出版社 : 早川書房
NYを襲った同時多発テロは、アメリカ国民に深い傷跡を残した。そう、わたしの心にも。恋人でジャーナリストのモレルがアフガン取材に出て戻ってこないのだ。わたしは何度も帰国を促したが、モレルは「きみのほうこそ、もっと悲惨な状況をくぐり抜けてきたじゃないか」といって取り合ってくれない。募る不安から、わたしはより熱心に仕事に打ち込むようになった。そんな矢先、得意客のグレアムから依頼があり、わたしは飛びついた。なんでも、彼の母親が以前住んでいた邸宅に不法侵入者の気配があるので調べてほしいという。さっそく訪れた無人のはずの邸には、なぜか少女の姿が。わたしは話をしようと追いかけたが、足を滑らせて庭の池に落ちてしまった。必死で水草を掴もうとして手にしたのは、なんと死んだ男性の手。警察によれば、その男性は黒人ジャーナリストだという。だが、白人が支配する高級住宅地担当の保安官は面倒をさけるため、自殺の線で処理しようとした。そんなのは納得がいかないし、逃げた少女のことも気にかかる。わたしの闘いがはじまった!シカゴの女性探偵V・Iがポスト9・11のアメリカを駆ける。ヒロイン・ハードボイルドの頂点を極めた著者が贈る、V・I・ウォーショースキー・シリーズ最新傑作。
晩餐後、科学者サー・クロード・エイモリーは家の者を集め「この中に極秘書類を盗んだ者がいる」と叫んだ。部屋を暗くしている間に書類を返すことを彼は勧めたが、明かりがつくと殺されていた。彼から国家的大問題について相談したいと言れていたポアロは、真相を追うが…巧みな構成による、同名戯曲の小説版。
戒律を冒した神父はそれでも神聖なのか?酒を手放せず、農家の女と関係を持ち私生児までもうけてしまう通称「ウィスキー坊主」は、教会を悪と信じる警部の執拗な追跡を受け、道なき道を行く必死の逃亡を続けていた。だが、逮捕を焦る警部が、なじみの神父を匿う信心深い村人を見せしめに射殺し始めた時、神父は大きな決断を迫られるー共産主義革命の嵐が吹き荒れる灼熱の1930年代メキシコを舞台にした巨匠の最高傑作。
亡くなった叔母の遺品、一幅の風景画を見たタペンスは奇妙な胸騒ぎをおぼえた。描かれている運河のそばの一軒屋に見覚えがあったのだ。悪い予感を裏づけるかのように、絵のもともとの所有者だった老婦人が失踪した…初老を迎えてもますます元気、冒険大好きのおしどり探偵トミーとタペンス、縦横無尽の大活躍。
山寧大学の楊教授が、脳卒中で倒れた。夫人はチベットに赴任中、娘の梅梅は北京で医学院受験に追われている。愛弟子で梅梅の婚約者でもあるぼくは、学部を取り仕切る彭書記から教授の付き添いを命じられた。病床で教授はうわ言を口走り、高潔で尊敬を集める人とは思えぬその言葉にぼくは驚く。どうやら経費の問題、不倫の疑い、何者かにゆすられている節もあった。意識の混濁する教授に翻弄され、迫る大学院入試の準備もできず、ぼくの苛立ちは募る。どんなに学問を究めても役人より格下でしかないと、学者の人生を悔いる教授の激しい憎悪と惨めな姿を目にするうちに、ぼくは自分の進路に疑問を抱く。そんなぼくを梅梅はなじり、去っていく。折りしも北京では自由を求める学生が続々と天安門広場に集まっていた。すべてを失ったぼくは北京へ向かうが…。全米図書賞受賞作家が天安門事件を題材に、非情な現実に抗う人間の姿を描く渾身の書。
