1990年発売
少女は必死に走った。最終バスに乗り遅れると、門限に間に合わない。だが、バスは無情にも目の前を走り去っていく。翌朝、少女は死体となって発見された。ノーフォークの連続絞殺魔“ホイッスラー”の4番目の犠牲者だった…。ダルグリッシュ警視長は、亡くなった叔母の遺産を整理するため、休暇をとってノーフォークの海ぞいの寒村を訪れた。青い海を背景に、午後の光を受けて金色に輝く松林や修道院廃墟。そしてその向こうには、ラークソーケン原子力発電所の巨大な灰色の建物が、岬を睥睨するように聳え立っている。この平和な光景に、“ホイッスラー”の影などどこにも感じられない。だが、それはたんなる幻想にすぎず、死の脅威がこの岬にも襲いかかろうとしていることを、ダルグリッシュは知る由もなかった。現代本格ミステリの頂点に立つ著者が人間の心に巣くう策謀と欲望を重厚な筆致で描きあげた話題の本格巨編。
時は21世紀。地球はひとつの巨大な“ネット”に包みこまれていた。情報化と核兵器廃絶で力を失った国家にかわり、ネット上で活躍する多彩な多国籍企業が地球を動かしているのだ。そのひとつ《ライゾーム》社の呼びかけに応え、第三世界のデータ海賊の大物たちが、社のゲストハウスに集結してきた。違法なデータ盗用と無意味な武力抗争に終止符を打つのが《ライゾーム》社のもくろみだったー。だが交渉開始の矢先、会談の責任者ローラの目前で悲劇が起こった…。気鋭作家が近未来情報化社会をリアリスティックに描いたSF問題作、ついに登場。キャンベル記念賞受賞。
会談は決裂したー第三世界のデータ海賊のひとりが、正体不明の無人機械に殺されたのだ。疑心暗鬼におちいり、復讐にのりだすデータ海賊たち。だが情報社会に暴力が無意味であることを確信するローラは、彼らを再度交渉のテーブルにつかせるため、単身旅立つことを決意する。グレナダ…シンガポール…権力と軍、秘密警察が一体となってデータ海賊行為をはたらく国々。そこでローラを待ちうけていたのは、想像を絶する悪夢だった。90年代SFを担うスターリングが果敢に新機軸を切りひらき、キャンベル記念賞受賞に輝いた話題の傑作長篇。
ギリシアで紀元前15世紀のミュケナイ文命の遺跡を発掘していたボストン大学の美人考古学者クレア・アンダースンは、同僚のジョージとともに驚くべきものを見つけた。これまでミュケナイ文明の遺跡から出土したこともない遺物が、古代の王が埋葬されている墳墓に隠されていたのだ。それは、黒い石灰石でできた縦横1メートルの立方体だった。その側面には琥珀でできた長さ10センチほどの角が埋めこまれていた。これは3カ月にわたる発掘作業で最大の発見だった。だがこの苦労のすべてを水の泡にする事件がクレアたちを待ちうけていたのだ…。
アメリカとの共同発掘のギリシア側の責任者であるアレクサンドロス・コントス大佐は、突然アメリカの学者たちに2週間以内に調査隊を解散し、発掘現場から立ち去るよう要求した。しかも、コントス大佐は発掘続行の見返りにクレアにいかがわしい申し出までしてきたのだ。考古学史上前代未聞の出土品の調査をどうしても続けたかったクレアは、ついにとんでもない計画を実行に移したが…。恐るべき怪物を封じこめた古代の遺物をめぐるアメリカ・ギリシアの争いを、科学者作家ベンフォードが息もつかせぬ展開と壮大なスケールで描く傑作冒険SF。
考古学者エリザベスは、マヤのジビルチャルトゥン遺跡を発掘調査中、奇怪な現象を体験したー古代マヤ語を話す女の“幻”と遭遇したのだ。この女こそ、マヤに実在した女神官スーイー・カーク。壮大な使命を秘めて永劫の時を超え、マヤ暦の大いなる時の円環が一巡する現代にやってきたのだ。同じころ、長いあいだ音信不通だったエリザベスの娘ダイアンもマヤに姿を現わす。時を超えて3人の女が一堂に会したとき、古代マヤの恐るべき予言が着実に実現しようとしていた…。期待の新鋭マーフィーが華麗なる神話的小宇宙を紡いだネビュラ賞受賞作。
現実の世界から暗黒の生き物が人肉を求めて暴れまわる異世界へ転移した女子大生のジルと自動車整備工員のルーディ。ふたりは化け物と闘う間に、それぞれのうちに秘められた力を発見したージルは剣士に、ルーディは魔法使いになれる才能があったのだ。これに気づいた魔法使いインゴールドは、ルーディを連れてクオへと旅立った。その地にこそ、暗黒の生き物を退治する手立てを知る唯一の人物、魔法使い会議の議長ロヒロがいるのだった。だが、たどり着いてみるとクオには魔法がかけられ、誰も近づくことができない迷宮の都市と化していた。
