1989年11月1日発売
雨の夜、公邸へ帰る枢機卿の車が、暗殺者に襲われた。運転手の一瞬の判断で枢機卿は難をのがれるが、その運転手は死亡した。数時間後、災厄は再び訪れた。公邸へ戻った彼を公安警察と称する男が拉致し、人里離れた建物の中に軟禁したのだ。いったい何が起こっているのか?不安と疑惑の霧を晴らすべく、枢機卿は脱出を決行、独力で調査を開始する。執拗な追跡者の手をのがれ、闇の世界をさまよう彼は、やがて驚くべき事実を探り出した!東欧の一国を舞台に、国家を揺がす隠謀を描くベストセラー・サスペンス。CWA賞、ブッカー賞候補作。
世界の目が集まる華麗なパリのファッション界。今そこに、二人の女性がデビューを飾ろうとしていた。たぐいまれな美貌と天性の経営手腕に恵まれた日本人、中村由紀と、その娘ドーン。二人の斬新なデザインは、すでにパリ中の話題になっていた。だがファッション・ショウを目前にして、何者かが卑劣な妨害の手を伸ばしてきた。窮地に陥った由紀の脳裏に、五十年前、十六歳で上海に渡つた自分の姿が甦る…。戦火の中国大陸から世界のファッション界へのしあがつてゆく一人の日本人女性と、彼女をめぐる男達の愛と戦いを描く感動の大河ロマン。
1931年の上海で、由紀はアメリカ副領事のサムと激しい恋に落ち、愛の結晶を身篭った。だが自分との関係がサムの経歴に傷をつけることを恐れ、由紀は彼の前から姿を消す。身重の体で路頭に迷った彼女に手を差しのべたのは、サムの友人でもある日本領事館の伊藤大佐だった。やがて中国大陸の戦火が上海を覆い、激しい戦闘の中で由紀はドーンを出産。サムと伊藤が和平工作に全力を傾ける一方で、彼女は念願のファッション・サロンを開き、自立への道を歩みはじめるー。戦争の荒波の中で逞しく成長してゆく由紀の姿を歴史的事件を織りまぜて描く。
中国への侵略を止めるよう首相に直言した伊藤は満州に左遷された。彼とともに満州へ赴いた由紀とドーンは、太平洋戦争、ソ連軍の侵攻そして東京裁判と、数数の試練を経て、日本のファッション界で地位を築いてゆく。苦難を乗り越え、今パリの桧舞台に踊り出た二人は、ファッション・ショウに全てを賭けていた。その成功を妨害しようとする者は一体誰なのか?由紀は自分の夢を実現するため、立ち塞がる敵に敢然と戦いを挑む。二人の男性への愛の狭間で揺れ動きながら、自分の生き方を発見してゆく日本人女性の波瀾の半生を描く壮大なドラマ。
テレビ界の超大物プロデューサーが局ビルから転落死した。土曜の夜の人気番組《最後の笑い》放送後の、深夜の出来事だった。ゲストの大リーガーのお守り役で来ていた元大リーガーのハーヴェイ・ブリスバーグは、スキャンダルを恐れた局の副社長から警察捜査とは別の内密の調査を頼まれた。子役の頃からブラウン管の向こう側でつねにスターでありつづけた男に、どんな人生があったのか。番組の放送作家たちをはじめ、恨みを抱く者は業界に何人もいるが、観察と推理の果てにハーヴェイが到達したある真相とは。テレビ世代のための待望の新本格。
プロ・サッカー・チーム〈スターズ〉の花形選手が競技場の控え室で殺された。首の骨を折られ、全身を打撲している。しかしそれは事件の発端に過ぎなかった。数日後、死体発見者のカメラマン、マンクガイアのもとに犯人から奇怪なメッセージが送りつけられ、さらにチームから第二の犠牲者が…。スリリング、かつエキサイティングなスポーツ・ミステリの登場。
1950年代、ジョージア州の小さな町コトン・ポイント。自らの規範にしか従わない男パリス・トラウトがひきおこした黒人少女殺害事件は、パリスの妻ハンナ、弁護士シーグレイヴズなどを捲込み、やがて町を席捲する大きな渦となっていく。保守的な町で行なわれる裁判とその後の一連の事件が、さまざまな人々の愛憎、偽善、悲しみとともに明らかにしていく、アメリカ深南部の核。スリラー風の展開と深い人物造型で絶賛された1988年度全米図書賞受賞作。