父親の食料品店で配達の手伝いをして働く若者バードンは、配達先で人妻の欲求不満解消にも一役買っていた。いまはエッチな人妻プルとセックスにはげんでいる。そんな彼だが、じつは深刻な秘密を胸に秘めていた。七年前、彼は仲のよかったいとこを自分のせいで死なせてしまっていた。そのいとこが土のなかから、夜の闇から、彼を呼ぶのだ。バードンは自分を責め、はやくいとこのもとに行かなくてはと思いつめるが、自ら命を絶つ意気地はない。そこで彼は思いついた。人妻との現場を夫に押さえられれば、問答無用でズドンと撃たれて死ねるに違いない。いまのところ彼の目論見は成功していないが、プルの夫は嫉妬ぶかく腕っぷしが自慢の巨体のトラック運転手。バードンの願いがかないそうに思えたとき、三年前に別れた恋人ジョーが町に戻ってきた…人妻との濃厚なセックスに溺れながら、死に魅入られ破滅へとひた走る若者の姿を描いた鮮烈な青春小説。
22世紀末、遺伝子管理局が統括する12基の知性機械によって繁栄していた人類文明は、とあるウイルスの蔓延によって滅びた。そして西暦2643年、ラテンアメリカ-変異体と化した人間たちと種々雑多な組織が蠢く汚濁の地にあって、自治都市エスペランサは唯一、古えの科学技術を保持していた。その実験体にして、知性機械サンティアゴに接続する生体端末の末裔アンヘルは、混沌の世界を平定すべくレコンキスタ軍を組織、不老長生のメトセラにして護衛の少年ホアキンらとともに、サンティアゴの到来が近づくグヤナ攻略を画策していた。いっぽう民衆たちのあいだでは、サンティアゴを神の降臨と捉える参詣団が形成され、その中心には守護者として崇められる青年JDと、謎の少女カルラの姿があった。アンヘルは、ある思惑を秘めて二人との接触を切望するが…。精緻にして残虐なるSF的イメージと、異形の者たちが織りなす愛憎と退廃のオペラ-沖方丁、小川一水につづく新鋭の叙事詩大作。
自分が犯したらしい殺人についてご相談したい。そう言ってポアロを訪ねてきた若い娘は、結局何も告げないまま立ち去ってしまった。その午後、事情通のオリヴァ夫人から事情を聞いたポアロは、俄然興味を示し、夫人とともに調査を始める。だが娘の周囲に殺人の匂いはなかった…死体なき殺人の謎をポアロが追う。
冷凍睡眠に入っていたユリとケイを目覚めさせたのは、女性型バイオボーグのフローラ。彼女によれば、ふたりが眠っているあいだに、世界はたいへんヤバいことになっているという。起きたばかりのふたりは、彼女の依頼を受けて、危機におちいったこの世界を救うために行動を開始したのだが、またもや信じられないトラブルに巻きこまれてしまう。トラブルを処理するはずのふたりが、なぜか引きおこしてしまうさらなるトラブル。これが、大宇宙を揺るがすダーティペアの復活劇だ。
ロボットは人間に危害を加えてはならない。人間の命令に服従しなければならない…これらロボット工学三原則には、すべてのロボットがかならず従うはずだった。この三原則の第一条を改変した事件にロボット心理学者キャルヴィンが挑む「迷子のロボット」をはじめ、少女グローリアの最愛の友である子守り用ロボットのロビイ、ひとの心を読むロボットのハービイなど、ロボット工学三原則を創案した巨匠が描くロボット開発史。
酒場で出会い深い仲となった「危険なまでに魅惑的」な女モリーの依頼を受けた酔いどれ探偵ミロ・ミロドラゴヴィッチ。レイプされ、無惨に殺された妹の敵討ちを手伝って欲しいというのだ。女の言葉を信じ、容疑者が現われるはずの公園へと向かったミロだったが…テキサスで酒場を経営し退屈な日々を送っていたミロを突如襲う無数の銃弾。酔いどれ探偵に安息の日々は訪れないのか?ついに沈黙を破った巨匠が放つ、叙情派ハードボイルドの新傑作。CWA(英国推理作家協会)賞シルヴァー・ダガー賞受賞作。
復讐、虐待、束縛、背徳、疑心暗鬼…暗黒の深淵にたたずみ、卑しさ故に純美な五人のファム・ファタルと、翻弄され堕ちていく愚かな男たち…。狂気と愛憎の狭間で揺れ動く壮絶な人間模様を抉り出した「蝋燭遊戯」「老人と膿」「You裡」「代償」「夢の報酬」の五篇を収録。クライム・フィクションの鬼才が放つ現代悪女列伝。
