出版社 : 東京創元社
死神だ。死神が来たー罪を犯した者たちが乙姫警部に出会って最初に抱くのは、畏怖をはらんだそんな錯覚だ。削ぎ取ったように痩せた頬、刃物で切り落としたようにシャープな顎、悪魔を思わせる鉤鼻、そして虚無の深淵を覗き込んだかのような陰気で表情の感じられない瞳。それらが与える死神めいた印象に違わず、乙姫警部は、じわりじわりと犯人たちを追い詰める。“猫丸先輩”シリーズや『星降り山荘の殺人』の倉知淳が挑んだ、“刑事コロンボ”の衣鉢を継ぐ大人気倒叙ミステリシリーズ!
兄は船旅に出る妹を見送ったが、それは彼女が乗る予定の船ではなかった。ひと月後、妹から手紙が届く。彼女は、その船では日付も時刻も現在位置も確認できないと書いていた。手紙を読み進めるにつれ、内容はさらに常軌を逸していき…(「船の話」)。ある日突然、部屋の中に謎の大きな鳥が現れる。“わたし”は、なぜか外に出ていかない鳥の正体を突き止めようとするが…(「ロック鳥」)。旅行から帰ったら、自分が死んだとアパートの住人に触れまわった女がいたという奇妙な話を聞かされて…(「六月半ばの真昼どき」)。大都会N市では、死体から蘇生させられた“灰色の者”たちが、清掃や介護などの労働を人間の代わりに行っていた。彼らに生前の記憶は一切なく、恐怖も希望も憎悪も持ち合わせていない。しかしある時、“灰色の者”たちにすさまじい変化が訪れ…(「その昔、N市では」)。日常に忍びこむ奇妙な幻想。背筋を震わせる人間心理の闇。懸命に生きる人々の切なさ。戦後ドイツを代表する女性作家の粋を集めた、全15作の日本オリジナル傑作選!
日本SFを牽引する注目の書き手による最新作6編 全編書き下ろし 第13回創元SF短編賞受賞作を収録 八島游舷、宮澤伊織、菊石まれほ、水見稜、空木春宵、笹原千波 ベテランから日本SF界の未来を担う新鋭まで、現代SF界を牽引する書き手が集結。新時代を創る書き下ろしアンソロジーシリーズ第5巻。今回は、宮澤伊織、水見稜、空木春宵、八島游舷、菊石まれほの新作と第13回創元SF短編賞正賞受賞作・笹原千波「風になるにはまだ」を掲載する。 ■目次 はじめに 八島游舷「天駆せよ法勝寺[長編版]序章 応信せよ尊勝寺」 宮澤伊織「ときときチャンネル# 3【家の外なくしてみた】」 空木春宵「さよならも言えない」 笹原千波「風になるにはまだ」(第13回創元SF短編賞 正賞受賞作) 第13回創元SF短編賞選考経過および選評 水見稜「星から来た宴」 菊石まれほ「この光が落ちないように」 ちいさなあとがき 編集部より
どこをさがしても見つからない。いくらさがしても見つからない。残り一球が見つからないと帰れない。いったいボールはどこへ行ったのだ?闇雲にさがしても無駄だ、頭を使おうと高校野球部の部員たちは推理でボールの行方を突きとめようとする。著者の出発点となった「ボールがない」をはじめ、天文部員が天体写真を添付したメールの謎の解明に挑む「宇宙倶楽部へようこそ」、実在のスイッチバック駅を舞台に殺人の謎を描いた表題作など五編。ああでもない、こうでもないと推理を重ねたその先に、意外なところから真相がひょっこりと顔を出す、鵜林ミステリの個性を示した第一作品集。
