1990年3月発売
東西ドイツ再統一の気運高まるボン。今そこの英国大使館から職員が1人、機密書類とともに姿を消した。彼の名はリオ・ハーティング。現地採用の臨時職員にすぎないが、消えた機密文書が公になれば英独の関係悪化は必至。事態を重く見た英国外務省は、公安部のターナーを派遣、極秘にリオの行方を追わせる。ターナーは失踪した男の経歴、背後関係を探るべく、大使館スタッフにインタビューを重ね、リオの実像に迫ってゆく。果たしてリオはソ連のスパイだったのか?巨匠が自らの体験をもとに外交社会の虚妄を描き新境地を拓いた傑作スパイ小説。
言葉巧みに真実を隠蔽しようとする官僚たちに、苛立つターナー。大使館の閉鎖的な人間関係を辿る彼は、リオが数カ月前から何事かに取りつかれていたことをつきとめる。一方、リオ失踪の噂に、西ドイツ公安局が動きはじめた。醜聞を恐れる大使館はターナーの帰国を決定。だが、真相究明への情熱断ちがたいターナーは、指示に背いて調査を続ける。やがて彼は、事件の背後にドイツ統一をめぐる権力者の卑劣な取引があることを知るが…。国益のためには手段を選ばない非情な国際政治の世界と、その中で正義を貫こうとする人間の苦闘を描く力作。
英米ではホラー・アンソロジーがブームだが、中でも〈ナイトヴィジョン〉シリーズは独自の編纂で知られる。つまり、3人の作家がそれぞれ250枚の中短篇を各巻に書き下ろすことで、一作家一短篇に限られた従来のアンソロジーにつきまとう物たりなさを解消したのである。本巻には、ベストセラー作家ディーン・R・クーンツ、SF界の実力派エドワード・ブライアント、クーンツをしのぐ人気作家ロバート・R・マキャモンの3人を収録する。
第二次世界大戦が終了した1945年。ニューヨーク近郊の町ポート・フィリップの貧しいジョーダーシュ家に生まれ育った姉弟の生活にも転機が訪れていた。中年実業家ボイランとの出会いから奔放な恋愛遍歴を重ねていくグレーチェン、ハイスクールの陸上競技選手で優等生の兄ルードルフ、不敬事件をひき起こし町を追われる弟トマス。自身の価値観にのみしたがい相容れない3人は、それぞれの新たな生活へと足を踏み入れていく…。現代アメリカ文学を代表する人気作家が戦後の混乱した社会を背景に壮大な人間愛のドラマを描いた大ベストセラー長篇。
大学を卒業後、大学院への進学を断念したルードルフは、地元のデパートで要職に就いた。幅広い経営の手腕を発揮する彼は、次第に有能な青年実業家としての名声を築いていく。そして、最愛の女性クロチルドにめぐり逢えたのも束の間、乱交事件を理由に叔父の家を追われ、行き場を失ったトマスは、ボクシングの世界に自分の住む場所を見出そうとしていた。心の底にまだ消えやらぬ互いの愛憎を秘めたまま、運命の糸に操られるよように、2人が思いもよらない再会をする日がやってくる。さまざまな出会いが織りなす人間模様を綴ったショーの代表作。
3人の姉弟は、母親の死によって長い間縛られていたジョーダーシュ家の血の怨念から解き放たれた。グレーチェンは最愛の夫と死に別れ、長く望んでいた学業へ戻ることになる。一方、ルードルフは市長として政治の世界に、トマスはヨットの船長として航海へ出ることになる。3人はそれぞれの求める道を見つけていくが、たがいを理解し合えたと思った矢先、思いもよらない大きな悲劇がかれらを待ちうけていた…。都会的で洗練された短篇の名手として知られるアーウィン・ショーが、家族とは、人間の本質とは何かという問題にとりくんだ傑作長篇。
犯罪は時と場所を選ばない。が、時と場所は犯罪を選ぶ。本書はその証明である。ペルーではインカ帝国の幻の財宝をめぐって醜悪な争いが演じられ、18世紀のスコットランドでは千里眼の存在を信じる迷信深い人々が洞窟に棲む魔物におびえ、未来の火星ではサム・スペードの衣鉢をつぐ私立探偵が事件解決のためにシャーロック・ホームズのロボットを雇う…。ちょっぴりロマンチックで神秘的な、好奇心をくすぐる時と舞台をめぐる魅惑の旅。その土地ならでは、その時代ならではの16の事件を収録する。かつてない試みのユニークなアンソロジー。
スーザンがカウンセリング指導をしている少女エイプリルが姿を消した。もともと悪い噂が絶えず、売春組織に関わっていた可能性もある。母親に懇願されたスペンサーは、たった1ドルの報酬で娘を連れ戻すことを請け負い、ホークとともに背徳うずまく歓楽街に潜入した。ところが何者かが圧力をかけているらしく、関係者は固く口を閉ざし関わり合いになろうとしない。やがて、複雑な糸を手繰り寄せ、ようやくエイプリルの居所をつきとめたスペンサーの前に、狡猾な売春組織がたちはだかった。揺れ動く少女の性に鋭くメスを入れたシリーズ問題作。