1906年、サンフランシスコは黒幕の支配下で市政・警察は腐敗していた。市を浄化すべく警察副本部長バイロン・ファロンが闘いを開始するが、彼は死亡してしまう。バイロンの息子の新人警官ハンターは父が何者かに殺害されたものと考え、ブラザーフッドと呼ばれる彼の親族とともに、指紋、盗聴、録音といった最新の技術を用いて捜査し、悪辣な一派を追いつめていく。だがその時、未曾有の大地震が直撃、建物は倒壊し、市は炎に包まれた。混乱と惨状の中で繰り広げられる、正義の闘いの行方は?市の浄化に命を賭けた男たちの壮大なドラマ。ワーナー・ブラザースが1億3000万ドルの製作費をかけて映画化する話題作。
おれの名前は三神外道、通称げど、酒と小説をこよなく愛する、しがない広告屋だ。だがおれには、眠ることで小説世界に侵入できる「小説探偵」としての顔がある。日々訪れる依頼人は、未解決の伏線に消えた息子を探す人妻、耽美小説の超美形キャラに、自作内ギャンブルに溺れた三文作家-現実と小説世界をまたぐさまざまな難事件を解決していくおれだったが、やがて、失われた記憶にまつわる巨大な陰謀が、悪意に満ちた全貌を現わしつつあった…。ミステリ、ホラー、時代小説、ファンタジイほか、あらゆるジャンル小説に過剰な愛をそそぎこんだ、7篇収録の連作集。
走行中の豪華列車“ブルー・トレイン”内で起きた陰惨な強盗殺人。警察は被害者の別居中の夫を逮捕した。必死に弁明する夫だが、妻の客室に入るところを目撃されているのだ。だが、偶然同じ列車に乗り合わせたことから、事件の調査を依頼されたポアロが示した犯人は意外な人物だった!新訳でおくる初期の意欲作。
外国人留学生の多いロンドンの学生寮で盗難騒動が次々と起き、靴の片方や電球など他愛のないものばかりが盗まれた。が、寮を訪れたポアロは即刻警察を呼ぶべきだと主張する。そしてその直後、寮生の一人が謎の死を遂げる。はたしてこれらの事件の裏には何が…マザーグースを口ずさむポアロが名推理を披露する。
おしゃれで、潔癖で、自負心が強く、小柄な体格で風変わりなベルギー人が、“灰色の脳細胞”を駆使して、次々と難事件を解決する…いまや世界に知らぬ人のない名探偵エルキュール・ポアロが、よき相棒のヘイスティングズとともに14の謎に挑む!ミステリ史上屈指の名コンビが活躍する最初の短篇集。新訳で登場。
雪に閉ざされたゲストハウスに電話が入った。ロンドンで起きた殺人事件の関係で警察が向かっているという。やがて刑事がやってきて…マザー・グースの調べにのって起こる連続殺人劇、戯曲「ねずみとり」の原作をはじめ、ポアロ、ミス・マープル、クィンら、名探偵たちの推理がきらめく珠玉の短篇集が新訳で登場。
慈善家の老婦人が殺され、評判の悪い養子のジャッコが逮捕された。彼はアリバイを主張したものの有罪となり、獄中で死んだ。それから二年後、外国から帰ってきた男が、ジャッコの冤罪を告げに遺族の住む屋敷を訪れた。が、その来訪は遺族にとって迷惑だった。落着したはずの事件が蒸し返されることになったのだ。
18世紀半ばのヴェネツィア共和国では、厳しい衰退期を迎えていたにもかかわらず、人々の生活は芸術に囲まれた華やかなものだった。そんな中、密かな恋愛に身を焦がす若者たちがいた。前途有望な貴族の子息、アンドレア・メンモと、イギリス人の血を引く美しい娘ジュスティニアーナ・ウィン。両家から交際を認められない二人は、記号をちりばめた秘密の手紙で情熱の言葉を交わし合う。やがて訪れた避けられない別れを前に、それぞれが選んだ道とは…ともにジャコモ・カサノヴァの友人であり、これまで謎とされてきたアンドレアとジュスティニアーナの恋物語を、圧倒的な筆致で再現した感動のノンフィクション。