1992年6月発売
『失われた時を求めて』は、日本語訳で1万枚に近い作品である。本書ではそのなかから47の断章を訳出、各断章にはそこに至るあらすじを記し、上下2冊で全体をよく理解できるように構成した。フランスで広く読まれるエクストレ=抄訳の形式である。
ほんの冗談のつもりで始めたことによって、回り中の人間から批判される皮肉屋「誰も笑いはしない」中年男の二人組の女漁りの意外な顛末「永遠の憧れの黄金のリンゴ」年上の女との一度だけの逢瀬と十五年後の巡り合い「年老いた死者は若い死者に場所を譲ること」人生の機微、いたずらな運命、愛の皮肉…。小説のマジシャン、クンデラが、巧妙にそしてエロチックに描き出す、ちょっとユーモラスでちょっと苦い7つの愛の物語。クンデラ文学の精華を集大成した、唯一の短編集。
心理療法士の牧子は、失恋の痛みを忘れるために喧騒の東京を離れ、北海道の東の果て、森と湿原と海に囲まれた病院に勤務した。ギャンブル好きの一風変った寛大な堂福院長の開放病棟で、牧子は意欲的に働き、青年漁師の洋々との出会いに生きる喜びを再び全身に感じた。しかし、幸福な愛の時も束の間、海が彼の命を奪う。安らぎを求め強く生きようとする若い二人の純愛を描く長編。
ソーントーンの見習い魔女ジリオンは、瞳を封印され、山の館に戻れなくなっていた。青狼の毛皮をまとった王子と大海原をさまよううちに、二人は竜の部族の女戦士たちに囚われてしまう。その日からジリオンは、部族を救う巫女姫になることを求められるのだった。しかし、閉ざされた瞳は邪悪な石の瞳、いま、廃墟の城でその封印が解かれてしまった。好評の本格異世界冒険ファンタジー。
月夜の晩。都会を遠く離れ、海へとボートを漕ぎ出す男と女。うねりを乗り越えて波間にただよう二人は、しかし、恋人同士ではなかった…。(「うねり」)。夢と現実のあわいでつかのま触れあう男と女。そんな人々の、一瞬ではあるけれど確かにそこにあった思いを描いた抒情小説集。表題作「土星を見るひと」の他、「壁の蛇」「クックタウンの一日」「ボールド山に風が吹く」など計7編を収録。
1936年、ベルリン。オリンピックを間近に控えながらも、ナチ党の独裁に屈し、ユダヤ人への迫害が始まったこの街で、失踪人探しを仕事にするグンターに、鉄鋼王ジクスから調査の依頼が舞い込んだ。ジクスの一人娘とその夫が殺され、高価な首飾りが盗まれたという。グンターはナチ党政府高官だった娘婿の身近を洗い始めるが…。破局の予感に震える街を舞台に描く傑作ハードボイルド。
ローラとひとつ年下の弟のクレイは14歳の時に両親を交通事故で亡くした。異父兄のベンは幼い二人にも盗みを教えた。泥棒稼業もこれが最後と、ホテル一族のサリンジャー家に住み込むローラとクレイ。ホテル王サリンジャー・オウエルは孫娘以上にローラを愛し信頼し、彼女を後継者にと遺言して急死した。いま彼女の過去が暴かれた。愛しい婚約者ポールも失ったローラの運命は…。
サリンジャー家から追放され、裁判にも敗訴したローラは、オウエルの遺志を実現させようと立ち上がった。国際的金融王のウェスとの出会いがローラに、ホテル・ウーマンを確実に約束させていく。しかし、彼女はウェスの愛情に応じない。冷酷なまでのローラの権謀術数は成功し、オウエルの夢のホテルの所有を目前に窃盗事件が彼女を襲う。そしてポールとの再会に心が震えるローラ…。
いろいろ新しい宗教や信仰が、現在、さかんのようだが、それは、人間がつくった神で、祈ったからとて、何の力もない。他に神があるように説いて、信仰をすすめる者が多いが、それは、そう説く者の、私利、私欲によるもので、神とは全く関係ないので、愚かにも惑わされては、恥である…。神は、ただ大自然の親神しか、存在しない。書き下ろし長篇。