岡山の名士が遺した二通の遺言状。一通目の遺言に従って、一族の面々は瀬戸内の孤島・斜島に集められた。行方を晦ましていた怪しげな親族までもが別荘『御影荘』に招かれて奇妙な空気に包まれるなか、もう一通の遺言状は読みあげられた。翌朝、相続人の一人が死体となって発見される。折しも嵐によって島は外界から隔絶される事態に。相続人探しの依頼を受けていた私立探偵・小早川隆生と遺言執行人の代理を務める弁護士・矢野沙耶香、ふたりは次から次へ奇怪な事件に巻き込まれていく。鬼面の怪人物の跳梁、消える人影、そして一族が秘密にしていた二十三年前の悲劇ー続発する怪事の果て、探偵たちの眼前に驚愕の真相が現出する!本屋大賞作家が満を持して放つ、謎解きの興趣を隅々まで凝らした長編ミステリ。
青春時代にテレビのリアリティ番組に夢中になったメラニー。彼女は今や、サミーとキミーという兄妹の母となり、YouTubeで彼らの動画を公開し、何百万人もの視聴者を獲得している。サミーとキミーはキッズインフルエンサーとして有名になり、たくさんのスポンサーがついていた。しかしある日、かくれんぼの最中に六歳のキミーの姿が消えた。誘拐が疑われ脅迫状も届く。金目当てか?成功者への嫉妬か?怨恨か?小児性愛者か?パリ司法警察局が捜査を開始し、メラニーと同世代の警察官で捜査記録官のクララも事件を精査しはじめる。クララもかつては、親に隠れてリアリティ番組を見ていた少女だった。ネット社会で翻弄される人たち…。そしてSNSネイティブの子供たちの未来を知る人はまだいない…。SNS全盛の現代、子供たちを、そして人々を待ち受ける闇をミステリ的筆致で描いた恐ろしくも予言的な問題作。母親は言う。「我が家では、子供が王様なんです」と。
東京でフリーライターとして働く小野寺衛は、同棲する恋人の妊娠が判明した夏の日、伯母からの電話を受ける。それは故郷に残してきた兄の死の報せだった。兄・聡には知的障害があったが、死因は自殺ということ以外なにもわからない。葬儀のため七年ぶりに地元・松島の地を踏んだ衛は、兄の死の真相を探る決意をする。父親、伯母、幼馴染みと、聡と関わりの深かった人物に話を聞いていくことで、慟哭の真実が明らかにー!エッセイ『しくじり家族』『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』で話題の著者が贈る、鮮烈なミステリデビュー作。
愛媛県の山間部にある赤虫村には、特異な妖怪譚が存在する。黄色い雨合羽を着て嵐を呼ぶ「蓮太」、火災を招く「九頭火」、廃寺に現われる無貌の「無有」、そして村の有力者一族が信奉する「苦取大明神」。かねてから赤虫村について調査していた怪談作家・呻木叫子は、村の名家・中須磨家を襲う不可能犯罪の解明に関わることになる。神木の枝上に遺棄された全裸屍体、石蔵の密室で発見された焼屍体…立て続く事件は衝撃の結末を迎える。第十七回ミステリーズ!新人賞受賞者による初長編。
徐々に感情が失われていく病「アエルズ」に罹患した、元麻酔科医・伝城英二。空腹は感じるがそれを不快には感じない。うまくもまずくもないので、食べ物にも興味がなくなった。ファッションや人間関係についても同様だ。毎日同じ料理を食べ、人付き合いも最低限にして暮らしていた英二はある日、アエルズ患者八名が共同生活を送る“情無連盟”から加入の誘いを受ける。だが英二が泊まりがけで見学に訪れていたさなか、連盟員の一人が殺害されてしまう。不可能状況下、しかもあらゆる欲求を失い、怒りも悲しみも感じない「情無」たちが集う屋敷で、なぜ殺人事件は起こったのか?現役医師であり、ミステリーズ!新人賞受賞作家である著者が相棒・眞庵と共作した、本格犯人当て長編。
