出版社 : 新潮社
ある朝マチユは、肺癌であと数カ月の命だと告げられた-未来のない彼を、愛人は、かつての恋人は、そして妻は、どう受けとめてくれるのだろうか…。六カ月もしたら、僕は消えてなくなってしまうんだ-。死を宣告された彼を慰めてくれるものは何なのか。パリの街をさまよう孤独な男の心模様。死に直面する人間を描いたサガンの最新小説。
大学生活はあんなに楽しかったのに、まさか、二十歳の私が、化石みたいな病気にかかるなんて…。どこか歪んだ老人ばかりの病棟で、毎日薬漬けの生活が始まる。病院は異常な出来事の連続で、ゲンナリしてしまうけど、私の性欲はいまにも炸裂しそう。不倫相手の小田島を思うと、子宮が疼いてしまう。いますぐにでもきて欲しい…。結核体験をユーモアでくるんだパンクラスな自伝的長編。
デューク病院に、奇妙な患者が続々と運びこまれる。彼らは不眠不休で食事も摂らず、コンピュータにかじりついていた。発作、餓死、殺人。事態は深刻をきわめ、病院では原因の究明に追われる。そしてこの“コンピュータ中毒症候群”に冒された者の大多数が、あるソフトウェアを使用していたことが判明する…。デジタル社会の悪夢を描き、新たな地平を拓くサイバー・ホラー巨編。
インターネットを通じて猛威をふるいつづける恐怖のソフト“ペナルティメート”。死者は増加の一途をたどり、銀行預金は他人に引き出され、情報操作による謀略が頻発する。着実に壊滅へと向かう世界を救えるのは、このソフトの開発者エンゲルスしかいなかった。果たしてその方法とは何か…?いよいよ、人類の存亡を賭けた最後の死闘が、コンピュータのモニター上で展開される。
死刑囚ジョン・コーフィは、少女殺しの犯人ではないかもしれない。それにコーフィには奇跡を起こす不思議な力があるードラクロアの鼠を生き返らせたのを目撃していた同僚の看守たちは、ポールの説明を信じた。そして脳腫瘍で死に瀕している刑務所長の妻を、コーフィに治療させるという計画を実行に移した。だが、その癒しの手が効力を表わした夜が、悪夢の始まりだったのだ…。
2013年、イギリスでは犯罪者候補リストによる凶悪犯罪防止システム、ロンブローゾ・プログラムが導入されていた。が、極秘のはずの被登録者が何者かに次々と殺害される。しかも、彼らはいずれも後頭部をガス消音銃で撃たれていたー。フェミニストの女性警部ジェイクと多重殺人犯「ウィトゲンシュタイン」がくりひろげる殺人=哲学探究。著者渾身の超弩級サイコ・サスペンス。
野獣のような鋭い感覚を持つ戦闘力抜群の男、元英情報部のはみ出し工作員ハイド。彼はかつて命を救ってくれたデリー機関員キャスが、インド政府に拘束されたことを知る。選挙運動中の現首相を巡る、麻薬疑惑の証拠を握ったらしい。欧米寄りの現政権に不利なこの醜聞を、英政府は嫌い、キャスは見殺しにされそうだ。ハイドは肉体と精神を極限まで酷使し、たった一人の闘いに挑む。
映写技師オヌマの「闘争日記」は暴走する。次第にあらわになるスパイ塾生としての過去。プルトニウム239と謎の映画フィルムをめぐるヤクザや旧同志との苛烈な心理戦、肉弾戦。刻一刻とテンションを増す騒乱の日々をオヌマはサヴァイヴァルできるのか。
紀州和歌山の泣き虫の少年は、大阪に奉公に出された。火鉢屋、自転車屋での辛いながらも愉快な丁稚時代を経るうち、彼は電気の時代の到来を看破。電気工の見習いへと転身。やがて、工夫を重ね、新型ソケットを開発して独立する。明治、大正の大阪船場の賑やかな空気、昭和の動乱の産業界の激しい浮沈を背景に「経営の神様」松下幸之助の波瀾万丈、創意工夫の足跡を颯爽と描く快作。
酒浸りの夫と別れたケイト・オドワイヤーは、三歳の娘ジェニファーと暮らし始めた。若き弁護士マイクと恋に落ち、再び幸福を手にしたかに見えたが、悲劇は起こった。ケイトの留守中にジェニファーがレイプされ、HIVウイルスに感染してしまったのだ。しかも犯人は裁判で無罪となった。なぜ法律が犯罪者の味方をするの?-絶望したケイトに残された道は、ただ一つだった…。
