1990年12月発売
ユノキプロの“イベントキャスター”葉月麻子は、ともかく鹿児島へ飛ぶことにした。マネージャーの堀喜平が殺人容疑で逮捕されたというのだ。休暇を利用し、余命いくばくもない父親と後妻の三人で指宿へ来た堀は、砂むし風呂で死体を発見。被害者はなんと堀のかつての恋人で、彼女は堀に会いに行く、と妹に手紙を出していた…。桜島の噴煙の下でくり広げられるテンヤワンヤの結末は?書下し長篇ミステリ。
あたし、女子体育短大を出たばかりの、新任教師なんです。腕も腿もピチピチした、二十歳なんです。悩みといえばお乳が大きすぎることくらい。でも体育ひとすじだったので、男性経験、ぜんぜん、ないんです。あたしが体操着に着がえると、体育主任の安田先生や、同僚の中村先生の、熱い視線が痛いくらい。それに、校長先生だって。今日は、性教育の日。すごい質問されたらって考えただけで、ドキドキしちゃう。
前夜、したたかに酔った私は、女と約束したはずの喫茶店を探して渋谷の道玄坂を一人さまよう。林立するビルの谷間…。おや、ここはその昔、大伯母が旅館をやっていた辺りでは?「オメェサ、ココサ来チャナンネェテ」大伯母の越後訛りが聞こえる…。時間を超え、禁忌の空間に迷い込んだ男の驚愕を描く第1話「渋谷道玄坂」に続き、“私”が生れ育ち暮す東京の此処かしこで地霊に導かれて分け入る迷宮をめぐる連作11話。私小説作家の超私小説。
“愛は、実現の不可能性によって育成されてゆく”登校拒否の天才少年エルネストが体現する神の不在、静かなる絶望…。旧約聖書に触発されたデュラスの最新ロマン。フランスで大ベストセラー。デュラスの最新話題作。
昭和11年(1936)の二・二六事件、翌年、衆望をにない文麿はついに首相に任命される、僅か45歳の青年宰相であった。しかし意図と努力に反し、軍部はひたすら戦争を拡大して行く。総辞職、大戦の勃発、そして敗戦…文麿は戦犯容疑の収監を拒否して自決する。激動の昭和の悲撃を一身に背負った文人宰相の生涯と人間像をあますところなく描いて毎日出版文化賞に輝やいた渾身の大作。
慶安3年、旗本の志良堂兵庫は江戸・湯島で白装束と黒装束が入り乱れての奇怪な斬り合いを見た。その夜、妻の鹿手が攫われ、兵庫は手掛かりを求めて軍学者・由井正雪に出会う。由井から、泰平の世の裏で続く神徒と仏徒の暗闘を示唆された兵庫は、己の身がその過中に置かれたことを悟り、禄を捨て野に下った。深川に巣食う、敵とも味方とも知れぬ浪人数百に紛れ、兵庫は一刀流の剛剣一本を揮って波乱に満ちた修羅道をゆく。
明治半ば、警視庁警部・戒能兵馬は、上司斬殺という無実の罪で投獄。北海道釧路集治監に移された戒能は、地獄の硫黄鉱山で使役に。復讐を胸に脱獄し、途中、手負いの狼を助ける。原野を彷徨う彼らを、拒捕斬殺の使命を帯びた追跡者の容赦ない攻撃が…。暗黒の北海道開拓史を背景にした復讐と慕情のサバイバル・ロマン。
「気が小さいのさ」あたしが覚えている彼の最後の言葉だ。あたしの恋人が殺された。彼は最近「狙われている」と怯えていた。そして、彼の遺品の中から、大切な資料が盗まれた。女流推理作家のあたしは、編集者の冬子とともに真相を追う。しかし彼を接点に、次々と人が殺されて…。サスペンス溢れる本格推理力作。
流葉爽太郎は、L・AでCFロケの最中、クルマを盗まれた。近くを通りかかった美少女のクルマを停め、追走。やっとのことで犯人を捕える。後日、流葉はTVのテニスマッチでプレーする彼女を見た。そして、CFに起用。ところが、彼女の周囲には謎の男たちが…。L・A、東京、セイシェルを舞台にミステリアスに展開するシリーズ第8弾。
関ヶ原の役後、天下統一を目ざす家康は、冷酷非情なまでの豊臣潰しを画策。風雲急を告げる大坂城に、真田忍者群は精巧な手投げ弾、犬・猿・蛇から鼠まで奇抜な武器を駆使して、壮絶な死闘を展開した。
とんでもない〈講義〉があったものだ。実は、おれもちょっと〈出席〉したかったがね。いや、今度の事件の話さ。スタッセン教授とやらの「ラブ・イン」とか「恋愛ゼミナール」とか。早い話が乱交パーティ。だが、「麻薬を使った、全力投球の」となると見逃しておくわけにはいかない。尾行、張り込み。秘密パーティはぞくぞくするようなやつだった。邸を提供する有閑マダム、のぞき趣味の夫、ハシシュを使った媚薬菓子、性科学にいかれたかわい子ちゃんの女子大生などなど。何?結末はどうなるかって?特捜課にまかせとけって!
