出版社 : 新潮社
イギリス南部ブライトンに暮らす少女サシャは、環境破壊や貧困問題に憤概しながら、問題行動を繰り返す弟ロバートに日々手を焼いている。サシャはある日、母の形見の丸い石を東部サフォークに住む元の持ち主に返す旅の途中というアートと、一緒にブログを書いているシャーロットに出会った。二人は姉弟の母グレースと意気投合し、ロバートはシャーロットに一目ぼれ。家族三人はアートたちの旅に同行することになった。一方、石の元の持ち主で百歳を超える老人ダニエルは、ベッドで夢を見ている。戦時中、ドイツ系ユダヤ人として敵性外国人と見なされ収容所に入れられた記憶、そしてフランスで行方を絶った妹のことーEU離脱による分断を描くことから始まった四部作の、パンデミック下で書かれた最終巻。
武家に生まれた歌川広重は浮世絵師を志す。しかし、彼が描く美人画は「色気がない」、役者絵は「似ていない」と酷評ばかり。葛飾北斎と歌川国貞が人気を博するなか、鳴かず飛ばずの貧乏暮らしに甘んじていた広重だが、ある日舶来の高価な顔料「ベロ藍」に出会いー。日本の美を発見した名所絵で歴史に名を残す、浮世絵師の生涯!
モロッコで秀男はカーニバル真子の「最後の仕上げ」となる手術を受け、日本で初めて「女の体」を手に入れた。好奇と蔑みの目、喝采と屈辱を浴び、話題を振りまきつつ、やがて追い詰められていく。「自己」と闘う思春期から(『緋の河』)「世間」と闘う激動期を活写する完結篇。
外界から隔絶された学園で寮生活を送る少女たちの間で流行する、「森を作る」という遊び。誰もが森を持つ中、揺は一人だけ森を作ることができない。思い悩む揺だったが、激化する戦争の影が学園にも忍び寄る。一方、目的を持って森を観察してきたある生徒は、秘密の計画を進めていた。少女たちの魂が共鳴する時、奇跡が起きるー。
世紀末日本を舞台に、彩雲に魂を〓がれた五つの嬰児が、真の目覚めを迎える!徴兵されながらも戦争を生き抜き、戦後、文壇の寵児としてもてはやされた孤高の作家・堀永彩雲。しかしその後半生は、絶望と狂気に彩られていた。昭和四九年に享年五〇で自害した作家の作品は、世間からは忘れ去られたが、一部に狂乱の読者を生み、育んだ。
江戸歌舞妓の若きスター市川團十郎。名だたる役者に認められ、粋な姐さんを妻にして、絶頂きわめたその時に、お上に睨まれ財産没収、江戸追放。あっという間の奈落の底から、見事復活するが、家族の悲劇を招いてしまう…。悪女にはまり欲に負け、泥にまみれた晩年でも、最期まで人々に愛された波瀾万丈の役者人生を初めて描く本格時代小説!松本幸四郎、岩井半四郎、坂東三津五郎、尾上菊五郎、中村歌右衛門ら実在の名優も続々登場。歌舞妓世界の光と影を濃厚に詰め込んだ傑作。
周王朝末期、宮廷内の陰謀で命を狙われ姿を消した後、商人となった公孫龍。公子を助け強国趙の信頼を得たが、その後継者を巡る争いに巻き込まれる。君主となった恵文王と親しい公孫龍だったが、先代の父王(主父)は兄・安陽君の側についた。果たして主父の真の狙いは。一方、公孫龍が拠点とするもう一つの国・燕に、魏から楽毅が使者として到着した。公孫龍は、武将としての力量に注目し、楽毅を留まらせようとする。
かつては記憶に残るテレビ映画を多く作ってきた演出家リチャードは、長年の相棒だった女性脚本家パディーを病で亡くした絶望から、ある日打ち合わせをすっぽかし北へ向かう列車に乗った。一方、移民収容施設で働くブリタニーは、収容者の処遇を恋人に批判されながらも仕事をやめられない。その彼女の前に、収容所長に直談判し収容者用トイレの清掃を実現したと噂の少女フローレンスが現れた。北へ向かうというフローレンスを追い列車に乗るブリタニー。二人はスコットランドの片田舎でリチャードと出会い、フローレンスを知っているらしい地元女性の車に乗る。偶然から始まった旅は四人をどこへ導くのか。EU離脱で混迷が深まるイギリスを描く「四季四部作」の春篇。
主人公は全員煩悩まみれのミュージシャン!不倫、緊縛、放置、性病、投稿…官能ロック小説!売れないロッカーが東北の雪山のライブに愛人同伴で向かう「変態だ」、南の島でかつて憧れていたスターのSMプレイを目撃する「僕のスター」、かつてのバンド仲間の葬儀で熟女の悪戯に翻弄される「永いおあずけ」、売れっ子ミュージシャンが性病に悩む「リンガ応報」など5編を収録。
ある事情から刑事弁護に使命感を抱く持月凜子が弁護を受けた案件は、埼玉県警の女性警察官・垂水涼香が起こしたホスト殺害事件。凜子は同じ事務所の西と弁護にあたるが、加害者に虚偽の供述をされた挙げ句の果て、弁護士解任を通告されてしまう。一方、西は事件の真相に辿り着きつつあった。そして最後に現れた究極の証人とはー。構想17年。徹底的な取材の元に炙り出される、日本の司法制度の問題とは…。
新米弁護士・小柳大樹のもとに相談に訪れた学生・本條菜子が、その夜、突如失踪する。翌朝、クラウドファンディングで日本中から十億円の身代金を募る、前代未聞の「誘拐プロジェクト」が発覚。小柳は事務所のボスで企業法務弁護士の美里先生とともに、クラウドファンディングサイトを運営する企業に赴くが…。果たして十億円は集まるのか。そして犯人と、その思惑はー?新機軸のノンストップ・ミステリー!第8回新潮ミステリー大賞受賞作。
私たちの東京は静かだ。私は息子と手をつないでいる。傍らには犬もいる。私は多くの著作を持つ作家であり、地下鉄にサリンを撤いた「教団」にかつて拉致された。そこで「予言書」を書かされた私は、後に一人の赤子を連れて脱出した。彼と私に血のつながりはない。だが、私は彼の父であり、警戒を怠らない。なぜなら、息子は二代めの教祖とされているからー寓意と熱情に満ちた当代随一の琵琶法師的文学が語られ始める。
ギャラ飲み志願の女性、深夜の学校へ忍び込む高校生、寝たきりのベッドで人生を振り返る老女、親友をひそかに裏切りつづけた作家…かれらの前で世界は冷たく変貌しはじめる。これがただの悪夢ならば、目をさませば済むことなのに。感染症が爆発的流行を起こす直前、東京で6人の男女が体験する、甘美きわまる地獄めぐり。
猫のまたぐらよりも暑い夏の日の午後、ヒョウアザラシのヒョーの誕生パーティーの只中に、マフィアのチェレンコフとその一味が銃殺された。ひとりのこされたヒョーはチェレンコフの亡霊に促され、アザラシ用ゴルフカートで町へと繰り出す。汚染された土地、プラスチックの雨、奇妙な人々、破壊された次の地球ー。ふくざつな世界の大きなかなしみをめぐる、比類なき物語。