1989年発売
夫の浮気が原因で不倫に走った大富豪夫人・桂子は禁断の快楽を知った。もう歯止めはきかない。以前、結婚を誓った恋人との偶然の出会いから、熟れた女体は男なしではいられない。遂いはテレクラで元産婦人科医の巧妙な罠に墜ち、検診台に縛りつけられ痴態を晒す。桂子の目には快楽地獄しか映らない。
人間意識の内奥の世界を探求し、現代心理小説の祖として評価の高いジェイムズの短篇選集。アメリカ娘のヨーロッパでの愛と死を描いた表題作の他、国際結婚の悲劇「モーヴ夫人」など四篇を収録。それぞれ作者の多面的な魅力が漂う異色作である。
他国者は容易に近づけない、密国阿波に潜入した幕府隠密・甲賀の宗家、世阿弥が消息を絶って10年。家名の断絶を目前にして、悲嘆にくれる娘のお千絵を見かねて、二人の男が阿波渡海をはかった。だが夜魔昼魔、お十夜孫兵衛、見返りお綱が二人の邪魔に入る。講談社創業80周年記念出版。
冷厳な隠密の掟ゆえに、お千絵と弥之丞の恋は許されようもない。といって、お千絵に執拗につきまとう旅川周馬の邪恋は迷惑至極。弦之丞も家を捨て恋を捨て、一管の竹に漂泊の旅を重ねるが、お千絵への思いはきっぱり絶っているだろうか。その弦之丞に隠密の命令が下る。阿波二十五万石の存立にかかわる大仕事が!無論、阿波藩士が手を拱いて待っている訳がない。弦之丞を取巻く蜘蛛手の網。講談社創業80周年記念出版。
日本のなかば以上を所領した平家が、いま寸士も失って、水鳥の如く波間に漂う。思えば、入道清盛逝きて、わずか4年後の悲運である。最後の夢を彦島のとりでに託して、一門の船団は西へ西へと向う。史上名高い那須余一の扇の的、義経の弓流しなど、源氏がわの武勇をたたえる挿話のみが多い屋島の合戦。著者は眼を転じて、追われる平家の厳島祈願に込められた、惻々たる心情に迫る。講談社創業80周年記念出版。
平家には、もう明日はなかった。さかまく渦潮におのれの影を見るごとく、壇ノ浦に一門の危機感がみなぎる。寿永4年3月24日の朝、敵味方のどよめきのうちに戦は始まった。だが、単なる海戦ではない。海峡の戦である。独特の潮相と風位の戦である。潮をあやつり、波に乗るもの、義経か知盛か。その夜の星影も見ず、平家は波騒に消えた。波に底にも都の候う、との耽美的な一語を残して。講談社創業80周年記念出版。
ケンウィン伯爵の娘サマラはとても父親思いで、借金をかかえた苦しい生活にも明るさを失わない。ある日、屋敷の前に豪華な馬車が横づけにされた。訪問者は見知らぬ年配のレディだったが、弟の結婚相手としてサマラを迎えたいと切り出した。しかも、結婚式は半月ほど後に決まっているという。会ったことも話したこともない人と結婚だなんて!サマラは当惑するが、相手がバックハースト公爵ときいたとたんすらすらと返事していた。「喜んで申し出をお受けします」。
ああ、なんていい気分。ノースカロライナの自然に接すると、心が大きくなったような気がしてくる。テリーは専門の民話研究の資料を集めるためにこの小さな町、スーワードを訪れたのだ。はやる心を抑えられず、いつになく落ちつきを失くしていた彼女は、なんと駐車場で一人の男に車をぶつけてしまった。慌てて駆つけるテリーに男はそっけなく答えた「ほっといてくれ」。だが孤独な瞳をもつこの山男に、テリーの心は騒ぎはじめた。
「人生なんて不公平よ!」レギュラー出演していたTV番組を降ろされ、しかも、かわりに起用されたのがニワトリだなんて。アミーは腹立ちまぎれにスーパーに入り、ショッピングカートに商品を投げ込んでいった。ところが、いざレジで会計をというとき財布を忘れてきたことに気がついた。慌てるアミー…。その時、後ろから「どうかしたの?」と優しい男の声がした。
