1993年6月発売
組合闘争にゆれる本多銃砲火薬店。その工場に勤める花城由記子が、遺書をのこして失踪した。社長の1人息子・本多昭一と心中するというのだ。しかし、昭一の遺体が発見されてからも、その行方は杳として知れなかった-。ついに殺人犯人として指名手配をうける由記子。姿を消した姉を追って、花城佐紀子は必死の捜索をつづけるが…。本格、社会派、サスペンスの見事な融合。ロマンにあふれた作風で、笹沢ミステリの原点をなし、第14回日本推理作家協会賞を受けた傑作長編。
SF作家のおれのところに歴史小説の依頼がきた。しかもおれの先祖であるらしい。洞ヶ峠の日和見で悪評高い筒井順慶を書けというのだ…。型破りの発想で小説のジャンルの壁を破壊した表題作。芸能プロのグロテスクさを際立たせた「あらえっさっさ」、連続殺人犯に群がり利用するマスコミの本質を突いた「晋金太郎」、新宿騒乱事件を戯画化した「新宿祭」。初期の力作4編を収める。
ワシントンの情報屋から送られた極秘ファクスは、蔵元、高原、外岡の3人の総理大臣秘書官に、次期支援戦闘機開発をめぐる政界疑獄の発生を告げていた。彼らは、腐敗した政治家を放逐し、新たな政治理念に依って政界再編の道を切り開くべく、決然と行動を開始したー。恋人との別離や愛妻の死など、それぞれに苦悩しつつも繰り広げられる、誇り高き平成の官僚たちの熱い闘いは今。
むごたらしい恰好で男は絶命していた。両手の爪を剥ぎ取られ、額には深々と釘が打ち込まれ、内臓を泥のように破壊されていた。同じ頃、ヒューストンのハイウェイでは六人の男が機関銃の猛射を受け全員が憤死する。殺人課の刑事ヘイドンは二つの事件の捜査線上に浮上した狂信的組織〈テコス〉への接近を試みるが…。都市開発に絡む習慣的腐敗と、凄惨な拷問劇を描く異色サスペンス。
核戦争で灰燼に帰した地球、疑似生命体へと進化していくロボット、社会システムのために踏みにじられてしまう人間の尊厳、相互に浸透し交錯しあう複数の現実、絶望的状況の中で苦闘を続けるごく普通の職業の主人公たちーデビュー以来、近未来を舞台に悲惨な人間の状況を書き続けてきたP・K・ディックの終末的ヴィジョンの数々。「戦争」をテーマにした日本オリジナル短編集第三弾。
ロープが食いこんでねじれた首、飛び出たグロテスクな目ー。子どもばかりを狙う連続殺人犯「エディンバラの絞首人」。行き詰りをみせる捜査に焦った担当検事は、優秀だが、凶悪犯を殺害したため停職中の刑事マクモランに捜査への参加を命じた。マクモランは同様の手口の殺人を調べるうち、二十数年前の殺人事件との微かなつながりを追いはじめる…。緊迫感溢れるサイコ・サスペンス。
大川の流れるほとりの芸者屋に、住み込んだ女中・梨花。この花街に暮らす芸妓たちの慣習と、自堕落で打算のからみあう、くろうとの世界に、梨花は困じながらも、しろうとの女の生活感覚で、誠実に応えて、働き、そこに生きる人々に惹かれていく…。時代が大きく移り変わる中で、抗いながらも、流されていく花街の人々と、そこに身を置いた女性の生活を、細やかに描いて絶賛された長編小説。新潮社文学賞、日本芸術院賞受賞。
彼らがみつめている、奇怪な人物。それは、まだほんの10歳くらいにしか見えない、小さな少年だった。背もたれのない丸椅子にちょこんと座り、両手でひざをかかえている。少年はひどくやせこけ、顔から飛び出さんばかりの大きな目が、長い前髪の下で、異様な輝きを放っていた。なにかの昆虫みたいだ-と鳥子は思った。学園ドラマ風の冒頭から一気に谷山浩子の「迷宮」に突入する書下し長篇ファンタジー。
敗色濃い南海の孤島ラバウル。そこには今や戦争の帰趨には関係なく取り残された日本軍将兵たちがいた。すでに闘うべき戦闘機も艦船も殆どない。しかしこのまま座して敗戦を待つというのも面白くない。そこで考えだされたのが、何とも奇妙で大胆な奇襲作戦。目標は真珠湾だ。
夜の札幌の繁華街で、医療用実験動物を積んだトラックが炎上した。初めは単なる交通事故かと思われたが、現場の目撃者が不審な死を遂げ、さらに、トラックから逃げ出した動物の行方をめぐって、黒い影が暗躍をはじめる。事件に巻きこまれた医大講師は-。
好評を得た『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』につづいて気鋭の女流が贈る、正調贋作第二弾。ミュージックホールを舞台にした不可能犯罪物「ハマースミスの怪人」、若き日のホームズが潜入捜査を敢行する「ロシアの老婦人」、ハメルンの笛吹き男を名乗る人物が英国全体を人質にとる「スマトラの大鼠」など、ホームズ譚の妙趣を心ゆくまで味わえる、謎と推理の一級品。
春の雪が舞う朝、わたしは妻の部下と対していた。健康上の理由から妊娠を禁じられた彼女は養子縁組をへてわが子を得たのだが、くだんの赤ん坊が昨朝姿を消してしまったのだという。悪質な養子斡旋業者による誘拐?だが調査にかかるや事件は哀しい素顔を表わしはじめた…。真相を追いながらも父であり夫であることを忘れない探偵ボウディン。ウイッティで重厚な好連作発進。
鏡の中に現れる美しい青年に恋をし、やがて悲しいフィナーレをむかえるエウラリアをはじめ、何ものかに魅せられ、囚われの身となり、遥かな迷宮に迷い込んだ者たち。幻や想像の世界に現実以上のものを見てしまった人間の悲劇が、イタリアの若き女性作家の手からダマスク織りのように紡ぎだされる。