジは、セクシーな細身の身体と自由奔放な魅力に溢れた23歳。高級ファッション・カタログの仕事を成功させた腕を見込まれ、ロサンジェルスの広告代理店に引き抜かれた。コピーライターの仕事の面白さを理解してくれない映画監督の恋人ザックと喧嘩別れした彼女の前には、次々に新しい男性が現れるのだが…。
ジジの新しい恋は自家用ジェット機で連れて行かれたヴェニスで始まった。誰もが羨む理想の恋人、大富豪のベン。でも彼を心から愛しているかまだ確信が持てない。ザックとのつらい経験から結婚には慎重になっているのだ。やりがいのある仕事も、暖かな家庭も求めるジジは、誰と結婚すれば幸せになれるの?ロスでパリでヴェニスで燃え上がる、恋人たちのロマンスをゴージャスに描く。
突如、ケンドルを見舞った交通事故。おさな子を抱いて這い出した彼女は、死に瀕した同乗の「男」を病院へ運ぶ。記憶喪失に陥った男を夫と偽った彼女は、3人で絶望的な逃亡を開始する。忌まわしい町で目撃してしまった、見てはいけないこと。そして、次第に育まれてゆく、してはいけない恋ー。恐るべき秘密同盟の盟約とは?記憶を失った男の正体は?5000万読者を魅了した著者の会心作。
夫に、そして息子に先立たれ、雪深い里で黙々と機を織る老女の幸せとは。歌舞伎座に現れた「藤娘」の幽霊の思いとは。「唐子」の着物を誉めてくれた、美しい混血男性を襲う悲劇とは-。作る者、着る者、それぞれの人生が織り込まれる「着物」。時に哀しく、時に数奇な、着物をめぐる色とりどりの物語。