出版社 : 河出書房新社
抜きんでた才覚を見込まれ、儒者でありながら右大臣まで上りつめた道真。貴族たちのうごめく野心と、業平と高子らの恋の傍らで、政治家として奔走した劇的な生涯を描く本格歴史小説。
「ひとごろし、がんばってください」-幼い字の手紙を読み終えると、男は温厚な夫婦を惨殺し、水に沈めた。残された「ひとごろし、がんばりました」というメッセージ。二ヶ月前の事件で負傷し、捜査二課を離れ、娘・美央からも引き離された雪平は、娘への思いに揺れながら、再び捜査へ…。
数々のフランス幻想小説の系譜の中でも、サドからネルヴァル、トロワイヤまで、怪奇・恐怖・神秘を主題に書かれた珠玉の澁澤訳作品群を、オリジナル編集。どれも、時代を感じさせない新鮮味のある作品で、とくに文庫版初の『共同墓地』(トロワイヤ著)全篇を収録。澁澤の翻訳の絶妙な味わいを堪能できる一冊。
こんなに純粋で、他に何もない、ただひたすらの欲情に我と我が身が翻弄されるのは実に久しぶりだった。直子と一緒だった頃、俺はこんなふうに生きていたのだろうかー挙式までの五日間、抗いがたい欲情に身を任せる賢治と直子。出口の見えない、男と女の行き着く先は?不確実な世界の、極限の愛。
幼い頃からチャイルドモデルをしていた美しく健やかな少女・夕子。中学入学と同時に大手芸能事務所に入った夕子は、母親の念願どおり、ついにブレイクする。連ドラ、CM、CDデビュー…急速に人気が高まるなか、夕子は深夜番組で観た無名のダンサーに恋をする。だがそれは、悲劇の始まりだった。夕子の栄光と失墜の果てを描く、芥川賞受賞第一作。
初期長篇三部作の第二巻。崩壊の発端を細密に描く「栖」、人間の関係の迷路をめぐって生の闇を暴く短篇集「椋鳥」。古俗と聖性の土地から都市へ、性と出産、関係の失墜、狂気の進行。人間の営みの深い淵をえぐり、現代の男女の危うさを定着した著者円熟期の傑作。
かめくんは自分がほんもののカメではないことを知っている。クラゲ荘に住みはじめたかめくんは模造亀。新しい仕事は特殊な倉庫作業。リンゴが好き。図書館が好き。昔のことは憶えていない。とくに木星での戦争に関することは…。日常生活の背後に壮大な物語が浮上する叙情的名作。日本SF大賞受賞。
「次は…人間を撃ちたいと思っているんでしょ?」 雨が降りしきる河原で大学生の西川が<出会った>動かなくなっていた男、その傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが……。TVで流れる事件のニュース、突然の刑事の訪問ーー次第に追いつめられて行く中、西川が下した決断とは? 「衝撃でした。より一層、僕が文学を好きになる契機になった小説」(又吉直樹氏) 「孤独は向かってくるのではない 帰ってくるのだ」(綾野剛氏) 他、絶賛の声続々! 新潮新人賞を受賞した、中村文則、衝撃のデビュー作。ベストセラー&大江賞受賞作『掏摸(スリ)』の原点がここに! *単行本未収録小説「火」を併録。
『ユリシーズ』『特性のない男』などとともに20世紀前半を代表する前衛文学の記念碑的巨編、奇蹟の復活。1920年代、刑務所から出所した男がベルリンの底辺を彷徨するー都市と人間のたたかいを実験的手法を駆使しつつ、壮大なポリフォニーとして描き出す、近年、再評価の声が高いデーブリーンの代表作。
著者自身が厳選した待望の著作集!聖・俗と狂気をめぐる長篇三部作の劇的な到達点「親」。形式と文体の閾を越え、新領野を拓く傑作「山躁賦」。山の気が、説話の人物が、死者が、過去の自分が深くくぐもった声となって語りかけてくる。紀行ともエッセイとも従来の小説とも分類できない独自の自在な表現と文体の空間がここに登場する!多くの人がベストにあげる著者の代表作。
ふつうの人々の営むささやかな日常にも、心打たれる物語がひそんでいる。その一つ一つをていねいにすくい上げて紡いだ、美しく切ない作品集。妻殺しの容疑で起訴された友人の物語「尾瀬に死す」(TVドラマ化)ほか、ネットカフェ難民の男女の出会いを描いた表題作、はぐれカモメと放浪犬とおばあさんの物語など十四篇を収録。
この箱を開くことは、片手に顕微鏡、片手に望遠鏡を携え、短篇という名の王国を旅するのに等しいー「奇」「幻」「凄」「彗」、こだわりで選んだ16作品にそれぞれの解説エッセイを付けて、小川洋子の偏愛する小説世界を楽しむ究極の短篇アンソロジー。
海生は、23歳の新米の坊主。初めてお勤めをすることになった通夜の最中、棺の上に突然、裸足の女性が現れる。遺影と同じ顔をした彼女は、なんと死んだはずの女子大生だった。自分以外、誰の目にも見えない彼女を放っておけず、海生は寺での同居を提案する。だが次第に、彼女に心惹かれて…若い僧侶の成長を描く感動作。
典型的な幽霊屋敷ものから、悪趣味ギリギリの犯罪もの、秘術を上手く料理したミステリまで、奇才ゴーリーによる選りすぐりの怪奇小説アンソロジー。古典的名作「猿の手」(W.W.ジェイコブズ)、「信号手」(C.ディケンズ)も収録。すべての作品に「何か」を予想させる、かなり怖いゴーリーの描き下ろし挿絵付き決定版。
著者自身が厳選した待望の著作集。谷崎潤一郎賞受賞の長篇「槿」および川端康成文学賞受賞の「中山坂」を収録した「眉雨」を一巻にまとめる。八〇年代の逸脱と不安の裡で進行していた危機をエロスと幻影と謎を柱に実験的な長篇に仕立てた著者最大の問題作。そして巧緻な文体の限りを尽くした緊密な短篇集成。