出版社 : 講談社
あくまで私小説に徹し、自己の真実を徹底して表現し、事実の奥底にある非現実の世界にまで探索を深め、人間の内面・外界の全域を含み込む、新境地を拓いた、“私”の求道者・藤枝静男の「私小説」を超えた独自世界。芸術選奨『空気頭』、谷崎賞『田紳有楽』両受賞作を収録。 ●田紳有楽 ●空気頭
琵琶湖のほとりに嫁いで2年、家の重みと夫の背信から、子を連れ東京四谷へ帰る。心に残る“湖の美”の再現を夢み、新しい愛につつまれながら、染織の世界に生きる。精魂をこめて格調高く織りあげた傑作長篇。
喫茶店で見た油絵は、亡父が宝物にしていて高名画家の作に似ている。そこから回想はわが家の過去にと及ぶ。父の死、経済危機、姉による絵の売却、さらに姉の私生活の秘密とその死。あの絵はわが家の人生のみならず、売られる度に幾多の人生模様を眺めてきた。人生での休息点「時のカフェテラス」を舞台に人間の哀歓を巧みに描く秀作集。
ハワイのホテルのベッドで、女が男の耳に囁いた。「大きな仕事をして、おいしい暮らしをしようよ」女は高級クラブのホステス、男は未収金の取立屋。女が店の金を持ち逃げし、男が女を追いかけるふりをする。ほとぼりがさめた後、女を訪ねた男を待っていた意外な罠…。男と女のだまし合いを描いたハード・バイオレンス・ロマン。
「悪い星の下に生まれた女」-ライが殺された。オレたちのロックバンドナイトメアのグルーピーだった。誰もその本名を、その哀しい過去を知らない。オレはハード・ロックの神話をいくつでも思い出すことができる。シド、ジミ、テリー、ジャニス…。ハード・ロックにハッピー・エンディングは似合わない。
梨羽五月香は虎の化身伝説をもつ台湾・飛虎族と飛騨忍軍末裔の間に生まれた少女である。自衛隊反乱子によって姉を人質にとられ、日本クーデターと台湾革命計画の渦中に巻き込まれる。旧日本軍埋宝をめぐる残雪の旅路は、陰謀の背後に潜む“鎌倉法王”との対決へ。そこには自衛隊特殊部隊が立ちはだかるー。
寝台特急「富士」に乗っている男が、同時刻に他の場所で殺人を犯すことができるだろうか?日向・札幌・東京で起った殺人事件の真犯人を追って、黒江壮、笹谷美緒の探偵コンビが、犯人のめぐらした鉄壁のアリバイ崩しに挑む。宮崎、北海道、東京を結ぶ、傑作トラベル・ミステリー長編。
父をこよなく愛した幼、少年の日々。敗戦により海軍軍人であった父の失職の帰還。失意と家庭の不幸を耐えた父のストイシズム。人間の魂の高貴を平明、粉飾なき文体で描く秀作群。惜しまれて急逝した不朽の文学者魂・阿部昭の世界。
図書館に蔦の緑濃く、懐しく甦る遥かな日々。初恋に心揺らぎ、悩み、ためらいながらひたむきに歩む学生たち。1960年代のはじめ、チャコールグレイの青春を生きた群像を確かな眼と静謐な筆で描く傑作長篇。
動乱の中世に終止符を打ち、新世紀を開いた豊臣秀吉の生涯を描く、規模雄大な出世物語が本書である。民衆の上にあるのではなく、民衆の中に伍してゆく英雄として、秀吉は古来、誰からも愛されてきた。--奔放な少年時代を過ごした日吉が、世間を見る眼も肥え、生涯の主君として選んだのが、うつけで知られる織田信長であった。随身を機に名も木下藤吉郎と改め、着実に出世街道を歩んでいく。
信長を主に選んだ藤吉郎のすばらしい嗅覚。これは彼の天賦の才で、寧子への求婚でも言えることである。恋がたき前度県千代との、虚々実々の妻あらそい。だが、本巻の眼目は、田楽狭間の急襲にある。永禄3年、今川義元は数万の兵を率い、西征の途に立った。鎧袖一触と見くびられた織田勢であったが、信長は敢然とその前に立ちはだかったのである。この一戦の帰結が、戦国の流れを変えていく。
桶狭間の大勝は、尾張に信長あり、と武名を喧伝はされたが、天下統一への道は第一歩を踏み出したにすぎない。信長の次なる目標は、美濃の攻略である。その拠点ともなるべき洲股ー尾濃の国境に天険を誇る要害の地に、織田軍団の足場をつくりたい。これが信長の渇望であった。だが言うは易く、工事は至難。重臣、みな反対である。時に藤吉郎ひとり、賛成論をブッた。当然、大命は藤吉郎に。
湊川に繰り広げられた楠木軍の阿修羅の奮戦。さしもの正成も“敗者復活”の足利軍に制圧された。正成の死は、後醍醐方の大提防の決壊に等しかった。浮き足立つ新田義貞軍、帝のあわただしい吉野ごもり。その後の楠木正行、北畠顕家の悲劇。しかし尊氏も、都にわが世の春を謳うとは見えなかった。一族の内紛?勝者の悲衰?彼は何を感じていたか。