1992年9月発売
「ここで何をしているの?」ヴァーダの鋭い問いかけに、ホテルの部屋に忍びこんだその男は、アメリカの石油王のひとり娘を取材しにきたジャーナリストだと名のった。ヴァーダをその本人だとは気がつかないらしい。そこで、ヴァーダは令嬢の付添いだと偽って、パリを案内してもらうことにした。イギリスの公爵との愛のない結婚を勧められていたヴァーダには、つかのまの自由な日々だった。
時は1066年。イギリスはノルマン軍の手中に落ちようとしていた。ダーケンウォルドの領主の一人娘エイスリンも、血なまぐさい戦乱に巻き込まれ、父やその部下たちは目の前で惨殺される。エイスリンも、命はたすかったものの、母とともに奴隷という屈辱の身の上にあった。誇り高く、ブロンドの髪とすみれ色の瞳を持つ、美しいエイスリンを、ノルマン軍の略奪の騎士ラグナーは無理矢理に自分のものにしようとする。やがて、新しい領主ウルフガーの入城を知らされる。エイスリンの心は傷つき、激しい憎しみと愛のうねりの中にのみこまれていくのだった。
父さんは一流の商社マン。母さんは街いちばんの進学塾の経営者。おかげで丘の上に金ぴか御殿の家が建った。私立の試験に落ちたから、近所の公立中学でイジメられてる。机は毎日クソまみれ。父さんがひろってきた、ブルドッグのジャンクは、ボディガードの役には立たず、女同士のイジメにもむかつく。学校もクズ。家もクズ。いったい、オレにどうせえいうねん。
江戸の金さんと呼ばれる金四郎は旗本三千石遠山左衛門尉景晋の嫡子と生まれながらも、弟に家督を譲るためにみずからは市井に隠れ住むべく、ふらりと巷へ出現していた。掏摸仲間に夜桜の姐御と呼ばれるお春は23歳の女盛りであった。そのお春と知り合った金さんは、共に浅草諏訪町の米問屋備州屋三左衛門が和蘭陀金貨を小判に吹替えている悪事の摘発に乗り出した。(第1話「夜桜懴悔」)。粋な美女、辰巳屋のお紺の家に居候を決め込んだ金さんは、橋の欄干にたたずむお店者らしい若者を助けてやった。若者は結城屋惣兵衛の手代新之助と名乗った。結城屋の娘お品とわりない仲になった新之助の危機を、金さんは救ってやることになった。(第2話「伝法恋暖簾」)。“金さん捕物帳”全11話。
東南アジア駐留米軍に巣食って、武器横流しと依頼殺人をほしいままにするガルシアという男が沖縄に潜入した。極秘摘発指令を受けたシングレタリィ少佐が追跡するが、折しも米軍基地内で発生した連続殺人の現場には少佐の名が残されていた。捜査陣を嘲笑うガルシアの挑発である。事件はさらに拡大し、一般市民をも巻き込む事態に…。そして焦慮の果て少佐は、元殺し屋の日本人我威に協力を要請した…。実力派の気鋭が憎悪と暴力の極限を描くニュー・バイオレンス傑作。
戦雲渦巻く尾張。今川義元との決戦を前に、諜者による情報収集を図る信長軍に、木曽川中流域を差配する“川並衆”副首領前野将右衛門がいた。首領蜂須賀小六と共に、劣勢明らかな信長に賭けたのである。敵領内への潜伏と探索、正体不明のくノ一との暗闘。さらに家康への接近。やがて今川勢が桶狭間に…。綿密な史料検証と大胆な発想で、信長を動かし、寡勢を以って今川に勝利した知勇の男前野将右衛門の戦いを描く時代快作。
「ベガスの虎」というと、いかにも強そうなタフガイを想像するが、じつは小柄な日本男児。ところが柔道の心得があって、素手で暴漢をやっつけてしまったから、その名をラスベガス中に轟かせることになった。そしてブロンド美人のディーラー・スーザンにも惚れられて…。書き下ろし痛快アクション。
