1990年9月発売
流人の子、罪の子よと囁かれ、うしろ指をさされて成人した伊藤弥五郎は、新天地を求め、父の形見の木刀を背に、大島から伊豆半島へと泳ぎ渡った。背丈高く、筋肉は隆々とし、15歳とは見えぬ弥五郎だが、飢えと疲労のあまり倒れてしまった。だが、三島神社宮司の矢田部伊織に救われ、その庇護のもと、剣の修行にすごす弥五郎の前に、異形の剣士李八官が立ちはだかった。雄渾な筆致で描く書下し剣豪小説。
中国の著名な将軍を父に、桂林で生まれた白先勇は、戦火を逃れ重慶、上海、南京と移り住み、戦後は香港から台湾へ、さらに米国へと居を移した漂泊の作家だ。収録した4篇も、桂林、台北、ニューヨークと舞台を異にし、愛に傷つき、異郷で孤独な死を迎える悲劇の人生を耽美的に描く。本書は、中国映画の大ヒット作『芙蓉鎮』の謝普監督が再び世に贈る感動作『最後の貴族』の原作である。
半世紀にわたる、全国武士団の骨肉あい食む抗争ー南・北両朝の内乱の口火を切ったのは、後醍醐天皇の隠岐脱出だった。髻に討幕の綸旨を秘めた密使が国々を疾った。赤坂城、千早城の合戦に敗れた楠木正成は、再起を期していた。この時、丹波篠村八幡宮に願文をささげた、清和源氏足利流の棟梁高氏は、六波羅探題を亡ぼした。新田義貞、また鎌倉を陥し、ここに建武新政は成ったとかみえたが…。歴史大作。
鎌倉幕府は亡んだものの、建武新政の相次ぐ失政に、世は乱れ、全国武士団の不満が爆発した。討幕の勲功第一とされ、後醍醐天皇の諱尊治の名の一字を与えられた尊氏は、新田義貞を討つため大軍をめをもって入洛した。後醍醐天皇は比叡山に逃れた。合戦の巷と化した京で、尊氏は楠木正成、新田義貞、北畠顕家を相手に戦ったが、遠く九州に敗走した…。室町幕府を興した英雄の生涯を描く時代大作、ここに完結。
幕府小姓番頭という職を失脚し、絵師となった朝霞桔梗之介は、再び拓かれようとしていた武士の道を拒絶して、芭蕉が辿った奥の細道へ絵修業の旅に出る。景観を画布におさめる道すがら、偶然出会う妖しい女との困果で一刻たわむれ、経路を外れることしばしの道中であった。しかも、次々と行く手に現われる悪党に時の政治の腐敗を垣間見る桔梗之介は、自らの掟に従い、眼前に群がる悪を一刀両断に斬り捨てていくー。
110番通報で文京区千駄木のマンションへ急行した警視庁捜査1課・田丸警部は、衝撃をうけた。若い女性が、全裸で両手を縛られ、片足に赤いハイヒールをはいて首を吊っていた。受話器が放り出されている。田丸が拾うと、電話は繋がっていて転井沢署の刑事が出た。なんとその場所も首吊り現場だった。しかも、被害者は全裸で両手を縛られ片足にブーツをはいた若い男性だった。精神科医・氷室想介が、巧妙に仕組まれた完全犯罪、同一犯人による、東京-軽井沢同時首吊り殺人に挑む。抜群のテンポ、絶妙のストーリー展開、あふれる新感覚。度肝を抜く大トリック、推理界期待の大型新鋭が世に問う書下ろし新本格推理傑作。
杉原爽香、十七歳の冬。爽香の中学時代の恩師安西布子と河村刑事は、美術館で久々のデート。彫刻が置かれた庭で河村が意を決して布子にプロポーズをしたとたん、ずぶ濡れの若い女性が助けを求めてきた。何者かに池へ突き落とされたその女の手には、亜麻色のジャケットが…。長編青春ミステリー。
玉井タマ子は12歳を頭に3歳まで、5人の子を抱えて未亡人に。スーパーはえぬきの夫が、社長の妾だった経理部長と心中?「そんな馬鹿な!」タマ子は胆っ玉母さんだ。「ファミリーが団結すれば、真相を暴けるし、どんな強敵も斃せる」と誓う。葬儀屋で生計を立てた。10年後、子どもらは成長。さて一家の社長撃滅大作戦とは?
「中南米の麻薬組織による、コカインの日本持ち込みを阻止せよ」海原首相は特殊部隊の砦洋介に命じた。砦はまずコロンビアのコカイン地帯へ飛び、米軍特殊部隊と協力して、コカの葉絶滅作戦を開始。部隊の面々も日本へ向かう謎の貨客船を追跡した…。麻薬をめぐる政治、経済、軍事問題を、豊富なデータと綿密な取材で描く。
画家・小塩正彦の最高傑作である春画を探してほしいー。カウンセラーにして秘密捜査官の顔をもつ赤垣美晴は、群馬県川場村へ。そこで彼女は、二十年前に小塩が自殺し、絵のモデルをした三人の女性もことごとく殺されている意外な事実に出会う…。性と官能の深淵に鋭くメスを入れた好評“赤い闇の未亡人”シリーズ。
1992年6月、エルサルバドルで過激派が米海軍の最新型核ミサイル・トライデント2Aを略奪。協調路線をとる米ソにとって、この一件は、新デタント崩壊の引き金ともなりかねない。隠密裡に事件の処理にあたる米政府に対し、ソ連首脳はGRUの女工作員を米本土に潜入させ、真相究明にあたる…。-大物スパイと名女優の間に生まれた美貌のスパイ・アーニャをめぐる裏切りと陰謀。事件の背後にリビアの影とソ連上層部の確執が…。
そいつは、とうとうやって来た!それは人か魔物か。刑事の露無は、北海道の知床で物の怪に襲われた。魔物が住む世界へ行かぬかぎり、死が待っている…。物の怪の国への扉を開け!露無もまた魔人と化した-。