安息を求める人々が集う「とらすの会」。皆の輪の中心で微笑む美しい「マレ様」に殺したい人間の名を告げると、必ず凄惨な死を遂げる。錯乱状態に陥った少女は、オカルト雑誌のライター・美羽の眼前で突然、爆発するように血肉を散らして死んだ。スクープを狙った美羽は「とらすの会」を訪ねるが、マレ様に出会ったことで、想像を絶する奈落へと突き落とされるーホラー界の新星が描く、美しい異常。
巨きな魚の腹のなか。乗っていた舟ごと魚に呑み込まれたジュゼッペは、そこにあった朽ちかけた船で発見した航海日誌に、自分の来し方を綴っていく。彼が創った、木彫りの人形ピノッキオに命が宿ったこと。学校に行って戻ってこなかったその子の行方を探し、小さな舟で海に漕ぎだしたこと。そして彼の手記はさらに遡り…。絶望的な状況下、ジュゼッペ老人は何を思い、何を綴ったのか。鬼才ケアリーが描く、もうひとつのピノッキオの物語。
彼らの敵は人ではない。--ある種の神だ。 戦闘サイボーグ部隊vs.高次元生命体が憑依した超人。 第6回創元SF短編賞受賞作にはじまるアクションSF連作長編。 〈裏世界ピクニック〉の著者、もう一つの代表作! その男は北京の空高く浮かび、ステップを踏んだ。力強く、優美な、狂気を秘めた舞い。そのたびに戦闘機は墜とされ、地上には深々と炎が刻印される。かくしてユーラシアは滅び去ろうとしていた。--西暦2030年、砂に埋もれ廃墟と化した北京へ、米軍の戦争サイボーグ部隊の精鋭12名が突入した。この神のごとき超人、エフゲニー・ウルマノフを倒すために。 第6回創元SF短編賞受賞作収録。『裏世界ピクニック』の著者による本格的アクションSF、ついに書籍化。
治承四年(一一八〇年)。平清盛は、高倉上皇や平家一門の反対を押し切って、京から福原への遷都を強行する。清盛の息子たち、宗盛・知盛・重衡は父親に富士川の戦いでの大敗を報告し、都を京へ戻すよう説得しようと清盛邸を訪れるが、その夜、邸で怪事件が続発する。清盛の寝所から平家を守護する刀が消え、「化鳥を目撃した」という物の怪騒ぎが起き、翌日には平家にとって不吉な夢を見たと喧伝していた青侍が、ばらばらに切断された屍で発見されたのだ。邸に泊まっていた清盛の異母弟・平頼盛は、甥たちから源頼朝との内通を疑われながらも、事件解決に乗り出すが…。第四回細谷正充賞を受賞した話題作『蝶として死す』に続く、長編歴史ミステリ!
舷から堕ちていった少年の名は、白菫といった。船は純真無垢な少年たちと智慧ある導師を乗せ、楽園を目指して天空の旅をしていた。かれの墜落死は不運な事故とされた。この希望に溢れた船上に、みずから身を投げる理由などあるはずがなかったから。けれど、親友の矢車菊には気がかりなことがあった…。幻想文学の新鋭による初の小説集。
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』に先駆けて発表された英米の吸血鬼小説に焦点を当てた画期的アンソロジーが満を持して登場。バイロン、ポリドリらによる名作の新訳、伝説の大著『吸血鬼ヴァーニーーあるいは血の晩餐』抄訳ほか、ブラックユーモアの中に鋭い批評性を潜ませる異端の吸血鬼小説「黒い吸血鬼ーサント・ドミンゴの伝説」、芸術家を誘うイタリアの謎めいた邸宅の秘密を描く妖女譚の傑作「カンパーニャの怪」、血液ではなく精神を搾取するサイキック・ヴァンパイアものの先駆となる幻の中篇「魔王の館」など、本邦初紹介の作品を中心に10篇を収録。怪奇小説を愛好し、多彩な翻訳を手がけてきた訳者らによる日本オリジナル編集で贈る。