1990年7月1日発売
嵐の日、舞台は那覇。組織に追われて逃げてきた原口泰三。今は小さなホテルの経営者として、時に流されている東恩納順子。かつて愛し合った男と女の15年ぶりの邂逅。そして空白の歳月をつなぐハーフダラー銀貨のペンダント…。宿命の恋をサスペンス・タッチで描く。
もしかしたらそれは、言語にはならない。身振り手振りでも、伝わらない。笑うのとも、泣くのとも違う。どんなことをしても、何かが足りない。けれど胸につのるばかりのものを、そっと集めた短編集。
学園紛争、デモ、フォーク反戦集会。森の都・仙台。バロック音楽の響く喫茶店で出会い恋におちた二人。野間響子・18歳、家族と別れて暮す高校三年生。堂本渉・21歳、不思義な雰囲気をもつ大学生。悪夢のようなあの事件がなかったら、恋にも別な結末がありえたのだろうか…。60年代末期のあの熱狂は何だったのだろうか…。激しい時代の波のなかで花開いた危険で美しい恋。新境地をひらく長篇小説。
ローズは、滝の洞穴に捨てられていた女の子を、育てた。メリーは、12歳で初潮をむかえた。ローズが死んで、川を下って町におりていった。恋人ができて、結婚して、妊娠した。出産が近づくと、滝にむかった。ひとりで女の子を出産し、その子にローズという名前をつけ、滝の洞穴に捨てた。また、だれかが拾ってくれるだろう…雪の結晶のような物語。くり返しくり返し読んでも、あきることがない不思義な本。新しいフランス小説の奇跡。
新興宗教に凝った社長に代わって新しく老舗の広告会社の社長となった山上は、辣腕を揮って業績を伸ばし業界の制覇を狙う。しかし、右翼業界紙の主宰者である柴木が恐喝で逮捕されると、彼と親しい山上にも嫌疑がかかってきた。社長交替劇の背後には何があったのか?スキャンダルのゆくえは?-現実に大企業のトップにたつ著者が、経営者の内面を赤裸に描く異色の企業小説。
ある日、宇宙から降ってきた“星虫”。額につけた人たちの感覚を増大させ、神の贈り物とさえ呼ばれた“星虫”も、巨大化し不気味に成長するにつれ、人々から拒絶されるようになっていった。宇宙飛行士を夢みる友美、学校で居眠りばかりしている広樹。友美と広樹が最後の“星虫”所持者になったとき、二人の全世界を巻き込んだ冒険が始まった…。第1回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作。
中年の独身画商梨田は、地下鉄の長いエスカレーターを昇っていくとき、降りてくる側に、知り合ったばかりの若い美貌の未亡人を認めて、咄嗟に逆乗りをし、彼女を伴って“台湾民主共和国”準備政府の大統領就任パーティに出席するが…。水際立った発端、スリリングな展開、最上のユーモアとエロティシズム。練達の著者が趣向の限りを尽して国家とは何かを問いかける注目の純文学巨編。
裁判を目前に控えた反対制学者、アレクサンドル・グラノフスキーは自室で声明文の草稿を練っていた。窓外には彼を監視するKGB職員の影が見えている。時刻はずれのしつこいノックにしぶしぶ応えると、訪問者の姿。次の瞬間、グラノフスキーの胸には錆びた異形の鎌が突き立てられた。-凍てついた夜のモスクワに起きた殺人事件。ロストニコフに捜査命令が下った。
夜明け前のフィレンツェは,森閑と闇に沈んでいた。通報をうけて現場に急行する見習い将校のバッチ憲兵は、不安を抑え、面倒な事件ではありませんようにと祈った。だがその願いもむなしく、呼びだされた先のアパートメントの部屋には中年男の死体が転がっていた…。殺人事件だった。被害者の部屋にあった身分不相応とも思える高価な美術品はどこからきたのか。そして事件当夜に被害者が待っていた訪問客とは。はじめての大事件で戸惑うばかりのバッチ憲兵は、風邪で寝込んでいる上司のグアルナッチャ准尉に相談するが、なんら手がかりも得られぬまま、第二の事件が起きた。メグレ・シリーズの巨匠シムノンが絶賛した英国女流推理作家のデビュー作、遂に登場。CWA新人賞候補作。