インディアン保留地で、3件の殺人と警官殺害未遂事件が連続して起こった。何のつながりも見えない4つの事件を結ぶものはナヴァホ族の呪いなのか?呪術を嫌悪するリープホーン警部補と呪術師をめざすチー巡査ー対照的な生き方をする2人のインディアン警官の活躍を描き、全米の熱い注目を集めるベストセラー作家の人気シリーズ。アンソニー賞受賞作。
フォークランド紛争で重傷を負い、ビクトリア十字勲章を授与されたニック・サンドマンは、二度と自力では歩けないと宣告された。だが、彼には絶対にあきらめきれない夢があった。唯一の生きがいである愛艇〈シコラクス〉に乗り、広大な南の海へ船出するのだ。ところが、〈シコラクス〉を繋留しておいたデボンへ帰ってみると、岸壁には別の船が繋がれ、〈シコラクス〉は装備を略奪されて陸上に無残な姿をさらしていた。繋留位置を占領していたのは、テレビの人気ニュースキャスターで有名なヨットマン、トニー・バニスターだった。彼はまた、海の悲劇に遭った男としても知られていて、外洋レース中の事故で妻を失っていた。だが、バニスターの妻は父親である海運王ヤシア・カソーリは、この事故が殺人ではないかと疑っていた。海を愛し自由を愛するヨットマン、ニックが捲込まれた洋上の陰謀と、不自由な体での不屈の闘いを描く、疾風怒涛の海洋冒険サスペンス。
ワスプの弁護士ヴィンス・ハラーを介して、タフト大学当局がスペンサーに妙な依頼をしてきた。タフトは全米大学バスケットボール・リーグの有力校なのだが、最近、試合には勝っても故意に得点を減らしている、という噂が校内で流れている。その噂の出所をたどって真偽を確かめ、この一件に決着をつけてほしい、と。大学に出入りし、聞込み調査をつづけるうちにスペンサーは、最強のパワー・フォワードといわれる黒人選手ドウェインが巧妙に得点操作をしていることに気づく。輝かしい将来が約束されたスター選手なのに、なぜそんなことをするのか?もし発覚すれば、経歴に傷がつくだけではないか。背後に何かあるのか?大学内部の人間や選手たちが調査に非協力的であるにもかかわらず、スペンサーは何としても真相をつきとめたかった。八百長に巻込まれたスター選手のために一肌脱ごうと意気込む私立探偵スペンサー。完全復調なったシリーズ第16作。
新江戸市は東京湾の広大な埋立て地に建設された電脳都市だ。ハイテクノロジーを駆使した、SHOGUNと呼ばれるバイオ・スーパーコンピュータにより、都市機能の全てが統御されている。が、市の数ブロックがシステム統制不能に陥り、その区域が拡大し始めた。霊囿空間が出現したのだ。突然のコンピュータの反乱に、秘密組織TAJIHIは破極拳の遣い手・川神乱武郎を派遣する。ブロックの住民は憑きものに侵され、殺し合いを始めた。SHOGUNの目的は何なのか!?その人工頭脳に秘められた、恐るべき過去とは?
昭和20年11月、中内功は地獄のフィリピン戦線から帰還した。全国に闇市が乱立する戦後の混乱期、功は神戸で薬局を営む父を伝い、次第に商売の魅力につかれてゆく。独立して店を持ちたいと思いたった功は、当時アメリカで流行していたスーパーマーケットに目をつけ、念願のダイエー1号店を大阪・千林に開店。型破りの商法で、次々と店舗をふやしてゆく…。中内功の半生をダイナミックに描いた異色長篇。
イベント屋久慈克彦は、孤高の陶芸家篠原笙山に南武デパートの秘蔵展へ出品を依頼するため飛騨高山へ向った。だが、高山のホテルのベッドで彼を待っていたのは、東京駅で別れたはずの恋人・片山慶子の変死体であった。なぜ?どうして一番早い列車に乗った克彦よりも早く?謎を追い陶芸界の内実に迫る克彦に第2、第3の事件がー。全国の小京都を舞台に展開する長篇トラベル・ミステリー傑作。
昭和60年、低迷を続ける王巨人軍に彗星のように現れた球世主2人ー投手・嘉手納宗七と代打・飯村勇司。それぞれ古琉拳と剣道の達人で、嘉手納は相手バッターを思い通りの場所に打たせ、一方、飯村は必ず狙った所へ打ち返せるという。2人の大活躍で王巨人軍にペナントの光が射しかけたある日、嘉手納は投球動作のさなか、原因不明の目まいを感じた。ハイテク野球ミステリー快作。
1588年、スペイン無敵艦隊に奇跡的大勝利を収めた英国のフランシス・ドレイク。その操舵手であったマシュー・ローはスコットランドの魔女から「あらゆる海の水が干上がるまで生きる」と宣告された。時は移り1610年、彼は北西航路を求めて極寒の海をゆくハドソン船長の船にいた…。ドレイク、モーガン、ネルソンなど七つの海の支配に命を賭けた英雄たちを描く、巨匠モンサラットの遺作。3部作の第1作。
大江戸八百八町の老若男女が浮かれ立つ花の春は、市井にかくれ潜む悪の種子も芽生える季節…半七親分や銭形平次・むっつり右門・人形佐七・御宿かわせみのるいと東吾・音無し源に夢裡庵など、ご存知捕物名人たちの推理が冴えわたります。江戸の地誌・制度から四季折々の世相・風俗・人情までをいきいきと伝える異色のミステリー大江戸風物詩の誕生。