出版社 : 明徳出版社
昭和三十五年に金子清超師に入門して以来、自詠自書を標榜された先師に倣って、その道を歩んできた。作成した漢詩は二千首強、批正され掲載された漢詩は一千首を超えてきた。 これまでの旅行や職業柄、各地へ訪れた際にその情景や当時の思いを漢詩で表現するようになり、その集大成として四冊の漢詩集として纏める事とした。その第三集。 第一集は花を題材にした『日比谷公園百花選漢詩集』。第二集は中国・台湾の旅游を題材にした『中国百華選漢詩集』。 そして今回は、昭和三十五年から今日までに国内各都道府県の旅遊を題材に、百か所百余首を選び、『扶桑百和選漢詩集』として編纂。題名の「和」は日本の名称「大和」からとった。金子清超師、ならびに石川忠久師の漢詩も「参考漢詩」として掲載。
久坂玄瑞と高杉晋作は松下村塾で、吉田松陰の薫陶を受けた門下生のなかでの双璧である。 維新の変革期に、二人は身を挺して新しい時代をつくるべく奔走した志士であったが、ついに明治という近代国家の出現を見届けることなく、中途で倒れた。 玄瑞が蛤御門の変で討死にしたのは二十四歳。まことに短い生涯であったが、そのなかで、玄瑞はよく詩を賦した。 現存する彼の漢詩は三百三十余篇に及ぶが、その詩型は五・七言の絶句から律詩、さらに古詩にいたるまで自在によくこなした。日本の漢詩人の多くは作りやすい七言絶句を好む傾向にあるなかで、玄瑞はたしかに異能の漢詩人であった。しかも彼の詩心は深く、その詩才は高い。幕末維新期の最も傑出した詩人のひとりだとみてよいであろう。 高杉晋作もこの時代の気鋭な詩人であったことは、衆目の一致するところであるが、詩の表現に典故を巧みに使いこなす技倆においては、玄瑞の詩は晋作の詩をはるかにしのいでいた。若くして玄瑞は本格的な漢詩人の領域に到達していた。 玄瑞は自分の心につよく映るものがあれば、それを漢詩に表現し、自分の心を深く揺さぶるものがあれば、それを漢詩の姿に写し取っていくことにおいて、すこぶる熱心であった。それほどに玄瑞は自らが詩人であることに自覚的であったといえるであろう。 玄瑞の漢詩の典故表現ひとつをとりあげてみても、その学識教養は半端なものではない。それを誰から学んだのか。そこには蘭方医であった兄の玄機、玄機の友人の詩僧月性と中村九郎、そしてなによりも師の吉田松陰、口羽憂庵、さらには玄瑞が江戸に出向いた際に入門した芳野金陵などの指南が介在していたと考えられる。もうひとつ、玄瑞が二十歳過ぎたころに参加した「嚶鳴社」で漢詩作りの鍛錬を受け、そこには萩藩の学舎明倫館出身の名士たちがいて、その人たちから受けた影響も見逃せないであろう。 久坂玄瑞という詩人像は彼の天性の詩人としての資質と、こうした彼の青年期に培った学問の蓄積と詩作の鍛錬がなければ、実を結ぶことはなかったであろう。 西郷隆盛が維新政府の参議であったときに木戸孝允にむかって、「久坂先生がいまごろ存生なれば、お互いに参議などと威張ってはいられませんな」と語ったという。西郷は、「敬天愛人」の思想に徹した至誠の人であった。その西郷の玄瑞観である。玄瑞もまた至誠の人であった。 さてこの至誠の人玄瑞の詩三百三十余篇の一篇一篇の詩心を読み解いてきたのが、この『久坂玄瑞全訳詩集』である。 これに『久坂天籟詩文稿』を併録しているが、天籟は玄瑞の兄の久坂玄機の号である。玄機は緒方洪庵の適塾で塾頭をつとめたほどの蘭方医であったが、のちに萩毛利藩の藩医に招かれて早逝した。その遺文も併せて読み解くことにした。 なお、昨年は明治になってから百五十年の節目にあたり、また今年は記念すべき改元の年を迎えた。本書の刊行が久坂兄弟の新しい詩文研究に役に立ち、その人物事績にたいする再評価の端緒になることを心から願っている。(まえがきより)
鎌倉時代の道元から昭和まで活躍した徳富蘇峰の作まで、各時代の愛誦すべき注目すべき漢詩254首を精選、訳注し、作者の個性や境遇、また社会背景を述べた著者一流の丁寧な解説を加えて、日本漢詩の流れと作品の魅力・特質を感銘深く語った待望の書。
奈良時代から現代にいたるまで、 日本人が詠んだ漢詩から、 独特の視点によって選出した四四〇首に、 注釈の他、 旧来とは異なった説を施した 『漢詩名作集成〈中華編〉』の姉妹書。
21世紀の世界はどうなるか。レーブン博士という仮想の人物が西暦2106年という地点からふり返って、世界歴史を記憶するという形式で描かれたこの人類の未来図は、恐るべき精緻な予言に彩られている。上巻では自由競争と貨幣制度が招いた現代の危機感を卓抜な歴史観を背景に科学的に分析し、今日、真に世界が直面している問題を明解に論じる。世界国家の実現によって、どんな豊かな社会が人類に訪れるかを描いたウェルズの最高傑作。
20世紀は悉く本書の予言が的中した時代であった。それでは次に来るべきものは何か。人類を絶滅に瀕せしめる原水爆使用の「第三次世界大戦」であろうか。かの傑作『世界文化史大系』につづいて、150年間の人類の運命を予言した書。この原書が1933年に出版されてから、今日まで世界の重大事件は予言通りに当たってきた。下巻では人類の世界国家の理想を雄大な構想をもって締め括り、21世紀への輝かしい展望と希望を与える偉大な文明論。