出版社 : 水声社
ポーランドの炭鉱、チェコの森、ウクライナの麦畑…ロシア・中東欧の厳しくも豊かな自然は、文学や絵画でどのように描かれているのか。国家や民族の問題が影を落とすロシア・中東欧文学を、地政学や文明論を超えたエコクリティシズムの観点から批評し、新たな読解の枠組を提示する。
いま花開く韓国詩歌 韓国伝統の抒情詩型である「時調」のエッセンスを受け継ぐ4詩人の作品64首を対訳で紹介。現代韓国に生くる人々の魂の響きがわれわれを揺さぶる! 「本書は、時調文学の豊穣を、その一端に過ぎないが、その一端だけでも垣間見ることを許してくれる。まさに至福である。多くの読者がこの至福に今後与れることを、心より願ってやまない。」(堀田季何「時調文学の豊穣を垣間見る」より抜粋) 言葉の時間 四人の時調と翻訳の出会いと響きーー前書きにかえて 安修賢 時調文学の豊穣を垣間見る 堀田季何 時調翻訳の美学と可能性ーー世界文学への歩み 藤本はな ・時調四歌仙作品集 時調四歌仙の扉を開く 詩人(孫澄鎬)/稲束(李垙)/歯磨き(卞鉉相)/吊り橋(鄭熙暻) 孫澄鎬の時調 鍍金時代/猫の爪/水平線/恋の傾き/淡々たる視線について/払い戻せぬ話/お悔やみ/裂け目/木蓮の菩薩/島/器/ふと/突然/月光の椅子/共存 李垙の時調 詩/飛び石/墨/玄関/大工の張さん/梯子/赤き熟柿/椿の花/ハリネズミ/土留めの壁/雨後/じょうろ/ジャンケン/出棺/大雪警報 卞鉉相の時調 正面衝突/藍色の空を見上げる/半月/いいな!/眠気の隠喩/恋/鉄道/クレジットカード論/化石の言葉/電気溶接/俄か雨/流れ星/潭陽/風鈴/家族 鄭熙暻の時調 古びた扇風機/ポスト・イット/昼寝/スプリンクラー/日曜日/クリルオイル/滝/天気予報/木蓮/肘笠雨/星評価/ドライバー/百合/復元 12-粒子状物質/竹の子 時調ルネサンスと時調の在り方をめぐって 安修賢 時間の翻訳、時調と人文学のコラボーー後書きにかえて 安修賢
南アフリカ出身のノーベル文学賞作家、J・M・クッツェー。難解とされてきたその作品世界の根幹をなすメカニズムとは? 創作ノートを精査することで、内容・舞台、そして発表時期のまったく異なる代表作『夷狄を待ちながら』『恥辱』に続編関係を見出し、立体的に精読する、クッツェー研究の新たなる到達点。
桂冠詩人コリーヌは、恋人の英国軍人オズワルドとともに、ローマ、ナポリ、遠くヴェネツィアまでも旅する。古代ローマを懐に抱くイタリアの恋物語。硬直した社会と祖国への義務に阻まれ、揺れ動く恋と苦悩を描く傑作小説。
『あら皮』の結末から、天国を透かし見る。ダンテとラブレーの精読を経て、悪魔に魂を売った破滅の物語の『あら皮』は、罪の浄化というもう一つの物語に反転するー。「風俗研究」と「哲学的研究」の架橋を目論むバルザックの広大な構想が明らかに。
物語は誰かの手によって語り直される、慰めのために、励ましのために、そして真実のために…… 数奇な運命を辿り作家の手元に届いた物語ーー忘却された真実を捉える写真、愛憎極まった読者からの手紙、匿名の暴力に晒される失踪劇、理由なき殺人を生き延びた男の撮る映画、伝説的ヴォーカリストの最後の録音、自由を求めて生きた女性の評伝ーーこぼれ落ちた記憶に息吹をあたえ、物語を歌いあげる9作品。 川岸の女 分身 蛙 悪い知らせ ぼくたち 空港 少年たち 最後のコリード 歌,燃えあがる炎のために 著者による注記 訳者あとがき
百年の解読 四国のハイデルベルクからシャトーブリアンの「死活」を考える、フランス文学者の仮構のふるさと探求。 戦後のオートバイ屋は、飛行機乗りの成れの果て? ラバウル小唄からトンコ節へ、大衆歌謡とエンジン音が響く、昭和百年の家族史、産業叙事詩! 《回想録ならこんな具合に見た通りに書くから悩みがない。ところがそこに虚構を交えようとした途端、整合性が崩れ、嘘が露わになってしまう。そこが素人には難しい。数学で言う線形変換のように、平行移動とか、回転や反転とか、公式を使ってやれればいいのだが、小説作法でそのマトリックスはまだ知られていないようだ。 やや広い視野で見れば、吉野川は西日本では最も大きな川の一つで、四国三郎と呼ばれ、長さは二百キロメートルに近い。筑紫次郎と呼ばれる九州の筑後川は全長百五十キロメートルに満たないから、人間なら弟の方が格下ではあっても、上背では兄に勝っている印象だ。和歌山県の北部を流れる紀ノ川の上流部分も吉野川と呼ばれる。これは修験道の聖地たる大和南部の山々から、南朝の宮居があった吉野を巡って西流するので、四国の吉野川とは紀伊水道を挟んでやや左右対称のような関係にある。