1990年2月発売
はるかな過去からみずみずしく甦える悔恨の粒子。そうありえたかもしれぬ生を夢見、そうでしかありえなかった生を慈しむ、「愛」に純粋な女たちのこぼち落とすひたむきな心情を描く恋愛小説集。
あるとき、ひとりの男がいた。男は熊を一とうつれていた。どこからきたのか、男はいおうとしなかったし、なんという名まえなのか、だれにもわからなかった。人びとは、ただ〈熊おじさん〉とよんだー絵と文章の同時進行による独自の表現スタイルで知られるチムニクが24歳の時発表した、瑞々しい感性のきらめく処女作。
体は小さいけれど、きかんぼうの少年ヤンと、無骨で口は悪いが、心根の優しい作男のナッツは大の仲良し。あるとき、足の不自由な野生の子馬と出会ったことから、大変な事件にまきこまれていまいます。-大らかでユーモアあふれるストーリーの底に、人と自然への深い愛情と洞察を秘めた、ドイツ児童文学の名作。
豊満な肉体に、気品までそなえた女教師・麗奈は、陰険な男子生徒の罠に落ち、その見事な全裸体を写真に撮られてしまう。-彼らの脅迫に折れた女を、男たちは集団で襲い、嬲り、吸い、突いて、徹底的にマゾの淫楽を植えつけていく。…好評だった『牝獣学園』に続く佳奈淳の“学園シリーズ”第2弾。
高校1年生の美少女・麻沙美は、処女を捧げた男、勇介の幼な妻になっていた。彼は性具の研究家にしてSEXの天才。彼のテクニックにより、女の性感は急速に開花していく。下校してセーラー服を脱いだ途端、清純さは陰をひそめ、淫乱な熟女に変貌する。そんなふたりの前に不思議な事件が舞いこんだ。
辣腕事業家山内定子が創った八王子郊外の結婚式場「観麗会館」は、その高級感がうけて大変な繁盛ぶりだ。経営をまかされている小心な婿養子善朗はある日、口論から激情して妻定子を殺し、死体を会館の名所である「岩壁」に埋め込んでしまう。門出を祝う式場が奇しくも墓場となり、その上空を不吉なカラスが飛び交い、新たな事件が発生する…。河越の古戦場に埋れた長年の怨念を重ねた、緻密な大型長編推理。黒シリーズの最新作。
めったに贈り物など受けとったことのないルポライター、浅見光彦のところに大きなダンボールの包みが届いた。中味はなんと姫鏡台。差出人は浅見の初恋の女性、夏子だった。なぜ夏子は姫鏡台などを送ってきたのか?淡い初恋の思い出をたぐりよせるように、浅見は夏子の嫁いだ文瀬家の豪邸を訪ねるが…。さまざまな鏡をめぐり、浅見の名推理が冴える傑作短編集。表題作ほか2編を収録。
「宮本武蔵」の圧倒的な好評を受けて、著者は次作の題材を吟味した。昭和15年新春より朝日新聞紙上を飾ったのが「源頼朝」である。これには“小説日本外史”の副題がついている。歴史を闊歩した代表的日本人を次々に登場させる構想で、その第一に源頼朝が選ばれた。まさに頼朝こそ源平抗争の英雄であり、700年の武家社会を築いた巨擘である。著者は武将頼朝の周辺に鋭く肉薄してゆく。
大作「新・平家物語」を完成した著者は、息つく暇もなく、南北朝を題材とする「私本太平記」の執筆にかかった。古代末期から中世へーもはや王朝のみやびは影をひそめ、人間のどす黒さがあらわに出てきた時代、しかも歴史的には空白の時代である。史林の闇に分け入るとき、著者は使命感と創作意欲の高まりを禁じえなかったという。開巻第一、足利又太郎(のちの尊氏)が颯爽と京に登場する。
鎌倉幕府が開かれてから130年、政治のひずみが到るところに噴出していた。正中ノ変はその典型的な例である。そして公武の亀裂はますます拡大し、乱世の徴候が顕然となった。「天皇御むほん」さえ囁かれるのである。当時は両統迭立の世、後醍醐天皇が英邁におわすほど、紛擾のもととなった。この間、足利高氏が権門の一翼として擡頭し、再度の叛乱に敗れた日野俊基とは明暗を大きく分ける。