1990年7月1日発売
エジプトの収容所で服役中の元傭兵ワイアットは、半死半生のところを昔の戦友たちに救出された。だが、かつての上官バークから新たな仕事を持ちかけられたとき、ワイアットの心は揺れる。山賊に誘拐された大富豪の娘をシチリアの山中から救い出すというのだ。シチリアはワイアットがかつて捨てた島、彼の祖父がマフィアの首領として君臨する場所だった。宿命に引き寄せられるように島に赴いたワイアットは、峻険な山中にパラシュート降下を試みるが、そこで待っていたものは非情な裏切りの罠だった。復讐の地に展開するヒギンズの冒険ロマン。
CIAの長老ジョン、その息子でソヴィエト部門の長アレン、サイゴン支局長を務めた孫のジェシーー3代にわたり、ダンサー家はCIA内で絶大な力を誇ってきた。だが、その権力を揺るがす事件が本部内で起きた。初めは単なる書類の盗難事件と思えた。が、CIAのベテラン局員ノルズの調査の結果、事件の意外な首謀者が浮かび上がったのだ。そして、ダンサー家の権力の秘密がついに暴かれていく。ロシア革命勃発時から第二次大戦を経て現代まで。-壮大な時の流れを背景に、三代の親子が繰り広げる愛と野望と憎悪のドラマ。絢爛たる大河スパイ小説。
これこそ望んでいた家だわ!とグエンダは思った。ディルマスで見つけた小さなヴィクトリア朝風の売家。ニュージーランドから来たばかりの若妻はその別荘をすでに隅から隅まで知っているような気がした。そして、家の中の階段をおりかけたとき、いい知れぬ恐怖が体をかすめた。家には幽霊が出るのでは、あるいは誰か亡くなった人がいるのでは?部屋の戸棚の中から現われた古い壁紙を見て、彼女はさらに動揺した。この古い壁紙の模様をなぜわたしは頭に想い描くことができたのか…。回想の中の殺人を今に甦らせるミス・マーブル最後の事件。
逃げてきたの。車から飛びおりたのよ。それから暗くなるまで隠れて、うちまで走ってきたのー女教師リンダ・ハモンドの娘の話は明らかに誘拐末遂事件を示していた。犯人は、同じ学校の生徒の父親という。少女の証言に基づき、警察はその父親を容疑者として逮補した。しかし、容疑者はどんな手を使ったのか、拘置所の中からダナのもとへ、不気味な脅迫まがいの電話をかけてきた。しかも、証拠不充分により減額された保釈金を払い、大胆にも被害者の家へやってきたのだ。現実の悪夢に襲われた母子の姿を強烈なサスペンスとともに描く問題作。
無線機ががなりたてる。「三号車へ。殺人の通報があった。現場へ急行せよ」保安官助手のギルは辟易しながらパトカーを駆った。どうせ酔っ払いか、いたずら電話に決まっている。しかし現場に到着したギルは呆然とした。無残な姿で横たわっているのは自分の妻だったのだ…。警察を嘲笑うかのように、警官の妻惨殺事件は続いた。そして、捜査に乗り出した地方検事事務所の特別捜査官、ホイット・ピンチョンの身辺にも、犯人はその魔手をのばしてきた。東部の田舎町を舞台に、タフで頑固な捜査官の執念の捜査を詩情豊かに描き出す新警察小説登場。
四十年前に殺人を犯し、ネヴァダ砂漠に消えた祖父を捜してー私立探偵ロスの許を訪れた美しい娼婦の依頼は、雲を掴むような話だった。友人の老人からも乞われ、ロスは過去の事件を洗い直しはじめた。が、その直後に老人が何者かに殺され、娼婦も謎の失踪を!静寂と諦念が支配する砂漠の町を舞台に、現在と過去の殺人を結ぶ悲劇を描く正統派ハードボイルド。