四国の側は下流まで吉野川だ。雅称として「芳水」と呼ばれることもあるようだ。だから皆吉は「芳水」の中流、南岸に位置する谷口町で、ここに流入する支流が皆瀬川である。 四国山地の山々でも修験道はかなり盛んだったと思われる。皆吉駅に降り立った山伏装束の修験者たちが、駅前から国道に出る連絡路で法螺貝を吹き、揃って登山バスの乗り場へと歩いていく姿がしばしば見られた。駅前の連絡路から国道を左折すると、うどん屋を二軒おいて、三つの定期路線を持つバス会社の乗り場と事務所がある。製材所の跡地と背面を接し、その向かいには大きな構えの商店がある。ここは元来魚屋であるが、板前を抱える仕出し屋であり、魚介類や氷などの卸売りもし、裏手には広い宴会場を持っていた。これは婚礼の式場にもなった。この二軒、バス会社と鮮魚店が駅前の「分限者」であった。》(本文より)
漆黒から始まる旅路 性愛とは一体何で、なぜかくも残酷なのか? 美しい大樹に魅入られた家族の呪われた生/性を描く表題作のほか、幸福とは、倫理とは、生とは何かを鮮烈に問う二作品を収録。 漆黒・桎梏 シオンの国に行けた稀なひとびと 神を信じない男
世界の無意識に出会うシュルレアリスム小説集! 空から吊り下げられた観音菩薩、死を看取る砂の凹み、崖の下に落っこちた名前、浴槽に横たわる見知らぬ女、落魄した天才詩人の告白、頭にこびりついて離れないメッセージ、在りし日の自分との邂逅……『シュルレアリスム宣言』より100年の時を経て、現代詩のトップランナーが放つ破格の小説! 【目次】 観音移動 死者の砂 崖の下のララ 歌物語あるいは浴槽 ニューヨークのランボー 塔の七日間 夜なき夜
19世紀半ば、南米大陸の調査旅行に同行した画家ルゲンダスは、チリに寄港した折に美しい貴婦人カルメンと邂逅する。お互いに惹かれ合い、一線を越えたふたりの前に現れたのは、ビーグル号で航海中のチャールズ・ダーウィンだった。情熱的な画家と理性的な科学者、対照的な二人の男はアンデスの高みで対峙することとなる…。史実とフィクションを巧みに織り交ぜ、見事な想像力で“愛”を描きだす野心的長編。
奴らに虐げられるな。女性の身体と連帯、歴史と記憶、声と語り、エコロジー、セクシュアリティ/ジェンダー、ケア…。1985年に発表された近未来小説『侍女の物語』と、2019年の続編『誓願』。男性優位の独裁国家を描く暗澹たるディストピア文学が、なぜ今日、フェミニスト・プロテスト文化の象徴として耳目を集めるのか。現実世界の諸相を束ねて生み出された物語世界に、現在そして未来を生き抜くための希望を探る。
『失われた時を求めて』を裏返しに読む。マルセル・プルーストと同じ1871年に生まれた天才芸術家マリアノ・フォルチュニ。作家は彼の創造する“衣装”をいかに効果的に織り込むか、その効果を周到に計算していた…「官能を刺激し、詩的イメージを喚起し、そして苦痛をもたらす役割を、かわるがわる果たす」(プルースト)フォルチュニの絢爛たる衣装がもつ記憶の喚起力を紡ぎ出す。
火山の噴火でカリブ海の故郷を追われ、世界を彷徨し、最期にパリの施設にたどり着いたマリオットが紡ぐ、ある一族の歴史=人生の物語。奴隷たちの先頭に立って戦い、出産後すぐに処刑された実在の黒人女性から始まる家族の物語、ユダヤ系フランス人アンドレとグアドループ出身のシモーヌによる代表作!
男は砂漠で葉書を書いた、そこからすべてがはじまるーー アメリカの大学院で美術史を学ぶ千尋と、並行世界を旅する〈飛行機乗り〉の語りが交差する表題作のほか、憎しみの連鎖を断ち切るためのウィットに富んだ短編「ブラックホールさんの今日この日」を収録。
眠ることで世界の神秘を見つけようとする男を描く表題作「閉ざされた扉」をはじめ、ネコ科動物の絵を蒐集する主人公が狂気にはまり込んでいく様を描く「サンテリセス」、失職した老人と不思議な少女とが出会う「アナ・マリア」、厳格で気位の高い独身女性がはからずも野良犬と意気投合する「散歩」など、日常からつまはじきにされた者たちの世界を優れた洞察力で描き出す著者の全短編。
アメリカの大富豪ロス・ロックハートは、難病に冒された愛する妻の身体を凍結し、未来の医療に託そうと目論んでいた。プロジェクトに大金を投じる父に招かれ、中央アジアの地下研究施設を訪れた息子ジェフリーが見たものとは…?生か、死か、死のない死かー科学技術の進歩は肉体の復活と人類の更新、永遠への到達を約束しうるのか。そして愛は絶対零度の世界でも生き長らえるのか。極限状況において人間の限界を問う、異色の恋愛小説。