1987年12月1日発売
聖具室の中は、教会とも思えない地獄絵さながらの光景だった。喉をぱっくりと切り裂かれた二つの死体が血溜りに横たわり、傍らには血糊のついた剃刀がころがっている。ひとりは浮浪者のハリー・マック、そして、いまひとりは、あろうことか、元国務大臣の准男爵ポール・ベロウン卿だった。現場の状況以上に、ベロウン卿の死の直前の行動は不可解だった。突然辞表を提出し、いっさいの公的生活に背を向け、死の晩には、訪れる人も少ない教会に、なぜか一夜の宿を求めてきていたのだ。卿の心中ではいったい何が起っていたのか?謎に満たちスキャンダラスな事件の捜査を指揮するよう命じられたダルグリッシュ警視長は、名門ベロウン家に足を踏み入れ、卿の生前の行動を追いはじめた…イギリス女流本格派第一人者が満を持して放つ待望の本格巨篇。英国推理作家協会賞受賞。
不可解なのは、ベロウン卿の行動ばかりではなかった。彼の周辺でも謎めいた怪死事件が続いて起っていたのだ。彼の前妻は、彼が運転する車に乗っていて事故死、母親付きの看護婦は、妊娠中絶後に自殺、そして臨時雇いの家政婦は後妻の誕生パーティーのさなかに溺死していた。ベロウン卿の死とともに再び捜査線上に浮かびあがったこれらの事件に、今回の事件を解く鍵が秘められているのだろうか?そして、浮浪者ハリー・マックはどう絡んでくるのか!従兄弟と情を通じているベロウン卿の妻、出奔して左翼活動家の許に走った彼の娘、売れない俳優で身持ちの悪い義兄…複雑に絡み合う名門の人間関係に分け入ったダルグリッシュが展開する推理とは?緻密に構成されたプロット、現実味溢れる人物・舞台設定、広がりのあるテーマ-現代本格ミステリに新たな地平を拓くと絶賛を博した話題のベストセラー!
ニュー・ジャージー州シーカークの町は、不正と腐敗にみちていた。正義をなによりも愛するマーヴィン・グッドマンは、もうがまんできなかった。ユートピアだと聞いている、銀河の果ての惑星トラナイへ思いきって旅立つのだ!だが、彼を待っていたのは、あまりにも奇妙なユートピア社会だった…「トラナイへの切符」、エルボナイ星の若きスカウト団員ドロッグが獰猛なミラッシュをみごと仕留める話「狩猟の問題」、宇宙に自分だけの星を求めた男がたどる皮肉な運命を描く表題作ほか、短篇の名手シェクリイがつづる、シニカルなユーモアと優しさにみちた傑作12篇を収録!
街を歩けば誰もがふり返る、魅力的なプロポーションと素晴らしい美貌の持ち主、シャーラ・ドラモンドーだが、モダン・ダンサーとして成功するには、大柄な彼女の姿態そのものが障害となった。バスケットボールの選手が踊る姿など、誰も見たくはない。しかし、もし、重力のないところで踊れるとしたら…スカイファックの軌道上、ゼロGの環境で踊ることに、シャーラは自分の全存在を賭けた!悲劇的なオープニングから、感動的なエンディングまでユーモアを織りこみながら卓越したストーリイ・テリングで描く、1987年度ヒューゴー、ネビュラ両賞受賞作、待望の文庫化!
暑苦しく、騒がしいニューヨークを逃れて、ひと夏を郊外の別荘で快適に暮らしたい…。誰もがいだく望みを、ロルフ一家は実現することができた。美しい自然にかこまれた、壮麗で古風な屋敷、しかも、賃貸料は格安。ただ、ひとつだけ奇妙な条件があった。「家」の所有者の兄妹が留守のあいだ、老母の食事の用意をして欲しい、というのだったが…骨薫品がみちあふれた壮重な屋敷で次々と起こる奇怪なできごと。高まるサスペンス、蝕む狂気。やがて恐怖の幕は開いた!
航空力学、電子工学などの分野で世界をリードする科学者たちがつぎつぎと行方を絶った。彼らはみな、妻同伴でオーストラリアの新しい職場に向かう途中であった。真相究明を命じられた英国情報部員ベンタルとマリーは、科学者夫妻に変装して、オーストラリアに飛ぶ。だが、中継地フィジーで武装した謎の一団に拉致され、老朽貨物船の船倉に閉じこめられてしまった!いずことも知れぬ目的地に向かう船上から決死の脱出を試みる二人を待ちうけるものは?冒険小説の王者が、最新鋭ミサイルをめぐる陰謀と闘う情報部員の姿をスリリングに描く!