1990年夏、シリア人パイロット、モハメド・アスリが偽造パスポートでニューヨークに潜入した。ある大きな陰謀に参加するためだった-アメリカ大統領に関わる、かつてない大胆不敵な陰謀に。1986年のアメリカのカダフィ襲撃に対する報復に何度か挫折したリビアは、ひそかにある計画を進めていた。ブッシュ大統領を誘拐して人質にとり、アメリカ側の非を世界の前に認めさせようというのだ。実行者に選ばれた男は、なんとアメリカ人だった。ジー・ハーディ-元海兵隊の凄腕パイロット、元傭兵、現在は麻薬密輸業者。『偉大なるギャッビー』にちなんで″ジー″とニックネームをつけられた魅力的なこの男は、自らのヴェトナム体験と息子の非劇的な死によって、アメリカ政府に深い憎しみを抱いていた。5千万ドルでブッシュ大統領誘拐を請負ったハーディは、周致な準備工作にかかった。
秋の議会選挙の大統領遊説に照準を絞ったハーディは、リビア側にも計画の詳細を知らせずに着々と準備を進めた。大統領専用機エアフォース・ワンが彼の狙いだった。いかにして空飛ぶホワイトハウスを襲うつもりなのか?ボーイング707を手に入れ、アスリに戦闘機訓練を課し、亡命キューバ人グループと接触し、サンフランシスコにマンションを借り-こういった下工作がどう結びつくのか?意表をつく鮮やかなプロット、スリリンぐな航空シーン、追う側と追われる側の男たちの不屈の闘志。すぐれたストーリーテリングと該博な知識を持つ作家と、元エアフォース・ワン機長の、みごとなパートナーシップが生んだ航空冒険巨篇。
ベルギーの古城で次々に起こる異様な惨劇には恐るべき秘密が隠されていた。戦慄の心理描写とプロット全体に潜む驚天動地のトリックとは…?鬼才が2人称で綴る書下し・殺人幻想詩篇。
隣室から夜ごと漏れ聞こえてくる女のあえぎ声…亀谷史崇は今夜も聞き入っていた。斎王谷澪子というのが、声の主の名前だった。しかも相手の男はいつも違っている。ある日、史崇は彼女がテレビ局のアナウンサーであることを、偶然にテレビの画面で発見していたのだった。今夜はとくに激しい男女の睦言がいつしか暴力的になり、奇妙な音が部屋を充しはじめた気配が伝わってきた。翌朝、史崇は、彼女が懸命に洗いものをする姿に出くわしたが…。忘れ去られた伝説が都会の一隅に甦る恐怖とサスペンスの書下し。
冬は閉ざされている立山-扇沢ルートが開通した日、登山姿の男女が室堂に降り立った。男は山村秋行、精神科医であり、女は患者の沢村淑美だった。未だ白銀の剣岳を目指す2人は、別山平で1泊、源治郎I峰下部岩壁でザイルを結び合った。まっ黒な岩壁が眼前に立ちはだかり、ハングと垂直の連続する壮絶な佗立は圧倒的である。数カ月前まで、淑美は夫殺しの容疑者だった。保険金目当ての殺人放火という嫌疑は精神鑑定の結果、過度の飲酒による病的酩酊とされ、無罪を勝ちえたのだが…真相はザイルに賭けられた。
埃っぽくて薄暗い、カルカッタの大真珠ホテル。この最下級の木賃宿には、インドを陸路で渡る旅人が集まる。作家の加田、噂好きの小田黒教授、若冠二十歳の幸丸くん、肝炎に臥せるプロちゃん、傲岸不遜の狂犬病氏、精霊と話すエスメラルダ…。一握りの金持の裏側の貧困。不可触民がたむろし、様々な病のはびこる混沌の国に、日本とは異なる時の流れや活力を見出した人々の生き様を鮮やかに描く傑作長篇。
一刀流の達人番匠谷吉三郎、昔は千石取、天下直参の若殿だったが、今は浪人。大望を秘めて、巾着切だの、夜鷹宿のおやじだのを子分にして、江戸は本所ぐらし。悪事はしても非道はせず、弱い者には大の味方、悪党どもには、坊っちゃん吉三、お坊吉三、と恐れられた。その吉三郎を頼って来たのが、売り出し中の女役者小染、実は仇を討ちたいのだとの訴え、有無なく承知したのも理由があった。痛快時代長篇。
ソ連のリガからイギリスに運ばれるはずのプルトニウム239がコンテナごと盗まれた。兵器コングロマリット〈ストラトス〉の仕業だ。ヨーロッパの核兵器廃棄構想、すなわちゼロ・ゼロオプションの陰でアルバニアに核を売ろうとしているトラトス基地を破壊するため、英米ソの諜報員が決死の潜入を試みるー。不世出の冒険小説作家アリステア・マクリーン原案。陰謀と闘う男たちの姿をスリリングに描く傑作。