1992年10月1日発売
人けのない古寺で密会する老年ながら精気に溢れた二人の男。政権与党内で次期総裁の座を射止めんとする第二、第三派閥の参謀同士が互いの肚の内を探りあっているのだ。総理総裁現職の大嶋雄策が党内の不文律を無視し、三選を目指す動きを見せたため政界は大混乱に陥っていた。裏切り、疑心、中傷の渦巻く修羅場で飽くなき覇権争いを制する者は。
奈良で売薬を業としていた大森通仙一家に思わぬ災難がふりかかってきた。店の前に鹿の死体が置かれていたのだ。鹿殺しの堅い禁制を破り、所払いとなった通仙親子に襲いかかる、数奇な運命から、いつしか江戸吉原の花魁になっていた娘のおたかだったが…。(第1話曲水の盃)。“いろまち”にまつわる物語を艶に絡めて描く浮世草紙。全十一話の傑作集。
1944年4月、アメリカ・タコマ市にあるB-29製造工場の爆撃に成功した「富岳」隊に次なる命令が下った。それは、ニューギニアにいるマッカーサー将軍の爆殺計画だった。ブーゲンビル島で撃墜された山本五十六長官の仇討ちに燃える近藤正己少佐は、18機の富岳を率いて出撃していった。さらに、囮部隊として空母大鳳を旗艦とする第1機動艦隊がパラオ島方面に進出…。だが、富岳隊撃滅の責任者であるドナルド・フォス中尉は、日本軍の意図を察知、迎撃態勢を整えていた。富岳隊に肉迫するP-51マスタング。新型戦闘機「旋風」登場。息をのむ大空中戦。絶好調書下ろし長編スペクタクル小説の圧巻。
社会が何かを喪失している現在、文学もまた渇望する何かを持っていない。社会がただならぬ異臭を発するとき、著者の鬱情は、憤怒と愛は、ふつふつと煮えたぎる。純粋無垢を嘲笑する現実に対し、最後の陸軍幼年学校生たる著者は、悪鬼羅刹と化して筆をとる。稲妻となって闇を裂き、燐光のように燃える8つの短篇は、南北朝期の宇宙に読者を叩き込む。
エイスリンは、いつしかウルフガーの孤独の影にひかれていった。父の領土を略奪し、自分を奴隷としてひざまずかせる男からの寵愛。しかし、それは単なる囚われの愛人に対するものではなくなっていた。ふたりの魂は複雑に絡み合い、運命の糸は紡がれていく。身篭ったエイスリンは、その新しい命があの狡猾な男ラグナーの子供ではなく、愛する人のウルフガーの血を引くものであってほしいと望み苦しむ。略奪と愛に、名誉を賭けて激しく戦う騎士たち、愛に揺れ動く美しい女たち-。11世紀のイギリスを舞台に繰り広げられる、壮大なる長編歴史ロマン。
箱根空間美術館の庭園に、黄金色に輝く巨大な円筒が屹立していた。美術館15周年記念として創られた立体芸術作品〈ニュートンの密室〉-。高さ15メートル、直径8メートルの円筒で、内部から上を仰ぐと円形の青空が見える。その披露パーティ当日、女性芸術家が円筒内部で惨殺された。それは万有引力に逆らわなければ到底不可能な殺人と思われた…。
グレート・ビクトリア砂漠を行く8人の元囚人たち-。彼らは、イギリスのオーストラリア開拓政策によって虐げられている原地人と共に立ち上がり反政府運動を展開しようとするが…。オーストラリア大陸を舞台に描く壮大な長篇歴史ロマン。
それは、旅行中の女子大生の失踪事件から始まった。いまだに消えぬ太平洋戦争の深い傷あと。東南アジアと日本を結ぶ麻薬機関の陰謀。日本の政界をゆるがす恐るべき犯罪の真相をさぐるため、私立探偵の中井が現地へ飛ぶ。そこで彼が見たものは-。書き下ろし社会派サスペンス。
特命武装巡察官とは、国家的大事件や広域事件を秘密裡に捜査するため、超法規的措置を許可されている者たちである。5年後に中国に吸収される香港島を、日本近海の無人島に移転しようと企む闇のシンジケート。その野望を絶つべく、巡察官・朱雀豪介が敵のアジトに乗りこんだ。
詩歌雑誌への投稿をきっかけに文通を始めた男女の間に芽生えた淡い恋心のゆくえは-?ピュアでハートフルな感性がきらめく新鋭が、愛し合う人びとの姿をさわやかに描く、珠玉のラブ・ストーリー。
白い肌、白い髪、紅い瞳の魔法少年エンジェル。彼は巡回奇人一座と一緒にやってきて、平凡なホーリイの夏をめくるめく興奮と恐怖のうずに巻き込んだ。エンジェルを意のままにあやつるハーヴァーストック、小人のティム、半獣人ミノタウロス、幻想と現実のはざまに棲む者たちーアメリカの知られざる幻想作家トム・リーミイが、ブラッドベリにも似た透明で美しい世界を織りあげた、ファンタジーの傑作。
「焚火でいれたコーヒーは、たまらない味がする」-。森に入り、火を燃やし、物を食う。星の下で眼る。そこから生まれる物語の数々。登山家、猟師、釣師、少年、物動たち、そして都市生活者。野性とともに生きるものたちの、厳しくも美しい生の輝きを、渾身の力をこめて描く。アウトドア文学に、まったく新しい才能の出現。
「醜い顔に奇抜な服装、年は殆ど六十七…」幸せな気分で唄いながら、セーラはペンキを塗りたくっていった。恒例プレザンス海賊団によるギルバート&サリヴァンの公演を前に、今年は珍事が続出。急遽、伯母から大道具画家に命じられたのだが、その作業の楽しいこと。けれど、高価な絵の紛失を契機に、身代金の要求、殺人事件の発生と、不測の事態が相つぎ…。ユーモア第六弾。