1990年9月発売
豊かな体と長い髪、どんなに隠そうとしてもショーガールのように見られてしまうきれいな脚、それがわたしの外見だ。ウェストサイドのレストランでキャッシャーをしている売れない女優ーそんなわたしの帰りを待つのは、アパートの部屋に住まわせているかわいい野良犬たちのはずなのに、その日は様子がちがっていた。付き合いのあった盲目の男と盲導犬が殺されていたのだ。刑事には容疑者扱いされるし、その後わたしの愛犬の一匹も何者かに惨殺されて…。キュートで犬好きの女優が予想もつかぬ怪事件に巻きこまれていく風変わりな新シリーズ。
情熱的な中年女性クララ・ヴェルドは、ニューヨークに四番目の夫と住み、ファッション関係の仕事をしていた。いつも洗練された身なりの彼女には、最初の結婚の前からイシエルという恋人がいて、彼からもらったエメラルドの指輪をいまも変らぬ愛のシンボルとしていた。ところが、その大事な指輪が紛失して…。ノーベル賞作家が贈る、ウィットあふれる愛の物語。
何者かの罠にはめられ無実の罪で服役していた元最高裁判事アデア。十五カ月の刑期を終えた釈放の日、彼は獄中で囚人仲間に命を狙われた。危うく難を逃れた彼は、襲撃者の口から自分の首に二万ドルの賞金が懸かっていることを知る。姿なき敵の正体を暴いて復讐することを誓ったアデアは、弁護士ヴァインズの力を借りて、出所と同時にカリフォルニアの浜辺の町、ドゥランゴへと向かった。ドゥランゴ-主だった産業もなく、人口が一万にも満たない過疎の町。この町の最大の収入源であるビジネスは、命を狙われている者に隠れ家を提供することだった。ドゥランゴに致着したアデアとヴァインズは町の女市長と警察署長の二人と手を組んで、身を隠すと同時に復讐のための策を練りはじめる。が、その直後、町には謎の殺人鬼が現われ、アデアへのメッセージを残しながら次々と犯行を重ねていく…。ますます面白さに磨きのかかった、巨匠の傑作ノンストップ・サスペンス。
パロ=モンゴールの戦いのさなか、辺境の森に忽然と現われた豹頭人身の超戦士グイン。その出現は、古代王国パロ、尚武の国ケイロニア、新興モンゴール、草原の国アンゴス、そのほかの群雄が割拠する国々に、また人々に大いなる波紋をもたらすのだった。現代の語り部栗本薫が全百巻という壮大な構想のもとに繰り広げる大河ロマン、グイン・サーガ・シリーズ。第二部陰謀篇愛蔵版、ここに登場。
1976年、ミネソタ州セントクラウドのハイスクールを卒業した男女の中に、ニック、チャーリー、マーティー、ビルの姿があった。田舎町に残る者、出て行く者-それぞれの進路は分かれていった。月日は流れ、卒業13年目の冬、今は麻薬売買に手を染めるニックが故郷へ帰ってきた。ニックの出現で町に波紋が広がる中、義姉の葬儀のために、チャーリーが町へ帰ってきた。彼はニックにはめられて刑務所送りになり、流れ者に身を落としていた。再びセントクラウドで一堂に会した同窓生たち。青春時代の確執、大人になってからの破綻…静かな田舎町に、過去に端を発した殺人の時が迫っていた。アメリカのホームタウンの人間模様を克明に描き出して、文芸作家2人が創り上げた深味のある長編ミステリ。
薬師丸春麿は、28歳でシングル族である。東大を卒業して、平和物産企画部に所属していたが、仕事では全く信用されていない。しかし天下の東大卒。外見はインテリ風で目鼻立ちがよく、色は浅黒く精悍。女にモテて、女に強い。特に、幼くして亡くした母の面影に似ている女となると、猪突猛進、失敗したことがない。この春麿の「長所」を見込んで、平和物産のオーナー会長が特別秘書に抜擢した。会長直々の部下になった春麿は、次々と現われる女を篭絡し、会長のスキャンダル揉み消しに手腕を発揮するが…。