ろうそくの炎が、戸口の脱衣場と方丈の湯殿を照らし出した。室内は、窓は一つもない。また天井は、太い格子で封じてあった。「本当に、ここで殺されたのだろうか…?」業平は夏雄から手燭を受け取り、簀子に倒れた温子の全裸の体を凝視した。「惜しい…」素直な言葉が、胸の内から浮き上がってきた。長い黒髪に、男心を引きつける、あでやかな容姿。まぶたを閉じた青白い顔には、苦悶の痕跡が、ありあり残っていた。
慶長5年9月、美濃関ヶ原で東西決戦が始まった。徳川家康対石田三成の覇権争いである。西軍優勢のまま闘いは推移するが、小早川秀秋の東軍への寝返りによって、石田勢は劣勢に追い込まれる。だが、突如怒涛のごとく小早川勢へ急襲をかけた軍がいた。宮本武蔵率いる武装軍団である。形勢は逆転し、小早川隊は潰滅。徳川家康は関東へ引き上げるが…。書下ろし長編歴史スペクタル。
子供たちの玩具に隠された秘密を見つけだせ。地球輸入基準局はやっきになった他の星から送られてくる輸入玩具をチェックする。“ウォー・ゲーム”と名付けられたゲームに隠されている謎とはー?彼らは地球を守ることができるのか?-表題作他、本邦初訳を含む初期短篇9篇収録。
男が目覚めたとき、かたわらには女の惨殺死体がころがっていた。いったいおれは…、おれは誰なんだ。ここで何をしているんだ。しかも男は記憶喪失に陥っていた。殺人容疑で警察に連行される男。やがて彼の前に妻と名乗る女性が現われた。わたしはクィン、あなたは夫のマクレアリなのよ。過去は失われ、いままた夫婦の絆も断ち切られようとしていた。傑作シリーズ第四弾。
出会いは7月最後の朝。麻薬がらみの罪状が示すとおり、彼はどこか憔悴感を漂わせていた。だが、瞳に宿る真摯な光がわたしを捉えた。わたしたちは運命のようにささやかな交情を持ったが、季節が秋にうつる頃、ひとつの別れがわたしを待っていた。己れの愛と矜持を賭けて闘うゲイでヒスパニックの弁護士リオス。ゲイ・ミステリ版『長いお別れ』と評される現代ハードボイルドの傑作。
リゲル系第四惑星に空間渦動を使った刺客が侵入、第二段階レンズマンのトレゴンシーを暗殺しようとした。またボスコーンが暗躍しているのか?幸いその試みは失敗に終わったが、事態を重くみた銀河パトロール隊は、トレゴンシーみずからをリーダーとして、ただちに調査を開始した。E・E・ドク・スミスの衣鉢を継ぎ、レンズマン世界を現代によみがえらせたカイルの長編第二作。
1946年、異星人がもたらしたウイルス爆弾がマンハッタン上空で炸裂。この日、世界の歴史は変わった。これに感染した人間は90%が絶命し、生き延びた者たちは特異なミューテーションを遂げたのだ。肉体的変容を遂げた者はジョーカーと、そして特殊な超能力を発現させた一握りの者はエースと呼ばれ、ここに史上かつてない闘いの物語が始まる。SFならではのアダルト・アクション。
ワイルド・カード・ウイルスがすべてを変えてしまった欲望と混沌の街ニューヨーク。ここでは日夜、ありとあらゆる事件が起こっては忘れられてゆく。人々の希望は一握りのヒーローたち、そして街に満ち溢れるのは、闘争とロック・ミュージック、黒魔術とモンスター。実在の出来事と人物を散りばめて、知られざるもうひとつの合衆国の歴史を語り継ぐ、驚異のモザイク・ノベル。