出版社 : 新潮社
白亜紀、北米ユタ州。一頭の恐竜が悲しみに沈んでいた。彼女は狩りで、つがったばかりの夫を失ったのだ。高度の知能を持ち、体系だった社会生活を営むラプトルたちは、ひとりでは暮せない。自己の遺伝子を残すために、より良い伴侶を捜さなければ…。恐竜は絶滅しなかった、鳥に姿を変えたのだと主張する著者が、最先端の学説と大胆な想像力で再現する、太古のラブストーリー。
明日のスターを夢見る彼女はバイトで暮らしながらオーディションに通う毎日。ところが今をときめく有名監督の面接をしくじって、エージェントからクビを宣告されてしまった。行き詰まった彼女が飛び込んだのはなんとテレホン・セックス・サービスのオフィス。瞬く間にナンバー1になったはいいけれど、だんだん深みにはまって…夢と現実、奮闘と努力。NY娘のクールなコメディ。
1928年、28歳のヘミングウェイは、キー・ウエストに居を移した。戦争と革命と大恐慌の’30年代、陽光降り注ぐこの小島に腰を据え、気鋭の小説家は時代と人間を冷徹に捉えた数数の名作を放ってゆく。本書は、経験と思考の全てを注ぎ込んだ珠玉短編集『勝者に報酬はない』、短編小説史に聳える名編「キリマンジャロの雪」など17編を収録。絶賛を浴びた、新訳による全短編シリーズ第2巻。
あの時代に限ったことではない。金や地位や見栄を求めれば、それがどんな社会であろうと、順応しなければならないのである。それがいやな者は、社会から冷遇されて当然である。そう思っても順応できない。そういう者は、どうすればいいのだ。死ねればそれにこしたことはないのだが…(「真吾の恋人」より)。珠玉の九篇。
飢饉にあえぐ天明年間、すべての厄を払う超人の出現を願う庶民の前に、忽然と現れた力人-。史上最強の実力を誇りながら、抱え主松平不昧侯や相撲会所の思惑に絡め捕られ、辛酸をなめる雷電が、苦悩のすえに抱いた大望とは…。伝説の力士雷電の、数奇な生涯の物語。
ロンドンから鉄道で一時間余りの小さな町。その町でレストランを営む日本人の娘のもとに滞在する初老の男が出会う様々な出来事。“麗人”に翻弄される日本人画家やアメリカ兵や町の男たちの恋愛沙汰は、静かな町を時に騒然とさせる。-個人主義的でありながらも心情あふれる郊外の情緒を交えて物語る、円熟の連作小説。
少年時代に眼にした法師蝉の羽化の情景。僅か十日ばかりの残された時間を過ごすために幼虫の固い殻を脱ぐとき、蝉は体内のすべてが透けて見える儚げな姿をしていた。人もまた、逝く時が近づくと淡く透きとおった様子になってゆくものなのだろうかー。平穏な日々に忍び込む微かな死のイメージを捉えた表題作ほか、人生の秋を迎えた男たちの心象を静謐な筆致で描く短編9編を収録。
南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
私の衝動的なプロポーズに対して、長い沈黙の後とかげはこう言った。「秘密があるの」-。幼い頃遭遇したある事件がもとで、長い間目の見えなかったことのあるとかげ。そのとかげにどうしようもなく惹かれてゆく私。心に刻まれた痛みを抱えながら生きてきたカップルの再生の物語「とかげ」。運命的な出会いと別れの中に、ゆるやかな癒しの時間が流れる6編のショート・ストーリー。
レコード会社の制作ディレクターの僕には、時々幻聴が聞こえる。不規則な生活を十年も続けているのが原因だろう。好きな音楽の仕事だが、ストレスはある。恋人ともうまくいかない。そんな時、音に宿る神を探し求める男に出会ったー。世界のシステムがアナログからデジタルに変わった現在、本当に人の心に響く音とは。孤独を抱え癒しを求める青年を繊細に描いた表題作他一編。
入水自殺を図った若い女性は、記憶を失っていた。恋人だった青年は遠洋マグロ漁船の上にいる。二人の間に一体何があったのかー。運命をあらかじめ知っている人間はいない。しかし、はっきりとした確率があるとしたら。偶発的に誕生した遺伝子が特別の意味を持った時、恋人達はある宿命を背負い、日常の裂け目には一つの危うい人間関係が生じた。気鋭の作家が描く新しいミステリー。
バブルで破壊される前の麻布、白金周辺をよく知る人々が慈しんで語る“変な話”。夜桜見物に乗り込んだ水上バスで、髷を結った侍姿の男に話しかけられ不思議な目に逢う「花見の人」、廃業した銭湯に一人残って暮らす三助あがりの元経営者が、昔語りを聞かせる「タイル絵」等、古き良き時代の東京を垣間見させつつ、読者を違和感なくお伽話の世界へ誘い込む、現代の“奇譚”7篇を収録。
女子大生ローリーは教授殺しで逮捕された。凶器からは彼女の指紋が検出されたが、彼女には何の記憶もない。幼い時、誘拐され、虐待され、深く傷ついた彼女の心は、あまりに辛い現実を生き延びるために多重人格を形成していた。犯人は教授に夢中な彼女の別人格なのか。法は彼女を裁くことができるか。そしていまだに彼女に執拗な愛を抱く誘拐犯人の魔手…心理サスペンスの逸品。
天才的ヘリ・パイロットのプロスは、旧知の美人諜報員に連れだされた夜の湖畔で、英国が極秘に開発した最新最強の戦闘ヘリ“ハマーヘッド”に試乗しようとしていた。が、突如ミサイル攻撃に遭い、テスト・フライトは地獄の実戦飛行と化す。いったい誰が、何の目的で。ヘリの機密はいつ洩れたのか。だがそれは、国際的な規模でくリ広げられる策謀の、ほんの序幕にすぎなかった…。
愛は成就されず、成就されるのは愛でないものばかり。十二月の最初の日曜日、十二歳になる侯爵のひとり娘シエルバ・マリアは、市場で、額に白い斑点のある灰色の犬に咬まれた。背丈よりも長い髪の野性の少女は、やがて狂乱する。狂犬病なのか、悪魔にとり憑かれたのか。抑圧された世界に蠢く人々の鬱屈した葛藤を、独特の豊饒なエピソードで描いた、十八世紀半ば、ラテンアメリカ植民地時代のカルタヘーナの物語。
英国ブッカー賞受賞。瀕死のイギリス人患者と若く美しい看護婦ハナ-砂漠の情景から不倫の愛の行方まで、詩的言語に包まれた物語が静かに溢れ出す…カナダ人作家の最高傑作。時は第二次世界大戦の末期である。場所はフィレンツェの北、トスカーナの山腹に立つサン・ジロラーモ屋敷。ここで、四人の男女が出会う。若いカナダ人の看護婦は、ハナ。…ハナの父親の友人で、泥棒のカラバッジョ。…インド人でシーク教徒のキップは、爆弾処理を専門にする工兵。…そして、ベッドに寝たきりながら、その発揮する強大な求心力に三人をつつんでいるイギリス人患者。…心の内にそれぞれの物語を抱え込んだ四人が、互いに相手の物語を読もうとし、そこにすばらしい小説世界が出現する。