「北京の銀座」などと日本人が勝手に名付けたりしている王府井大街。日本製の時計・カメラ・テレビ・洗濯機はじめヨーロッパ製・アメリカ製・香湾製のありとあらゆる商品であふれるこの大商店街。そこには中国人のたくましい熱気が渦巻いているのだが…。
新橋に事務所を持つ弁護士・樋口丸男の許に、彼のかつての同級生・西村陽子の紹介という若松美知子が訪ねてきた。美知子の兄・邦雄は、会社で3億円近い偽造手形を切り、失踪、自殺を遂げた。無実を信じる美知子は樋口に事件の調査を依頼。手形は切ったが、その金を使った形跡がないことがわかる。そんな矢先、美知子が突然依頼をとりさげにきた。不審に思った樋口は調査を続行する。長篇サスペンス・ロマン。
天野川を下った町のはずれに、邦子の嫁いだ小さな造り酒屋がある。子供に恵まれず、夫と舅夫婦との平穏な毎日を送る邦子だったが、東京から移り住んできた日本舞踊の月形流家元・月形霧玄に淡い憧れを抱き始めていた。思いかけず、京都月形会館の竣工パーティに招かれた邦子は、ためらいながらも一人旅立ち、誘われるまま瑳峨野で一夜をともにしてしまう…。人妻のはかない純愛を描く長篇恋愛小説。
玉里は松葉屋の折檻部屋で、三日目の朝をむかえた。天井下の梁からおろされた綱で玉里は吊るされている。半裸の肌身に縄目が食いこんでいた。後ろ手にされた手首と腕の痛さも、今は感じなくなっていた。足ぬきをはかった遊女が、どんな仕置きを受けるものか、玉里も話には聞いていた。しかし、こんな酷いものとは。玉里はひたすら耐えていた(廓祝言)。表題作他、悲恋を描く時代小説七篇を収録。
流人の子、罪の子よと囁かれ、うしろ指をさされて成人した伊藤弥五郎は、新天地を求め、父の形見の木刀を背に、大島から伊豆半島へと泳ぎ渡った。背丈高く、筋肉は隆々とし、15歳とは見えぬ弥五郎だが、飢えと疲労のあまり倒れてしまった。だが、三島神社宮司の矢田部伊織に救われ、その庇護のもと、剣の修行にすごす弥五郎の前に、異形の剣士李八官が立ちはだかった。雄渾な筆致で描く書下し剣豪小説。
中国の著名な将軍を父に、桂林で生まれた白先勇は、戦火を逃れ重慶、上海、南京と移り住み、戦後は香港から台湾へ、さらに米国へと居を移した漂泊の作家だ。収録した4篇も、桂林、台北、ニューヨークと舞台を異にし、愛に傷つき、異郷で孤独な死を迎える悲劇の人生を耽美的に描く。本書は、中国映画の大ヒット作『芙蓉鎮』の謝普監督が再び世に贈る感動作『最後の貴族』の原作である。
半世紀にわたる、全国武士団の骨肉あい食む抗争ー南・北両朝の内乱の口火を切ったのは、後醍醐天皇の隠岐脱出だった。髻に討幕の綸旨を秘めた密使が国々を疾った。赤坂城、千早城の合戦に敗れた楠木正成は、再起を期していた。この時、丹波篠村八幡宮に願文をささげた、清和源氏足利流の棟梁高氏は、六波羅探題を亡ぼした。新田義貞、また鎌倉を陥し、ここに建武新政は成ったとかみえたが…。歴史大作。
鎌倉幕府は亡んだものの、建武新政の相次ぐ失政に、世は乱れ、全国武士団の不満が爆発した。討幕の勲功第一とされ、後醍醐天皇の諱尊治の名の一字を与えられた尊氏は、新田義貞を討つため大軍をめをもって入洛した。後醍醐天皇は比叡山に逃れた。合戦の巷と化した京で、尊氏は楠木正成、新田義貞、北畠顕家を相手に戦ったが、遠く九州に敗走した…。室町幕府を興した英雄の生涯を描く時代大作、ここに完結。