モントリオールからヴァンクーヴァまで、ロッキイ山脈を越えて驀進するカナダ大陸横断鉄道。各地の競馬場でレースをしながら、車内ではミステリ劇を楽しむという趣向の特別列車が、競馬振興のためにカナダ・ジョッキィ・クラブの支援で企画された。ところが、乗客の中に危険な男が1人いた。英国人の馬主ジュリアス・アポロ・フィルマー。脅喝によって名馬をおどしとったり、さまざまな不正を働いている国際競馬社会の敵である。今度は何を企んでいるのか?かねてからフィルマーを内偵中の英国ジョッキィ・クラブは、保安部員トー・ケルジイをカナダに送った。ケルジイは身分を隠し、ミステリ劇の覆面俳優として、ウェイターに化けて特別列車に乗込んだ。馬、馬主、厩務員、競馬ファン、そしてひそかな陰謀を満載して、大陸横断列車はスタートした。行手には、ロッキィの大自然と大いなる危険が待ち構えている。サスペンスが鉄路を走る。待望のシリーズ第27弾。
混成浪士隊の分裂は早く、清河八郎は去り、やがて横暴を極めた芹沢鴨も、近藤勇の命で斬られた。殺戮が日常化するにつれ、総司の天稟の剣技は冴え、一方、新選組内には殺伐の風も吹き始めた。愛人おあいを冒した労咳は総司の頑健な肉体をも蝕み、ついに池田屋での乱刃の中で喀血、時代は総司を置き去りにしはじめる…。若き剣客・沖田総司の眼から時代の激浪を見つめた歴史長篇完結篇。
12月21日、大手スキーメーカー、エトワール社の社長・大河原剛司が、雪の志賀高原でガラン沢に跳び込み、そのまま行方不明になった。スキー歴50年のベテランとは信じ難い事故だった。翌年2月16日、剛司の妻・萌子が、谷川岳でスキーのエッジで頚動脈を切り、出血多量で死亡。3月末、今度は剛司の養子・恒介までもが…。事故か、殺人か。社長一族を襲った不幸の陰に潜むものは?長篇スキー推理。
総合商社・伊藤物産大阪本社に勤める高山一平は総務課長に抜擢されて半年、主管者会議や重役会の準備で大忙し。しかも、上司のイビリで神経をすり減らす毎日。課長は三等管理職、部長は一等管理職、その隔たりは筆舌に尽しがたいのだ。同じ課長仲間と飲んでは上司のこきおろしに怪気炎を上げるのだが、何とも虚しい。ゴルフコンペで上司の鼻を明かさんと、一平は特訓を開始するのだが…。長篇企業小説。
次期通産省次官の椅子を狙う産業政策局長・長尾浩一は、電気通信事業をめぐる通産省と郵政省の熾烈な主導権争いの渦中にあった。規制緩和に傾く通産省、強化を図る郵政省。事態は暗礁に乗り上げた。その頃、長尾がかつて秘書を務めた元首相・田上に縋ったとの噂が流れた。航空機疑獄で告発された後も政界に隠然たる力を保つ田上だったが…。政官財三つ巴の第二次VAN戦争を活写する迫真の問題長篇。
業界の老舗・中京デパートに入社し、2年でニューヨーク支店に赴任した住江進介は、エリートとして目覚しい活躍をしていた。しかし、同族経営の社長派と反社長派の勢力争いの渦に巻き込まれ、次第に組織の捨て駒と化していった。そして38歳の今日、“企業内棄民”となり、流通センターの片隅で伝票整理に追われているー。デパート業界を舞台に、同族経営に翻弄される社員の悲劇を描く長篇企業小説。
冷酷非情な作戦本部を辞めたクィラーは、酒場で廃人同様となった元同僚と出会い、彼の仕事を肩代わりする。それは東南アジアで麻薬の女王として君臨するスー・ウーリンを暗殺する指令だった。シンガポールからタイのジャングル、そしてベトナムへと飛びながらスーの暗殺団と孤立無援の闘いを展開するが…。意外な結末とあふれる緊張感、英国情報部の腕きき工作員クィラーの頭脳プレイを描くシリーズ最新作。
ブルゴーニュ生れの私生児、「キキ」ことアリス・プラン。12歳でパリに出た彼女はやがてキスリングのモデルとなり、一夜にしてパリのセックス・シンボルとなる。フジタ、ピカソらエコール・ド・パリの画家たちは競ってキキを描き、愛人マン・レイ、ブラッサイは、その独特の美を写真に写し、ツァラ、デュシャンらシュルレアリストたちは、彼女の奔放さを愛しつづけた。「モンパルナスの女王」と謳われ、栄光の道を歩みながらも、キャバレーで歌い踊る、無邪気な少女でありつづけたキキ-。彼女の純粋さゆえの栄光と悲惨の生涯に、モデルでジャーナリストの新鋭モルガールが迫る、初の本格的伝記ロマン。