悠久の時を経て、廃墟となりはてながらも、なお神話の息づくマヤの遺跡。この神域にのみ生える“聖なるキノコ”には人間に過去を再体験させる不思議な力があるらしい。その遺跡をめざして消息を絶った夫のエディーを捜して、リンジーは内乱に揺れるメキシコへやってきた。エディーはかつてロックのスーパースターだったが、ドラッグで身をもち崩して入院中、その病院を脱走したのだ。エディーの兄で、マヤ文明崩壊の謎を解明に挑むトーマスとともに、メキシコ山中に旅だったリンジーを待つものは…?ファン待望の新鋭の問題作、ついに登場。
アメリカの軍事介入や、政府軍と反政府ゲリラの血みどろの抗争で政情不安におちいったメキシコ。銃火と硝煙をくぐり抜けて、リンジーとトーマスは一路〈ナ・チャン〉をめざす。果てしない時の輪廻を凝視しているような石像や、神秘の世界への扉を秘めた神殿の建ちならぶこの古代マヤの都市遺跡は、エディーになにを見せたのか?時を超えてよみがえる叡知に満ちたマヤの終末の予言とは?ギブスン、スターリングらと並んでSFの地平を果散に切り開く気鋭が、卓抜したストーリーテリングで現代SFと神話的世界を見事に融合させた衝撃の傑作。
はるかな未来、有機生命の抹殺をもくろむ機械生命メカの仮借ない攻撃に、惑星スノーグレイドの人類は滅亡寸前にまで追いつめられていた。ビショップ族のキリーンとその仲間は、メカの襲撃に窮地に立たされながら、古代地球人の遺産である宇宙船〈アルゴ〉を発見し、スノーグレイド脱出に成功、新たな故郷を求めて旅立った。そしていま、彼らの前に居住の可能性を示す惑星が現われた。メカのものらしいステーションを避けて惑星に着陸しようとしたキリーンたちだったが、突如〈アルゴ〉が制御不能におちいりステーションに向かいはじめた…。
ステーションはやはり、メカのものだった。メカの統御するシステムによる攻撃を受けたキリーンたちは反撃に転じ、ステーションからの脱出に成功した。しかし、それもつかのま、惑星をめざさんと意気上がる一行の前に、おどろくべき報告が入った。どこからともなく現われた巨大な光のリングが、惑星を切り裂きはじめたのだ!人類の知識と想像力をはるかに超かた謎にキリーンたちは立ち向かうことになるが…。現代ハードSFの旗手が最新科学知識をもとに宇宙の未知なる驚異を鮮烈に描き上げる、ファン待望の『大いなる天上の河』続篇登場。
かつてこの世が平らかなりし頃、妖魔の王アズュラーンは一時の気晴らしに人間の娘と交わって女児をもうけた。この妖魔の一人娘アズュリアズは長じてアズュラーンの宿敵、惑乱の公子チャズと恋に落ちた。もちろん、これを許すアズュラーンではない。妖魔の王の怒りを逃れて幾世紀も人界をさまよう恋する二人。時には離れ離れになり、また時には姿形を変え、人間として生きるすべを求めながら…。アズュリアズとチャズの狂乱の恋、および妖魔の眷属の魔法にふれた人間の愛と死の戯れを語った、傑作『熱夢の女王』外伝とも称すべき連作短篇集。
イシュトヴァーンの鬼神の如き戦いぶりに加えて軍師アリの策略、人々の蔑みに耐えつつ機をうかがっていた忠臣メンティウスの活躍、またモンゴール復活を願う市井の人々の身を挺しての働きによってトーラスはクムの桎梏から解き放たれた。辛酸のはてについに念願のトーラス入城を果し、またあらたな恋を得て幸福の絶頂にあるかに見えるアムネリス。だが、しょせんは成り上がりの者のイシュトヴァーンにとって、情勢は必ずしも楽観できるものではなかった。しかも、アリの謀略はさらにおそるべき運命へと、この野性児を導いていくのだった。