メイン州、ブラックウェル島。苦い過去から逃げるように、この島に来て3年、ケイトは酒場を経営していた。しかし、そろそろこの島から出て、社会に帰らなければならない。ケイトは酒場の表に「売店舗」の張紙を出すと、うなずいた。これでいいわ。その時、今日1番の客が来た。堅物の保安官マットではないか。なにかにつけて、文句を言ってきたマットがいったい何の用だろう-。とまどうケイトを背に、マットは、ただひとり、酒を飲むばかりだった。
ジョアンナは、美しいオクラホマシティの町並に目を奪われていた。わたしは、前夫ジェロッドに会おうとしている。彼の先妻の子どもとの折り合いが悪く、別れてから7年-。画家として、社会的には成功をおさめていたが、心のなかでは、ジェロッドのイメージは大きくなるばかりだった。今でもあなたを愛していると告げたい。すべてはそれからだ。ジョアンナは、決意も新たにジェロッドの部屋へと続くドアを押した。
ユーナは、フィレンツェの女子修道院学校を卒業し、父のいるパリに向かった。在学中は、母の遺産で生計を立てていた。が、お金も底をつき、父に手紙を書くと、モンマルトルへ呼ばれたのだった。ところが、父のアトリエに着くと、ユーナを待っていたのは、ひとりの画商だった。彼はユーナに、父ソローの死を告げた。途方に暮れるユーナ…。みかねた画商は、ユーナを、ウオルスタントン公爵に引き合わせた。女性遍歴の多い公爵は、ユーナのういういしさが信じられず、疑惑のまなざしで見つめるばかりだった。
嘉永5年の春、八丁堀同心吾妻一兵の娘おみやは17歳の美しい娘に成長していた。浅草観世音に詣でたおみやは、町家の番頭が持っている唐草模様の風呂敷をねらうならずものと、怪しげな娘の姿を目撃した。その風呂敷に包まれていたものは折り鶴散らしの振袖であった。風呂敷を奪った怪しの娘がならずものの鍾馗の三次に襲われた危ないところを救ったのは、おみやの小坂流吹き針の妙技であった。時の南町奉行は遠山左衛門尉景元であった。大江戸を騒がす振袖娘の誘拐事件の捜査に当たる稚児同心佐川左内は、女のような美男子であった。紫のお高祖頭巾の美女振袖お柳の出現によって謎はさらに深まっていく。-金さん直属の部下、吾妻一兵の活躍は。
大江戸の盛り場、金竜山浅草寺ー俗に浅草の観音さまで親しまれる仲見世通りは仁王門近く、年のころは27か8のおっとりと育ちのよさそうな若侍に、お助け屋の粂三が声をかけた。もちろん、その懐中物をねらってのことだったがすっかり魂胆を見透かされて、子分になることになった。若侍は久世喬之介といい、ある事情により浪人していた。その久世喬之介は腰元風の美女に託された書状を目明かしの絵馬徳親分に届けるべく訪ねたが、絵馬徳は何者かの凶刃に倒されていた。そして、喬之介の前には恐るべき黒覆面の怪剣士が出現した。粂三ともども“お助け屋”稼業を始めた久世喬之介の行く手は…。-根岸藩をめぐる騒動に、颯爽たる十万石の“お助け屋”喬之介の破邪顕正の剣の舞。