出版社 : 新潮社
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとはーー。山本周五郎賞受賞作。
柴崎令司警部は、今回も綾瀬署を離れることができなかった。その一方で、同世代のキャリア・坂元真紀が署長に着任。現場経験に乏しいコンビが誕生してしまった。職務にまつわる署内の不祥事、保護司による長男殺しの闇。そして、女性店員失踪事案の再捜査が、幾つもの運命を揺さぶりはじめるー。ミステリ×人間ドラマの興奮。日本推理作家協会賞受賞の名手が描く、警察小説集。
小学四年生のフミと、六年生のマキ。ふたりは、お互いの父と母の再婚できょうだいになったばかり。おねえちゃんと仲良くなりたいフミだったが、無愛想なマキの心がわからずに泣いてしまうことも。マキはマキで、新しくできた妹に戸惑っていた。そして、姉妹を見守る父と母もまた、「家族」になるためにがんばっていて……。四人家族ひとりひとりの歩みを見つめた、優しさあふれる物語。
デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていたー。苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。
いつの日か、この日本で本物のウイスキーを造るー。大正7年、ひとりの日本人青年が単身スコットランドに渡った。竹鶴政孝、24歳。異国の地で、ウイスキー造りを学ぶ彼はやがて生涯の伴侶となる女性リタと出会う。周囲の反対を押し切って結婚した二人。竹鶴は度重なる苦難にも負けず夢を追い、リタは夫を支え続けた。“日本のウイスキーの父”の情熱と夫婦の絆を描く。
イギリスの静かな田舎町ロングボーンの貸屋敷に、資産家ビングリーが引っ越してきた。ベネット家の長女ジェインとビングリーが惹かれ合う一方、次女エリザベスはビングリーの友人ダーシーの気位の高さに反感を抱く。気難しいダーシーは我知らず、エリザベスに惹かれつつあったのだが……。幸福な結婚に必要なのは、恋心か打算か。軽妙な物語(ストーリー)に普遍の真理を織り交ぜた、永遠の名作。
みんなは“内側”の人間だけれど、自分は“外側”の人間だからーー心を閉ざすアンナ。親代わりのプレストン夫妻のはからいで、自然豊かなノーフォークでひと夏を過ごすことになり、不思議な少女マーニーに出会う。初めての親友を得たアンナだったが、マーニーは突然姿を消してしまい……。やがて、一冊の古いノートが、過去と未来を結び奇跡を呼び起こす。イギリス児童文学の名作。
社会福祉の大胆な切り捨てで経済大国に返り咲いた近未来の日本。警察の経費削減で捜査を委託された元刑事の幸祐は、夏休み中の孫娘・愛芽と共に、老婆の死亡事件が起こった山奥の福祉施設を訪れる。単なる事故死で片づけるはずが、クセのある施設の人々と接するうちに幸祐の刑事根性が疼きだして…ノスタルジックな夏休みの情景に棄てられた人々の哀しみが滲む傑作ミステリ。
地方の支局で腐っていた記者が、やっと掴みかけたスクープ。でもその記事は、あの人の笑顔を曇らせてしまうかもしれない…。消えそうな命と、明日生まれる命。どちらを選ぶのか?超先端医療の闇を突くメディカル・サスペンス!
老いた海女、落魄のピアニスト、ライムポトスと裸婦、家に辿りついた異国の女…。房総半島の小さな街で何かを見つけ、あるいは別れを告げようとしている男と女たち。夕闇のテラス、シングルトーンの旋律…。歓楽の乏しい灯りが海辺を染める頃、ありえたかもしれない自分を想う。『脊梁山脈』で「戦後」を描き、大佛次郎賞に輝いた著者の「現代」小説。
「俺たちのことはジジイと呼ぶな。-おっさんと呼べ」還暦を迎えた、かつての悪ガキ三人組が、私設自警団を結成した。剣道の達人キヨ、武闘派の柔道家シゲ、危ない頭脳派ノリ。ゆすり、たかりに悪徳詐欺、卑劣な痴漢に動物虐待…。キヨの孫・祐希とノリの愛娘・早苗の高校生コンビも加わって、町内の悪を成敗する!“三匹”の活躍に胸がすく痛快活劇小説。シリーズ第一弾。
古代人のミイラに出会った科学者たちの悲喜劇。なぜか毎年繰り返される死者続出のピクニック。数多の美女と一人の醜男が王に仕える奇妙なハーレム。平均寿命1億分の4秒の微小生物に見る叡智ー。現代アメリカ文学の新潮流をリードする若き鬼才による、プッシュカート賞受賞作2篇を含む11篇。
父と子。男と女。人は日々の営みのなかで、あるとき辻に差しかかる。静かに狂っていく父親の背を見て。諍いの仲裁に入って死した夫が。やがて産まれてくる子も、またーー。日常に漂う性と業の果て、破綻へと至る際で、小説は神話を変奏する。生と死、自我と時空、あらゆる境を飛び越えて、古井文学がたどり着いた、ひとつの極点。濃密にして甘美な十二の連作短篇。
ヒト、密書、スーツケース。夜な夜な「よからぬもの」を運ぶ舟頭。雨上がりの水たまりに煙突を視る会社員。漂着した島で船に乗り遅れる女。私はどうしてここにいるのか。女房を殺したような、子どもの発話が遅れているような、金魚が街に溢れている、ようなー。流転する言葉をありのままに描き、読み手へと差し出した鮮烈のデビュー作。芥川賞受賞前夜の短篇「家路」を同時収録。
道東・釧路で『ホテルローヤル』を営む幸田喜一郎が事故で意識不明の重体となった。年の離れた夫を看病する妻・節子の平穏な日常にも亀裂が入り、闇が溢れ出したーー。愛人関係にある澤木と一緒に彼女は、家出した夫の一人娘を探し始めた。短歌仲間の家庭に潜む秘密、その娘の誘拐事件、長らく夫の愛人だった母の失踪……。次々と謎が節子を襲う。驚愕の結末を迎える傑作ミステリー。
元捜査一課の女刑事・魚住久江、42歳独身。ある理由から一課復帰を拒み、所轄で十年。今は練馬署強行犯係に勤務する。その日、一人の父親から、子供が死亡し母親は行方不明との通報があった。翌日、母親と名乗る女性が出頭したが(「袋の金魚」)。女子大生が暴漢に襲われた。捜査線上には彼女と不倫関係の大学准教授の名も挙がり……(「ドルチェ」)。所轄を生きる、新・警察小説集第1弾。