1993年11月15日発売
記憶を一日に二日分ずつ忘れ蝶に食べられてしまった彼女は、二十歳の誕生日にすべての記憶を失なってしまう。しかも、それは明日なんだ。不思議な少年といっしょに帆立貝転送機に乗った私は、忘れ蝶をさがして記憶装置の迷宮へ。取り戻したのは彼女の?それとも私の記憶?俊英が放つ異色の長編作。
今日もメトロは、さまざまな恋人たちを乗せて、東京の地下を走るー。かき消されそうな小さなハート、デパートでデイト、わがままカップル・コンテスト、すれ違いの待ち合わせ、反対側のプラットホーム…など、二十六組の恋人たちが繰り広げる、ささやかで、ひめやかでちょっと過激なラブ・ストーリー。
現世と冥界を自在に往来し、西行、式子内親王、定家、則天武后、西脇順三郎たちとくりひろげる典雅な交歓と豊潤な性の陶酔。「大人のための残酷童話」の著者の奔放なイマジネーションが、時空を超えて媚薬の香りに満ちた世界へ読者を誘う。幻想とエロティシズムの妙味を融合させた異色の文芸連作二十一編。
吉原で遊んだあげく金も払わぬ鼻つまみ者の旗本たち。筋の通らぬことが大嫌いなおえんは、命の危険もかえりみず、彼らにツケの返済を迫った…。直参相手にタンカをきり、危ない場面は機転をきかせてやりすごす。妙案、奇策、丁々発止のやりとりで、侍たちを翻弄する、美しきヒロイン付き馬屋おえんの活躍やいかに…。時は文化文政の頃、粋なヒロインの活躍を描く痛快時代小説。
飽きっぽい性格のため、何度も職を転々としていた志村兼次郎は、持前の腕力、胆力の強さから、いつの間にか横浜の盛場でハイダシ(ユスリ・タカリ)集団の不良仲間の首領として、徐々に幅を利かせるようになっていった。そのあまりの無鉄砲さに「鉄砲兼」というアダ名をもらっていた兼次郎だが、強きを挫き、弱きを扶けるという精神だけは生涯変わることはなかったー。「鉄砲兼」の喧嘩人生痛快譚。
高尾山中の白樺山荘が全焼との急報を受け、八王子分署の江頭検視官補はじめ国分部長刑事、百瀬刑事の三人が現場に急行した。異様な臭気に噎せ返る焼け跡から男五人、女五人の無残な焼死体を発見。事故か殺害かー。ほどなくして、当夜山荘に集まった男女のメンバー表が発見された。そこには男五人、女六人の氏名が記されていた。もう一人は何処に。八王子分署の個性的な刑事達の活躍を描く書下し長篇。
業界最大手である関東証券の河津一郎は、高卒入社以来抜群の業績を挙げ続けていた。妻の美香とは見合結婚だが、会社一筋の河津を美香は愛せず、かつて求婚された名倉冬樹との不倫に溺れた。やがて河津は出世コースの支店長に栄転、しかし、業績が落ちてしまう。焦る河津に、株暴落の中で無謀ともいえるノルマが課せられた。証券業界の実態を赤裸々に描き会社人間の苦悩を活写した力作企業長篇。
国際刑事警察機構の派遣職員の身分で警視庁から出向、CIAの助っ人として早や三年が経つ。中学三年生だった長男は大学受験の時期となった。父親の役割を演じてやらねばと思っていた。ちょうどそんな時、CIA長官から「国連直属の特殺隊長として世界中の悪の根を絶て」との命令を受けた。黒人娘マンディ、日本娘仁井本清美らの美女を部下に。
はんなり風に舞う桜、粋に咲くのは紅朝顔、ひそやかに揺れる野の小菊、華やぐあだ花寒椿…。二十五種の花々が、江戸の町を彩り咲き競う。四季おりおりに、ベテラン・井口朝生が描く市井の人々の恋模様。
道原は、部下の伏見刑事の耳に口を近づけた。「テントの中で死んでいた男が、このナイフでザイルを切ったとしたら、どうだろう?」「殺人ですか?」伏見は屏風岩を振り仰いだ。北アルプスの屏風岩で二人の登山者が死亡した。しかし、その死因は不可解で謎に満ちていた。事故か、殺人か。現場に急行した刑事たちがそこに見たものは。(「白銀の暗黒」)など、道原伝吉の名推理が冴える六つの事件簿。