1993年2月発売
いつのまにか生れていた扇千造が、いつ手ひどくぶったたかれ蹴とばされて、どこでどうくたばることになるのか、だれにもわからない。ゆきあたりばったり、扇千造は、どこからともなく体当りしてきそうな人々に、他の誰でもない扇千造らしく応答をし、ふるまっていく他はなさそうなのだ。読者を小説世界の楽屋に招き入れて、対話に誘う〈ゆとり〉の一冊。
戦争で片脚を失い竹細工職人として寡黙に生きた父。美しいが土地の言葉を話さず、よそよそしかった母。いじめられた少年時代の孤独な日々の思い出。そして反権力を叫んだ紛争世代の決定的な裏切りの記憶。弱者としての自分を切り捨て、外資系企業の有望な管理職を務めるまでに十分な生き方を手に入れていた納屋増夫が、大学医学部のスターと謳われる旧知の男と再会した時、その華やかな転身と裏切りは許しがたいものとして映った…。
紋章上絵師の章次のもとに、かつて心を寄せあっていた女性から、二十年前と同じ蔭桔梗の紋入れの依頼があった。その時は事情があって下職に回してしまったのだが、それは彼女が密かな願いをかけて託した紋入れだった…。微妙な愛のすれ違いを描き直木賞受賞作となった表題作「蔭桔梗」。下町の職人世界と大人の男女の機微をしっとりと描いた11編の作品を収録した珠玉の短編集。
エリザベスは、テッドの喚き声が忘れられなかった。成功疑いなしの舞台初日前夜、大女優の姉はなぜか追いつめられ、深酔いし、テッドとの婚約を解消しようとした。そして翌朝、彼女の死体がテラス下の中庭にー。エリザベスは検察側証人として、その夜の記憶を失ったテッドと対決することになった。犯人は憎い、でもテッドは好き…。サスペンスの女王が描く華麗で怖ろしい世界。
確かに“狂犬”は狂っていた。女たちの手足を縛り、殺し、犯すことでしか彼は満たされない。しかも“狂犬”はインテリだった。計画は綿密に考え抜かれ、体毛を剃り、コンドームを使った。犯行現場にはただあざ笑うかのようなメッセージだけが残されていた。特別チームを組んだ市警本部の切り札はルーカス警部補。捜査に手段を選ばない辣腕刑事と連続暴行殺人犯の対決を描く長編サスペンス。
色の浅黒いローズと色白のレイチェルは同じ病院で生れた。誕生と同時に両親を亡くしたローズは、貧乏に耐え意地悪な祖母に仕え苦学して弁護士になり、レイチェルは、家族の愛情に包まれて贅沢に育てられ医者になった。情熱的な二人の出生の秘密を握るシルヴィの苦悩。愛の時が流れ、ローズの恋人ブリアンと男に裏切られたレイチェルは、ベトナムの戦地で運命の出会いをした…。
恋人ブリアンからの手紙はローズに届かず消息が絶たれた。九死に一生を得たブリアンとレイチェルは地獄のベトナムから奇跡的に脱出し強い愛の絆で結ばれた。作家となり成功した彼の幸福な結婚に絶望したローズが、過去の卑劣な男の報復で訴えられたレイチェルを弁護するという運命の皮肉。そして出生の秘密を明かすシルヴィ。二人の現代女性の真実の愛と友情を見事に描いた長編。
屋根裏部屋で見つけた催眠術の入門書。泣き虫の弟リトル・エディを実験台に、その恐るべき効果を試す少年ハリーを描くストラウブの「ブルー・ローズ」。マンハッタンを徘徊する悪鬼との対決を綴るバーカーの「魂のゆくえ」。他にも、18名の俊英たちが現代の恐怖を鮮烈に描き出す。『ナイト・フライヤー』『闇の展覧会』と並び称される傑作ホラー・アンソロジー、ついに邦訳版で登場。
1942年、第二次大戦の戦禍の及ばぬアラバマ州の小さな港町に、一隻のUボートが浮上した。沿岸に暮らす16歳の少年ビクターは、不気味な船影に遭遇するが、潜水艦は再び海中に姿を消す。自分を殺しかけた「巨大な黒い化け物」を追跡するうちに、ビクターはナチスの機密計画「カタログ」の存在を知り…。アメリカ南部の美しい自然を背景に、少年の冒険を描く青春小説。