26年前にヴェトナムで戦死した筈の米国陸軍兵士の認識票が、突然その両親の許へ届けられた。それも、クリーシィの名を記した紙片に包まれて。両親の切願で、かつての若き戦友の生死を確認すべく、クリーシィは現地に飛んだ。彼をおびき寄せるための計略の気配を感じとりつつも。事実、邪悪で賢く、美貌の復讐者が周到かつ壮絶な罠を仕掛け、彼を待ち受けていた…。
とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちはー。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。
ぼくはいきなりジョージという名前にされてしまった。横田基地での奇妙な日々。朝鮮戦争のさなか横田基地に通訳としてつとめはじめたぼくは、不思議にのんびりした奇態な日日を送る。横浜で港外荷役の募集に応じるといきなり仁川の沖合に連れていかれた友人。牛浜の西部劇風のバラック呑み屋や新宿御苑のそばのドヤでの大騒ぎ。現在と過去を交錯させながら、ユーモア溢れるタッチで軽妙に描く自伝的小説。
足利幕府が擁立する北朝に皇統を奪われた南朝方。その一人として、小倉宮を奉じ南朝再興に尽力する北畠宗十郎は、後醍醐帝の呪力が込められた三つの能面の入手を命じられた。面に隠された、幕府を崩壊させるほどの秘密とは何か?将軍暗殺ー嘉吉の乱を経て、時代は大きく動いてゆく…。日本史の中で無視され、抹殺されてきた闇の「後南朝時代」に大胆な解釈を加えた、渾身の快作。
青年は若すぎる年齢で夫となり、父となった。電気工として、小説家として、妻とおさな子三人を懸命に支える日々-。都会を離れ、北関東での心細い借家探しを通して生きることの危うさを捉えた「古河」。父と子の幸せな瞬間とその隣合わせで待ち構える崩壊の兆しを描いた、傑作「木の一族」等、普遍的な家族の原風景といのちの手ざわりを美しく切実な言葉で綴る珠玉の中短編4編。
高校一年の夏、同級生たちのリンチをうけてから登校拒否を続けていた僕は、父親の転勤で函館に転校することになった。そこで出会ったのは自分とそっくりの顔をした不良のレイジ。友達を作ることが苦手だった僕が、レイジとはすぐ仲良くなった。飲酒、暴行、セックス、そして函館の海での密漁…。行き場のない想いを抱えた少年が駆け抜けた短い夏を、みずみずしく描いた青春小説。
江戸城の桜田門外、日比谷近くに御庭番が住まう桜田御用屋敷があった。十一代将軍・家斉は、御庭番の真五郎に膃肭臍(強壮剤)の買付けを任じた…と見せかけて、ある重大な密命を託していたー。産ませた子女54人、荒淫将軍・家斉が、御庭番を絶妙に操り内憂外患を抑えていく名君ぶりを描く三編のほか、御庭番家筋の初代新潟奉行・川村修就の人情味溢れる活躍を描く三編を収録した。
少年拘置所で悪逆な監督官に命を狙われたネイサンは、身を守ろうとして彼を死なせ、脱走。忍びこんだ家のラジオで、自分が一方的に断罪されていることを知り、自らトーク番組に電話を入れる。トーク・ジョッキーの“ザ・ビッチ”はネイサンの擁護に回り、彼は一躍メディアの寵児となるが、捜査を開始した警察とともに、暗黒街の黒幕が送り出した第二の殺し屋が彼を追っていたー。
炸裂する砲弾、絶望的な突撃。凄惨極まる戦場で、作家の視線が何かを捉えたー1937年、ヘミングウェイはスペイン内戦を取材、死を垣間見たこの体験が、以降の作品群に新たな光芒を与えることになる。「蝶々と戦車」を始めとするスペイン内戦ものに加え、自らの内面を凝視するラヴ・ストーリー「異郷」など、生前未発表の7編を含む全22編。遺族らの手による初の決定版短編全集、完結編。