1989年11月1日発売
うんたまぎるー参上。重力のくびきを脱し、夢と現実、善と悪の境を自由にまたぐ沖縄伝承の義賊。ときは幕末、沖にペリーの黒船が寄せ、宣教師ペッテルハイムの聖書と天文学が琉球古来のコスモロジーをゆるがす。世界史の実験場、驚天動地の舞台だ。さあ、活劇が始まるぞ。床屋のテルリン、娼妓のチルー、はては豚からノミの目まで、カメラ・アイを移動する語りのSFX。
裕福な家庭に育ったアンネットは、父の死後、異母妹シルヴィを知り、親しくなる。一方、破産を宣言され、恋人ロジェとも別れる。そして、彼との間に生れたマルクの母としてのたたかいの日が始まる。一次大戦前後のパリに生きる一人の女性を描く大河小説。
最愛の息子にも母の熱烈な愛は理解されない。第一次世界大戦が始まり、アンネットは男子中学の教師として地方へ。母の愛情と権威への屈服を拒むマルクは、不安、恐怖、汚辱の巷パリに残る。一方、シルヴィは娘を不慮の事故で、夫を戦争で失う。
愛しながら傷つけあっていた母と子は、遠くはなれてかえって互いの真の姿を発見する。戦争は終わり、マルクは勉学に革命運動に全力をあげてつきすすみ、アンネットは戦後の頽廃と混乱の中で生活の資を得るために奔走する。
アンネットは一新聞社の社長秘書となり資本主義下の政治・経済社会の虚偽を知るが、マルクは母親の仕事に反感を持ち一時遠ざかる。亡命ロシア人の娘アーシャと結婚したマルクは、ふとした妻の過ちから別居したものの、再び強く結ばれ、反ファシズム活動へ。
家族とともに旅立ったマルクは、イタリアで暴漢に襲われた老人を救おうとして殺される。アンネットは息子と同じ道を進む決心をして悲しみの底から立ち上がる。…現代の女性の生き方にも大きな示唆を与えるロマン・ロラン(1866-1944)不朽の名作。
零落した貴族の館にあってひたすら孤独と無為の日々をおくる青年ジャン。過去の世界を夢見て生きつづけようとする彼は、やがて深い血のつながりと宿命につき動かされ、自分と同名の先祖が150年前にはたせなかった恋を受け継ごうとする…。荷風が心酔した黄昏の詩人レニエ(1864-1936)の傑作小説。
ランボオ、ヴァレリー、ベルグソン、プルースト、サルトル。著者の炯眼は夙く、孤高に屹立するこれら偉大な単独者たちの言説をつらぬく一筋の潜流に着目し、その系譜を書き上げたー本書である。初め著者だけの孤独な確信に止まっていた潜流は、やがて、現代思想の最も豊かな源泉として地表に湧き出でた。著者の類稀まれな先見と創見は、こうして、最先端の諸問題とリアルタイムの直結を果たしたのである。
若き乱歩賞作家が挑むスリル満点の伝奇SF。“D”とはドッペルゲンガー、分身のことである。自分とそっくりの容貌を持つ正体不明の存在だ。満月の前後、自分のDと遭遇した者のほとんどは自殺してしまう。Dの秘密を解く鍵は月にあるのか?人類を自殺により滅ぼそうとしている侵略者の正体は?冬の大雪山を血に染める壮絶な死闘と超能力美少女の謎。長編伝奇アクション。
砲声絶えぬベイルートの市街に姿を現わした戦士・矢沢高雄は、瓦礫の上でかつての戦友、ジェリー・キーズと再会。地獄の街で殺される寸前の女を助けたことから、東西ベイルートを牛耳る闇の実力者イブラヒムが仕掛ける巨大な陰謀と恐るべき軍団を相手に戦うことになった。ファントム戦士伝説最後の戦い。
親友の不可解な転落死の謎を探るため、母校を訪れた高梨洋子に、名門「聖マリア女子学園」のガードは固かった。だが洋子のひたむきな探究の前に次々と異様な事実が浮び上る。月の13日ごとに起こる儀式めいた動物たちの死、黒い聖母の徘徊、そして第二の死。本年度サントリーミステリー大賞読者賞受賞第一作。書下ろし新本格推理。
紀貫之の歌が奇妙な連続殺人の始まりだった。一人はバネ仕掛けの巨大な罠で逆さ吊り。一人は空中から河原に落下。そして死体のそばには百人一首の札。土地開発の嵐で孤立した名門・山王家の人々に次次と届く百人一相の札は、殺人開始の合図だったのか。若くして隠棲した名ハムレット役者、未知雄の招きで村を訪れた舞台俳優、多岐の過酷な推理行が始まった。書下ろし新本格推理。
野に伏す獣の野性をもって孤剣を磨いた武蔵が、剣の精進、魂の求道を通して、鏡のように澄明な境地へと悟達してゆく道程を描く、畢生の代表作。-若い功名心に燃えて関ケ原の合戦にのぞんだ武蔵と又八は、敗軍の兵として落ちのびる途中、お甲・朱実母子の世話になる。それから1年、又八の母お杉と許嫁のお通が、二人の安否を気づかっている郷里の作州宮本村へ、武蔵は一人で帰ってきた。