1990年3月発売
腰の紐を解かれているので、浴衣の前が割れ、剥き出しの秘所は淫らな刺激でとろっとした。亡くなった夫によく似たその男が、彼女の寝ている布団にゆっくりと入ってきて…。夫とはよく似ていても、別人であることを、ふとした動作で思い知らされる。若き未亡人の匂うような肢体が、今日も激しく疼いて官能の一夜。
後醍醐の切なるご催促に、楠木正成は重い腰をもち上げた。水分の館から一族5百人の運命を賭けてー。すでに主上は笠置落ちの御身であった。また正成も、2万の大軍が取り囲む赤坂城に孤立し、早くも前途は多難。一方、正成とはおよそ対照的なばさら大名・佐々木道誉は幽閉の後醍醐に近づき、美姫といばらの鞭で帝の御心を自由に操縦しようとする。かかる魔像こそ、本書の象徴といえよう。
元弘3年(1333年)は、また正慶2年でもあった。敵味方によって年号が違うのも異常なら、後醍醐帝が隠岐に配流という現実も、尋常の世とはいえない。眇たる小島は風涛激化、俄然、政争の焦点となった。不死鳥の如き楠木正成は、またも天嶮の千早城に拠って、5万の軍勢を金縛りに悩ましつづけている。一方、去就を注目される足利高氏は、一族四千騎を率いて、不気味な西上を開始する。
根室本線を走る二両編成のミニ急行「ノサップ」が、広大な根釧原野のまんなかで列車強盗に襲われた。シーズンオフで乗客は少く、犯人の奪った金額は拍子ぬけするほどわずかなものだったー。今どきめずらしい列車強盗事件の裏にかくされた意外な犯意を、十津川警部が解明する、大好評のトラベル・ミステリー。
パリに憧れる23歳のツアー・コンダクター湯川真美子の今度の仕事は香港パックツアー。いまいちノリのこない真美子が香港最初の夜に遭遇したのは、なんと殺人事件。伝説の秘宝・「キング&クイーン」をめぐる香港マフィアの抗争に巻きこまれてしまったのだ。スリルとユーモアと過激なアクション、そしておしゃれな恋もハイピッチで展開する。傑作ロマンチック・サスペンス。
洋裁学校の学生・恵子は、偶然モデルのゆい子と知り合う。華やかで容赦なく人を魅きつける彼女に誘われるままに恵子もいつしかモデルの道を歩き始めた…。その世界は強い個性をみせながらどこか虚無のかげれをみせる男や女たちがいた。女がいちばん綺麗で、可愛いらしかった1960年代。さまざまな伝説と神話が生まれた高度成長のさなか、キラ星のごとく輝き、70年代の夜明けとともに燃えつきていった青春の状烈な愛と死の長編小説。
暴力団浜内組の幹部を追跡中、同僚を誤射した志田司郎は、刑事を辞し、妻子とも別れ、たったひとりで、波止場に単喰う巨大な暴力組織に立ち向ってゆく。近代経営の仮面の影に巣喰う悪との凄まじい闘い。日常を捨て“追いつめ”てゆく異常な執念を描く、日本にハードボイルド小説を樹立した画期的長編小説。直木賞受賞作品。
国家権力の介入によって、岬一郎を応援していた町内の人々の心が離れはじめた。確固とした信念のもと、日本政府の呼び出しに応じない岬一郎。最後の理解者で元雑誌編集者の野口志郎とともに、彼は孤独に追いつめられていく…。「日本SF大賞」受賞の著者渾身の力作大長編。