大好きなアギーおばが食中毒で死んでしまった。原因はお手製の瓶詰めインゲン。事故のようなものと医師は言うが、ジェネットには納得がいかない。87歳とは思えないほど矍鑠としていたおばさんである。それに、食べ物に対する気のつかいようといったらなかった…。架空の田舎町を舞台に、マクラウドが別名義で贈る新シリーズ。不思議なおかしみが漂う、会心のユーモア編。
とある貸事務所の十三号室を借り受けた奇妙な紳士。彼は、さっそく新聞に女事務員募集の記事を出し、応募者の中からひとりの美女を選び出すと自宅に連れ帰り、刃物類が転がる不気味な風呂場へと案内するのだった…。かくして、東京中を震撼させる恐るべき事件が続発する。この残虐な殺人鬼に対するは民間の犯罪学者畔柳友助。雑誌連載時に大好評を博した、手に汗握る長編推理。
エイラとジョンダラー、それに2頭の馬と狼ウルフの一行は、氷河期の吹きすさぶヨーロッパ大陸の大草原を旅してゆく。動物を飼いならして従わせ、また新しく発明した槍投げ器や武器をもった2人は、人々の驚異と畏敬の的となった。大陸横断の長い冒険の旅の中で、2人は野蛮な敵や勇敢な友人たちと出会う。そしてこの広大な未知の世界は、困難や危険と同時に、驚嘆すべき美と啓発にみちていることを学ぶ。
植民惑星ミランダは変化の時を迎えていた。極地の氷が解け、陸の大半が水没する時季が近づいていたのだ。この星に星間政府の役人が派遣されてきた。グレゴリアンという男が禁制テクノロジーを使用し、水中生活の可能な改造人種を作りだしているとの報があったのだ。グレゴリアンの足跡を追ううち、役人は美しくも怪異なこの星の罠にからめとられていく…。科学と魔術を華麗に融合させ絶賛を浴びた珠玉のネビュラ賞受賞作。
〈辺境〉星域における反地球勢力〈同盟〉の中心地、惑星サイティーン。ここでは植民政策にともなう人員増強のため、徹底した遺伝子操作とテープ学習によって人間が“製造”されていた。この技術を管理する遺伝子工学研究所は、ひとりの老獪な女性科学者アリアンが全権を掌握している。才能と権力をほしいままにする彼女が極秘のうちにすすめる、きわめて危険な試みとは。ヒューゴー賞に輝く傑作SF巨篇、堂々の開幕。
都で1、2を争う腕を誇る美貌の剣士、リチャード・セント・ヴァイヤー。暗殺請け負いをなりわいにしている彼は、愛人の美青年アレクとともに気ままな暮らしを送っていた。そんなある日、政敵を追い落として権力を握ろうと図る大物貴族から仕事の依頼が舞いこんだ。そのときから、リチャードの運命はすこしずつ狂いはじめた…。剣に生きる男の恋と波乱の生涯を華麗に描く、アメリカ・ファンタジイ界期待の新鋭の傑作長篇。
航空機墜落調査班のメンバーである心理学者ノーマンは、召集を受け、南太平洋へ飛んだ。海底に沈んでから少なくとも三百年は経過している宇宙船が発見されたというのだ。ノーマンをはじめとする科学者チームは、海底居住施設を拠点にして、船内の調査をする。未知の生命体との遭遇に脅えながらも船内深く到達した彼らの前に、不思議な球体が出現した。『ジュラシック・パーク』の著者が放つ傑作エンターテイメント。
居住施設に戻った科学者チームの周囲では、奇妙な出来事が続発する。突如モニターテレビに謎の数字が並び、海底ではエビや発光するイカやクラゲが異常発生し、さらには狂暴なオオイカの触手が彼らを襲う。すべては謎の球体に関係があると考えたノーマンは、再び宇宙船へ乗り込み、球体とのコンタクトを試みるが…。ハイテク機器を用いた深海調査や、心理学、海洋学の豊富な知識を随所にちりばめた興奮の深海サスペンス。