1990年発売
辣腕事業家の山内定子が始めた結婚式場は大繁盛だった。しかし経営をまかされていた小心者の婿養子・善朗はある日、口論から激情して妻定子を殺してしまう。河越の古戦場に埋れた長年の怨念を重ねた長編推理。
めったに贈り物など受けとったことのないルポライター、浅見光彦のところに大きなダンボールの包みが届いた。中味はなんと姫鏡台。差出人は浅見の初恋の女性、夏子だった。なぜ夏子は姫鏡台などを送ってきたのか?淡い初恋の思い出をたぐりよせるように、浅見は夏子の嫁いだ文瀬家の豪邸を訪ねるが…。さまざまな鏡をめぐり、浅見の名推理が冴える傑作短編集。表題作ほか2編を収録。
「宮本武蔵」の圧倒的な好評を受けて、著者は次作の題材を吟味した。昭和15年新春より朝日新聞紙上を飾ったのが「源頼朝」である。これには“小説日本外史”の副題がついている。歴史を闊歩した代表的日本人を次々に登場させる構想で、その第一に源頼朝が選ばれた。まさに頼朝こそ源平抗争の英雄であり、700年の武家社会を築いた巨擘である。著者は武将頼朝の周辺に鋭く肉薄してゆく。
大作『新・平家物語』を完成した著者は、息つく暇もなく、南北朝を題材とする『私本太平記』の執筆にかかった。古代末期から中世へーーもはや王朝のみやびは影をひそめ、人間のどす黒さがあらわに出てきた時代、しかも歴史的には空白の時代である。史林の闇に分け入るとき、若者は使命感と創作意欲の高まりを禁じえなかった。開巻第1、足利又太郎(尊氏)が颯爽と京に登場する。 この世の影なき魔物の正体を衝く意欲作ーー日本史上の空白期とされる南北朝時代、もはや王朝のみやびは影をひそめ、人間のドス黒さがあらわに出てきた時代ーー足利又太郎(後の尊氏)が颯爽と京に登場する。 ■あしかが帖 下天地蔵 大きな御手 時の若鷹 ばさら大名 藤夜叉 あばれ川 新田桜 置 文 なべとかま 裁許橋 うつつなき人 登 子 波まぎれ 不知哉丸 ■婆娑羅帖 乱鳥図 正中ノ変 楠木たずね 悲 歌 ぶらり駒 繚乱七種 妖霊星 上り地蔵
鎌倉幕府が開かれてから130年、政治のひずみが到るところに噴出していた。正中ノ変はその典型的な例である。そして公武の亀裂はますます拡大し、乱世の徴候が顕然となった。「天皇御むほん」さえ囁かれるのである。当時は両統迭立の世、後醍醐天皇が英邁におわすほど、紛擾のもととなった。この間、足利高氏が権門の一翼として擡頭し、再度の叛乱に敗れた日野俊基とは明暗を大きく分ける。
「エルサレムに入城するイエスさまを乗せた、小さな子ろばのようになりたい。〈主の用なり〉と言われたら、たとえ自分に力が無くとも、どこへでも出かけて行こう」-敗戦後の激動の満州から帰国した多感な青年・榎本保郎は、挫折を試練にかえて立ち直り、神の道への献身をこのように決意する。京都世光教会を創立し、今治教会を経て、アシュラム運動の発展のために全身全霊を捧げた、熱血牧師の52年の生涯。
甦った矢切鞭馬は、現界と魔界をつなぐ幽暗の鬼窟に閉じ込めた妖鬼の招喚を企む黒部一族を殲滅しようと決意した。そのため日常はしがない塾教師をしているが、実はテレポート能力を持つ超戦士・萩生真介に助勢を求めた。しかし真介は妖艶な黒部千明の淫術で淫囚にされてしまう。超伝奇長編小説第2弾。
何ものかに鋭い牙で裂かれた死体が、首都一円で次々に発見された。一命をとりとめた若い女は、「見たこともないような獣に襲われた」と証言した。妖獣狩りを依頼された古丹神人、比嘉隆晶、遠田宗春、猿沢秀彦の4人の超能力者は、妖獣の力の軍事利用を企む超大国の陰謀を粉砕すべく立ち上がった。
天国にいるママの声がききたい、とパパがはじめて泣きました。そこでめいは、パパにすてきな贈りものをします。-表題作「赤い糸の電話」、恋人と妖精の世界へ帰るため、幸福な人間の流すなみだを集めているおばあさんー「十万粒のなみだ」など、11編の物語。心のせつなさが、かなしさが、やさしさが、ゆめをつむぎ出します。
新しい言葉の創造によって“時代”が鼓舞される作品、そういう作品を発表し続けて来た文学者・大江健三郎の20代後半の代表的長篇傑作『叫び声』。現代を生きる孤独な青春の“夢”と“挫折”を鋭く追求し、普遍の“青春の意味”と“青春の幻影”を描いた秀作。