なくなったのは、チョコレートケーキと板チョコが二つ。他には何も盗られたものはなかった。だが、だれかが家に入りこんだのはまちがいない。灰皿には吸殻が山盛りだし、家具の位置もちがっている。しかも、その後も、アイリーンが家をあけるたびに、見知らぬだれかが家で週末を過ごしているのだった。そしてある日、アイリーンは、クロゼットの園芸用長靴の中にマリファナがつっこまれているのを見つけたのだが…泥棒と家主との奇妙な交流を描いた上記「映画ベストナイン」をはじめ、犯罪にまつわるユーモラスな出来事を綴った14篇を収録。
大きな丘の中腹にぽつんと建つ、白いペンキを塗った木造の家。その白い外壁に黒ずんだ汚れがひとすじ、二階の窓から地面までのびていた。自殺したマイアの手首を切った血の跡だ。マイケルにさよならと伝えてー私立探偵アーロン・マッケルウェイが依頼された仕事は、自殺した女の最後の言葉を相手に伝えることだった。彼は、ただそれだけのために、マイケルという男を探し始めた。カリフォルニアの透明な空の下で、21歳の私立探偵が出会った、心さまよう孤独な男たち、女たち。上記「ハンバーガーの土曜日」ほか5篇を収録する連作短篇集。
私の追っていた弁護士は、レストランの駐車場で撲殺されていた。800万ドルにも及ぶ横領が発覚し有罪となったが、証券取引委員会にすべてをぶちまけると宣言し、ある場所に隔離されていた男だ。こうなると、不利益を被った法律事務所からの依頼も水の泡だ。誰が何を目的として、彼を葬ったのか。私はいつのまにか事件に深入りし、気づいたときはのっぴきならない状況に追い込まれていた。ウォール・ストリートに巣くう巨大な悪にただ1人立ち向かう元ジャンキーの私立探偵の苦闘。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞の傑作ハードボイルド。
ええーっ、あのわがまま勝手なブルース・パットマンが本気の恋をしてるんですって?まさか、ウソでしょう!プレイボーイのブルースをその気にさせたのは、とってもやさしいレジーナ・モロー。でもブルースったら、ホントに本気なのかしら。もし、いつもみたいないいかげんな気持ちだと、レジーナがすご〜く傷ついちゃうわ…。エリザベスたちのそんな心配をよそに、ふたりはすっかりいいムード。でもでもやっぱり何か起きそうな気がするんだけどなァ。
ご主人様はいったいどうしたんだろう?夏別荘に残された電気器具たちは、帰ってこないご主人様をたずねて、はるか大都会をめざし、野をこえ川をこえ、冒険の旅にでたが…。イギリスSF賞、ローカス賞受賞。
24世紀後半の火星。頓挫した惑星改造計画により、取り残された植民団の末裔は機械との共生社会を築きあげていた。知性ある機械生物とも呼べるそれは〈ヴィートル〉と呼ばれ、人間とお互いに助け合って生きていた。人間の相棒を盗賊団に殺された〈ヴィートル〉ローテ・ブリッツは彼らに復讐を誓った。そして新たな相棒ノルド・ヴェストを得て〈ヴィートル〉ローテ・ブリッツの復讐が今始まる!カヴァー、口絵は横山宏氏製作によるジオラマ写真で構成!
障害騎手キット・フィールディングは、レースで勝ち鞍をあげながらも心の晴れぬ日々を送っていた。馬主のカシリア王女の親類である婚約者ダニエルが、他の男に心を移しそうになっているのだ。その男は王女の甥リツィ王子。身分、財産ともにキットとは雲泥の差、しかも容貌、人柄もすぐれた紳士である。また、キットに恨みを抱く理事アラデックはレースのたびにキットをつけまわし、破滅させるチャンスを狙っていた。そんな時、カシリア王女の夫が会社の共同経営者ナンテールから脅迫を受けるという事件が起きた。王女から助力の依頼を受けて、キットは身を挺してナンテールと闘う決意をするが…。共にレースを勝ち抜いてきた王女の愛馬が殺され、デニエルやリツィの身辺にも危険が及びはじめた!前作『侵入』の主人公キット・フィールディングを再び登場させ、鮮やかなプロットに万人を魅了するレース・シーンを配して贈る、待望の最新作。
角刈りにした油気のない髪は真っ白になりかかって、真っ黒に日焼けした顔にも無数の皺が走っている。殺しを三つ。その他にも傷害と恐喝の前科が四つ。池田組のクニさんといえば、誰もがよけて通る。ある事情からヤクザの足を洗おうとした彼に、最後の仕事が持ち込まれた(「最後の賭け」)。バイオレンス、復讐、裏切り、殺人、女、麻薬、強奪…。ハードボイルドの旗手が描く巷の野獣たち。
北海ビールの林田啓一は、新製品ビアビーフの開発に情熱を燃やす若手社員だ。ビール粕で育てた肉牛をどうやって売り出すか、東奔西走の毎日。そんな彼も女性となると積極的にアタック。社内のOL、人妻と若いエネルギーを発散させてゆく。だが、ガールハントを重ね、性を通じて歓びを共有するうちに、彼は女性を大切にすることは自分を大切にすることだと悟る。女性は白い肌の神々なのだ。力作官能長篇。
村で6年に一度の大祭の夜ー。神へのいけにえとして選ばれた娘たち。軍神ラーラの申し子で勇敢なサーラと英知の神デュロプスの申し子で賢いトゥード。神はいけにえを生きたまま喰うという。しかし神を殺すか、うまく逃げることができれば…。二人の美少女、サーラとトゥードは、神と闘うべく、神の館〈迷宮〉へ…。
高畠二万石織田家のお家騒動を背景に、京都で藍坂党と死闘を繰りひろげた戸並長八郎。女神のようにあがめるおちい様の仏門入りを知らされて江戸に舞い戻るが、かつての生彩はない。そんな長八郎を藍坂党の残党がつけ狙う。「おいち様落飾おやめ」。京の叔父からの便りで明るさを取り戻した長八郎、早速、東海道を一路京へ。それを追う藍坂党の残党。桑名宿で、ついに果し合いの火花が。痛快時代長篇。
5代将軍綱吉の御世、柳沢吉保らの側用人政治を厭い、佐々木助三郎、渥美格之進を従えて諸国漫遊中の黄門光圀は、信濃路の宿で名刀来国次を奪われてしまった。だが、犯人の浪人一味を追って光圀が密かに入府した江戸市中には、光圀を忌む柳沢派が流した“黄門悩乱”の噂が蔓延、さらに柳沢の周辺には秘密の徒党が暗躍し、探す浪人らも加盟しているという…。弱きを助け悪を懲らす、名作時代長篇。