98対97。フィラデルフィア対レイカースのバスケットの試合は、接戦だった。シュート1発で逆転する。ジムはいま、まさにジャンプ・シュートしようとしている。見つめる満員の観客が、歓声を爆発させようとする一瞬。だが、ジムは…。はじめる若さ、噴き出す清涼な汗、疑い知らぬ感激の涙…。ユーモア・タッチで綴る爽やかスポーツ小説。表題作他12編を収録。
輪姦が縁で結ばれた勇と、女子大生桐子は再会した。それが桐子の運命の転機となった。極道の勇を愛し妻となり、女児が誕生。だが勇は鉄包玉となって刑務所送りとなり、二人は愛しながらも離婚した。やがて桐子は、勇の親分だった二階堂爾に強引に犯されその女となった。姐桐子の誕生である。だが、野心家の爾が属する広域暴力団南東連合会は、四代目総長の座をめぐり分裂し、血で血を洗う抗争に突入した。組長夫人たちの誘拐や裏切り、報復と殺人…。一人の男-極道を愛したがゆえに非情の世界に生き、自ら殺人を犯さざるを得なかった女の凄絶な生きざまを、渾身の力で書き下ろした著者初めての長編小説。
10年ぶりに烏裂野の別荘を訪れた拓也は、円城寺実也、麻堵の兄弟と知り合うが、彼らの家庭教師遥佳から奇妙な依頼を受けた。“黒髪を切られていた前任者の事故死の真相究明を手伝ってほしい”というのである。異常なほど厳格な躾を実践し、秘密めく円城寺家。二人が父親に知られることを極度に恐れる「あっちゃん」という名の子どもの存在。やがて少年たちの従兄克之が行方不明となり、その母が墜落死を遂げた…。死者の黒髪はなぜ切られていたのか?あっちゃんとは何者なのか?次々と起こる不可解な事件の真相とは?推理文壇注目の俊英が『緋色の囁き』に続き、自信を持って贈る書下ろし傑作。
美しくて、危うくて、透明な少年。人をひきつける妖精、フェアリーボーイ。まさ子は少年が好き、でも少年はまさ子の弟…。妖精のような少年に恋をした多感な少女のナイーブな心の成長物語。
ひっそりと気づかぬうちに“ブルー”はあなたのそばにいる。凍ったゼリーのような、透きとおっていいにおいのする体をぴったりと寄せて。でも、きらいにならないで。“ブルー”こそが、どんな時もあなたのそばで、あなただけを愛し、本当のあなたを見つめて、けっして裏切ることのない永遠の友達だから。
シーボルトの弟子として当代一の蘭学者と謳われた高野長英は、幕府の鎖国政策を批判して終身禁固の身となる。小伝馬町の牢屋に囚われて5年、前途に希望を見いだせない長英は、牢屋主の立場を利用し、牢外の下男を使って獄舎に放火させ脱獄をはかる。江戸市中に潜伏した長英は、弟子の許などを転々として脱出の機会をうかがうが、幕府は威信をかけた凄絶な追跡をはじめる。
放火・脱獄という前代未聞の大罪を犯した高野長英に、幕府は全国に人相書と手配書をくまなく送り大捜査網をしく。その中を門人や牢内で面倒をみた侠客らに助けられ、長英は陸奥水沢に住む母との再会を果たす。その後、念願であった兵書の翻訳をしながら、米沢・伊予字和島・広島・名古屋と転々とし、硝石精で顔を焼いて江戸に潜伏中を逮捕されるまで、6年4か月を緊迫の筆に描く大作。
宮本武蔵に育てられた青年剣士・松永誠一郎は、師の遺言に従い江戸・吉原に赴く。だが、その地に着くや否や、八方からの夥しい殺気が彼を取り囲んだ。吉原には裏柳生の忍びの群れが跳梁していたのだ。彼らの狙う「神君御免状」とは何か。武蔵はなぜ彼を、この色里へ送ったのか。-吉原成立の秘話、徳川家康武者説をも織り込んで縦横無尽に展開する、大型剣豪作家初の長編小説。