1989年発売
源三位頼政は、殱滅された源氏一族にあって、異例といえるくらい、清盛の殊遇をうけた人であった。その彼が、何ゆえ76歳の高齢もかえりみず、平家打倒に起ちあがったか。そして戦いは断橋の悲痛な叫びを残して終ったが、これを境に反平家の勢力は、燎原の火の如く各地に蹶起する。-伊豆での旗挙げに1度は失敗した頼朝も、鎌倉に本拠を定めて都を窺う。つづいて木曽の義仲、挙兵!
中国は宋朝の時代、勅使として龍虎山に派遣された洪言は、厳しく禁じられた石窟の中を掘ったため、封じられた百八の魔星はどっと地上に踊り出た。やがて、その一星一星が人間と化して、梁山泊をつくり、天下を揺さぶる。-これが中国最大の伝奇小説「水滸伝」の発端である。「新・水滸伝」は、少年時代からこの中国古典に親しんだ著者から、思うままに意訳し、奇書の世界を再現する一大絵巻。
一介の毬使いから近衛大将にまで成り上がった高〓。専権をほしいままにする彼が腐敗政治を生み、庶民の血と涙が反骨の英雄を生む。禁軍の師範だった林沖、王進、楊制使の楊志、下級官吏の魯達など、官に不満を抱く諸豪傑、今孔明の異名を持つ呉学人や宋江、武松らいずれ劣らぬ錚々たる面々は、烈々たる想いを胸に、梁山泊への道を歩んでくる。聚護庁に同志の数の灯がともる。
伊豆湯ケ島の小学校を終えた洪作は、ひとり三島の伯母の家に下宿して沼津の中学に通うことになった。洪作は幼時から軍医である父や家族と離れて育ち、どこかのんびりしたところのある自然児だったが、中学の自由な空気を知り、彼の成績はしだいに下がりはじめる。やがて洪作は、上級の不良がかった文学グループと交わるようになり、彼らの知恵や才気、放埒な行動に惹かれていくー。
洪作は四年に進級するが、自由奔放な文学グループと行動を共にするようになってからは成績は下がる一方で、ついに彼は沼津の寺にあずけられる羽目になった。おくてで平凡な少年の前に、急速に未知の世界が開けはじめる。-陽の光輝く海辺の町を舞台に、洪作少年がいかにして青春に目覚めていったかを、ユーモアを交えた爽やかな筆に描き出す。『しろばんば』に続く自伝長編。
奥信濃の秘境・秋山郷と東京六本木の2ヵ所で続けざまに起った美人姉妹殺人事件!両方の殺人には、伝説の鬼女が出現していた。探偵事務所のアルバイト女子学生の私は、一緒に殺された犬のゼウスに犯人を示す鍵があると気づき、第三の殺人を阻止しようとするが…。鬼女の魔手は、容赦なく私に向ってくる。
寝台特急「さくら」で射殺死体が発見された。車内に残された5千万円の札束は、少女誘拐殺人事件で支払われた身代金と判明した。一人娘を殺された及川俊郎が誘拐犯をつきとめ、4年前の復讐を遂げたのか?しかし及川には「さくら」の前を走る「あさかぜ82号」に乗車していたという鉄壁のアリバイがあった。
レジャーライターの釣部渓三郎は、初夏の笹子奥野沢では女の全裸死体、また寸又峡の栗代川では身元不明の男の死体を発見する。二つの事件の関連は?男の所持品の中に渓流用の珍しい毛バリが1本。毛バリが語る男の隠された素顔。おなじみ釣部と上条アキのコンビの推理が冴える渓流ミステリー。
昭和57年9月ー東京・荒川の河川敷で、関東大震災直後に故なく虐殺された朝鮮人を慰霊するための遺骨発掘作業が行なわれた。だが、遺骨は見つからず、3年後、別の白骨死体が隅田公園で発見された。身元捜査が開始される…。過去と現在が交錯する二重、三重の深い謎を描く、本格社会派ミステリー。
独身実業家沖邦彦の花嫁公募に殺到した若い女性の群れから最後に4人が選ばれた。平凡なOLの中山美佳もそのうちのひとりである。4人は沖と京都へ旅する。第1夜に美佳は沖と結ばれ、幸せにひたるが、他の花嫁候補の身に惨事が起きていた。そしてまた、次の犠牲者が…。華麗トリックをちりばめた秀作集。
第二次世界大戦でアメリカが誤って撃沈したとされる補給船大阪丸。だがこの船にはアジア諸国から収奪された巨額の金が極秘に積みこまれていた。いまこの黄金が引き揚げられると、各国経済は大打撃を受けかねない。所有権の問題と引揚げの是非をめぐって各国の国際戦略がからみ合い、南シナ海は緊張に包まれた。長編海洋スパイ小説の傑作。
世界の金相場を壊滅しかねぬほどの膨大な黄金を積んで沈んだ「大阪丸」。その測り知れない財宝を、3人の男の、どす黒い野望が狙っていた。国益よりも自分の利益が優先のCIAコンサルタント、日本財界の大物、台湾の将軍。舞台はラングレー、丸の内、基隆の軍港、さらに海中深くに目まぐるしく移動し、国際緊張は一気に高まっていく。
“戯作者”の精神を激しく新たに生き直し、俗世の贋の価値観に痛烈な風穴をあける坂口安吾の世界。「堕落論」と通底する「白痴」「青鬼の褌を洗う女」等を収録。奔放不羈な精神と鋭い透視に析出された“肉体”の共存ー可能性を探る時代の補助線ー感性の贅肉をとる力業。
原爆投下から30数年、〈女〉は長崎を訪れた。坂の上の友人の家で、人々と取止めない話を交しながら死んでいった友たちや、14で被爆した自らの過去を回想する。日々死に対峙し、内へ内へと篭り、苦しみを強いられ生きる被爆者たち。老い。孤独。人生は静まり返っているが体験を風化させはしない。声音は低く深く響く。原爆を凝視する著者が被爆者の日常を坦々と綴る名篇。
高校2年の有加。趣味は写真。そのウデを親友の鈴子に買われて新聞部の臨時カメラマンに。口ではイヤがっても内心はウキウキ。だって陸上部のエース、慎治に堂々と接近できるんだもの!それに姉の志穂が、陸上部で彼の2年先輩だったから、共通の話題もあるし…、と心ときめかせていたら、優という一年坊主から、いきなり愛の告白。少女たちが織りなす、甘やかな恋の輪舞曲。
おれがゆり子と知り合ったのは、ひょんなことからだった。高校入学後まもなく、通学のバスの中で、金が足りなくて困っていたおれに、彼女が「返さなくていいわ」と言って、バス賃分をくれたのだ。おれはいつもは自転車通学なので、彼女に会いたいと思いながらも、その後は二度会っただけだった。だが、夏休みも残り少なくなったある日、彼女にむしょうに会いたくなり、自転車を走らせた。