後白河院の策謀がうごめき、義経・頼朝が反目しあい、洛中に印地、凶徒、あやかしの者どもが跳梁する末法の世。おのれに幻術をかけ、愛しき百合根を殺した巫女を追う、古童子・阿古丸は、いつしか乱世の渦に呑みこまれていった…。京、熊野、鎌倉を舞台に血腥い風が吹きあれ、怪事、変事が続発する。伝奇小説の新境地をひらく傑作長篇。
アメリカン・ドリームから何光年も離れて生きる人びと。華やかな西海岸とは異なる“西部”の疲れた農村、沈んだ町、厳しい自然。〈もうひとつのアメリカ〉の真実を、哀しみと、畏れと、愛をこめて描く8篇。
三人のヴェトナム人労働者の死体は見るも無残なありさまだった。眼球は床に転がり、口には切断されたペニスが突っこまれていたのだ。現場に落ちていた男物の財布から、農場主のスティーヴン・リーズが逮捕された。彼には動機もあった。妻をレイプした犯人として、殺された三人のヴェトナム人を告訴したことがあったのだ。裁判でヴェトナム人たちに無罪の評決がくだされたとき、スティーヴンは怒り狂って、「おまえらを殺してやる」と叫んでいた。彼はそれを実行に移してしまったのだろうか?スティーヴンの実直な人柄に接して無実を信じたホープは、レイプ事件を含めた調査にのりだした。だが、事件当夜スティーヴンは自宅で寝ていたという妻の証言にもかかわらず、犯行現場付近で彼を目撃したという証人がつぎつぎと現われた…。現代アメリカ社会における人種対立を背景に、異人種間の恋愛、偏見、憎悪に鋭く切り込むシリーズ問題作。
一家でローマ旅行中のぼく、物理学者のアルウィンは、突如テロリスト集団に誘拐されてしまった。彼らの目的は、ぼくに核爆弾を作らせること。囚われの身となったぼくは、ひょんなことから不思議な球体を手に入れた。人間にエッチ効果をおよぼすこの“セックス・スフィア”が、実は異次元生命体で、とんでもない大騒動を引き起こすことになるとは、ぼくは知るよしもなかった…。あぶない鬼才ラッカーの超数学マッドSF。
流刑惑星トリーズンで不死身として恐れられ、近隣各国をつぎつぎと征服しているミューラー人ー。遺伝子学者の末裔であるかれらは遺伝子操作で驚異的な再生能力を得ていたのだ。だが、その能力に異常をきたしたミューラー国の王子ラニックの胸が、ふくらみはじめてしまった。国を継げない身となった王子は、やむなく諸国遍歴の旅にでるが…。3千年前に流刑にされた科学者たちの子孫が住む惑星を舞台に描く傑作冒険SF。
魔法で父王を死なせてしまったケイス王国の王女アサーヤは、王位を継いだ長兄の手の者に追われながらも、なんとか隣国レイカに落ちのびた。魔力を持つ故国の人々を一刻も早く苦しみから解放しなければー。アサーヤは、魔法十字軍を結成してケイスにもどる決意を固め、魔法使いのエリート集団である〈大魔法使いの会〉の助力を仰いだ。その矢先、ケイス王から遣わされた追手がレイカにやってきた…。好評シリーズ第2巻。
接待マージャンのメンバー集めに四苦八苦している営業マンの、伝票合計がどうしても合わないOLの、パソコンから会議資料を取り出すことができない中間管理職の助けを呼ぶ声にこたえてやってくる、ドブネズミ色のスーツを着たさえない男。彼こそスーパーサラリーマン。高いビルもひとっ飛びで救いの手をさしのべるサラリーマンの味方を描く表題作ほか、短篇の名手がサラリーマンSFに挑戦する力作短篇11篇を収録。
ハリウッド最高の人気女優マリリンの凍結卵子が、ニューヨークの病院から盗まれた。彼女の資産に目をつけた借金苦の競馬狂が、100万ドルを脅しとろうと企てたのだ。だが犯行現場をマリリンの熱狂的なファンが目撃したことから、盗まれた卵子は思わぬ運命をたどることに…。マフィア、大泥棒、映画プロデューサー、そしてCIAをも巻き込んだ奇想天外な卵子争奪戦を、当代随一のベストセラー作家が軽妙に描く会心作。