1977年4月、モスクワのゴーリキー公園で雪の下から男女3人の射殺体が発見された。いずれも顔面を鋭利な刃物で削ぎ落とされ、指先も切断されていた。捜査を命じられた民警の主任捜査官レンコは残虐な事件の背後に見えかくれするKGBの影に当惑する。彼は人類学研究所に被害者の顔の復元を依頼する一方、被害者のひとりがはいていたスケート靴から運命の女性イリーナと出会う。反体制派の彼女に次第に魅かれてゆくレンコ。そして捜査線上に浮かぶアメリカ人の毛皮商…。不可解な事件の真相を追ってレンコはソ連社会の暗部へと迷いこんでゆく。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞。
ゴーリキー公園の顔と指のない3つの死体…。それは誰も触れることの許されぬソビエト社会の根深い矛盾を象徴していた。ようやくレンコは殺人犯の正体をつかむが、検事局長から捜査の終了を命じられる。彼は決して掘り起こしてはならない過去を発見してしまったのだ。主任捜査官の地位さえも奪われたレンコは、メーデーの夜、ついに犯人と対決する。そして彼が海の彼方で見た、驚愕の真実とは?英国推理作家協会ゴールド・ダガー賞を受賞した本書は現代社会への深い洞察にあふれ、「現代ミステリの最高水準」と絶賛された稀代の傑作である。
開戦から二年、ドイツの通商破壊作戦はイギリスに深刻な物資の欠乏をもたらしていた。ここ南大西洋でも二隻の武装商船が猛威をふるい、貴重な積荷を載せて英国本国へ向かう輸送船がつぎつぎと海の藻屑にされていた。この兇暴な敵を捕捉・撃沈すべく、全速で南下する巡洋艦船ノヘサンバーランド。その艦上には大尉に昇進したキャメロンの姿もあった。だが同艦の行動を探知したドイツ海軍は、はるかに強力な新鋭重巡洋艦を投入して追跡作戦を開始する……。祖国の命運と自己の誇りを賭けて、いま海の男たちが激突する。海洋冒険シリーズ第4巻。
ニューヨークはまるで妖怪のような都市だ。ここでは何が起きても不思議ではない。1日平均4人強の人間が殺害されているのだ…私立探偵のスパナーが、無残な肉塊と化した女性の身元不明死体を発見したのは、じめじめとした6月初旬の夜だった。死体はただちに検視官事務所へと送られたが、途中、輸送車が何者かに襲われ強奪されてしまった。おりしも持ち込まれた失踪人捜しの依頼。失踪した娘は、身元不明の死体の主なのか?大都会に生きる人間たちが織りなす愛憎のドラマを鋭い視点で描く傑作ハードボイルド。カウフマン警視シリーズ番外編。
署長が探しておられます、警部。至急ゴルフクラブへー休暇をとってろくなことのあった試しがない。全英オープンに参加したほどの腕前をいまさら見込まれたわけではあるまいし、休暇中にどんな厄介事が持ち上がったのか。ところが、行ってみてわが目を疑った。神聖なるグリーンの芝生が見るも無残に掘り返されていたのだ。ビック・トーナメントを間近にひかえて、誰が、なぜこんな大それたまねを…。ベストセラー作家で皮肉屋で、愛車マセラッティを駆って英ミステリ界に颯爽登場のストローン警部が、奇々怪々の事件にバーディを狙います。
一点の曇りもない空を渡り鳥が優雅に旋回する9月のある日、元ミュージシャンのクリックのもとに一人の女が舞い込んだ。5万ドルを持って失踪した夫を探してくれ、と訴える女の美しさに心惹かれて彼は仕事を引き受けた。時おなじくしてマリファナの密売をしていた男が狩猟事故で死亡したことを知り、警察に協力を求めるが保安官は腰を上げようとはしない。やがて事件の関係者が次々と謎の死を遂げ、真実を追うクリックにも魔手が迫る。ロッキーの雄大な自選を舞台に男の孤独な追跡を詩情をこめて謳い上げるアドヴェンチャー・ハードボイルド。
はるかな過去に起こった熱核戦争で地球を離れた人類は、銀河系にある極寒の惑星〈氷瀑〉に〈虚無〉と呼ばれる都市を建設し、三千年の長きにわたって平和を謳歌していた。だがいま、〈氷瀑〉に恐るべき事態が迫りつつあった。近隣宇宙空間で恒星が次々と超新星化していくという謎の現象が起こったのだ。人類が生きのびる方法は、ただひとつ。神々の末裔といわれる太古の種族イエルドラ人が残した、古エッダと呼ばれる秘密を解明することだった。古エッダには宇宙と生命のあらゆる謎の答が示されているという。〈虚無〉の社会的指導者である時間守護者の指令のもと、パイロットたちは過酷な調査行へおもむくが…。
時間守護者による古エッダ調査計画に.一人の新人パイロットが志願した。彼の名はロマリー・リンゲス。時間守護者の承認を得たリンゲスは.最初の目標.ソリッド・ステート・エンティティに向かう。イエルドラ人の秘密に到達するには.この位相空間に住む謎の巨大バイオ=コンピューターの知識が必要なのだ。空間に窓をあけ.幾何学的計算によって目的地への道筋を定める超空間航法を駆使してリンゲスはエンティティのいる空間に到達する。だが.そこでエンティティは.古エッダを解く鍵は人類最古のDNAにあるという.驚くべき真実を告げた。リンゲスは新たな探索行へと旅立つが…。