1993年7月発売
速見竜男は出張帰りに妻彩子の浮気を目撃し、腹いせに元社員の道子と情事に走るが、超電導システムの秘密書類を盗まれて窮地に陥る。さらに上司の峯尾が失踪し、速見は若夫人麻衣子の捜索の旅へ出た。産業スパイの存在に気づいた速見の身にも危険が忍び寄って-。好評官能サスペンス。
多くの人が出入りするテレビ局から、白昼、売り出し中の歌手が誘拐された。しかもその直前、この誘拐を暗示する奇妙な匿名電話が警察に入っていた。芸能プロやCMのスポンサーたちの対応、駆け引き、警察の地道かつ執拗な捜査、そして事件の驚嘆すべきトリックまで、リアルに描ききった傑作長編推理。
天才ピアニストとして期待されていた輝美は、ある日突然失明した。音楽に生きがいを求めて厳しいレッスンにも耐える日々のなか、彼女の周りで次々と人が殺される。美しいピアニストに近づく男たち。気配と音だけが彼女の疑惑を深め、やがて恐ろしい真相が見えてくる…。人の虚実を鮮やかに描いた傑作短編集。表題作ほか四編を収録。
ロサンジェルスに住むイタリア人ジョヴァンニは、漠然としたサクセス・ストーリーを思い描いている。やがて、映画界のディーヴァにイタリア語を教え始めたジョヴァンニにも、チャンスが巡ってくる。カメラマン志望の彼の、正確で皮肉な目を通して、アメリカの社会とアメリカン・ドリームの緩やかな衰退が、スーパーレアリズム的な手法で描写される。
昭和二十年五月から原爆投下の八月九日までの日々-。長崎の兵器工場に動員された女学生たちの苛酷な青春。一瞬の光にのまれ、理不尽に消えてしまった〈生〉。記録をたずね事実を基に、綿密に綴った被爆体験。谷崎潤一郎賞受賞作「やすらかに今はねむり給え」のほか恩師・友人たちの最期を鮮烈に描いた「道」を収録。鎮魂の思いをこめた林京子の原点。
海と船への憧れを抱いて対馬で育った笛太郎は、海賊船黄丸の船大将となつてシャムを舞台に活躍する。バンコクは明国の海賊マゴーチの本拠地。マゴーチは笛太郎の実父だが、笛太郎が異母弟を殺したことから、親子の宿命的な対決となる。海に生きる男たちの夢とロマンを描いた直木賞受賞作『海狼説』の続篇。
奥州藤原一族四代をテーマに描く名手風巻絃一の書下ろし本格歴史ロマンの傑作編。検非違使の志という職を捨て、京を脱出してきた神無木式部は、琵琶湖近くの鏡の宿場に泊まっていた。夜半、突然に起こった物音は、羽黒山の大天狗藤沢ノ入道一味の襲撃であったが、剣にすぐれた式部はたちまちにして入道一味を斬り倒してしまった。この事件で、式部は平泉屋敷を宰領する堀弥太郎吉次、通称金売り商人と呼ばれていた男の知遇を得た。天平二十一年、陸奥の国から黄金が出た。平泉は初代清衡以来、鎮守府将軍の三代秀衡と繁栄を続けた。源九郎義経も身を寄せ、式部と知り合うことになって…。
間宮林蔵以前、北辺の地を探検した山口鉄五郎・青島俊蔵・庵原弥六・佐藤玄六郎らの、北方四島から樺太(現サハリン)への想像を絶する決死の踏破行を資料により描く問題作。天明のころ、蝦夷地はまだまったくの未知・未開の地で、幕府から統治権を与えられていた松前藩ですら全領土の掌握は疑わしく、ましてや東蝦夷のもっと先の北方四島やウルップ島などの諸事情については、江戸にいては知る得べくもなかった。そこで、老中筆頭田沼主殿頭意次は北方経営の方針によってなされた北方事情調査であったが、幕閣の軋轢のうちに意次が失脚し、これら北辺探検隊の苦心もまたはかなく消失していった。全国民の関心事、“北方領土問題”にからめて一石を投ずる注目の本格歴史ロマン。
巨額脱税により逮捕されていたアメリカ麻薬界の大ボスであるランデスが、500万ドルの保釈金で仮出所、そのまま逃亡した。強力な護衛とともに日本に潜入したとの情報に、その命を狙ってさまざまな殺し屋集団が、そしてまた逮捕状を持った腕ききの賞金稼ぎたちがその跡を追ってきた。それらの中には二人の美人ハンターまで介在している。しかも、しばらく鳴りをひそめていた日本の暴力組織の北関総業が不気味な動きを見せ、ふたたび麻薬界を牛耳るべく暗躍しだした。こうなっては竜崎軍団も黙ってはおれない。アメリカの命知らず、中東からの暗殺団、北関総業一派と賞金稼ぎ、竜崎軍団の猛者たちが卍巴となって錯綜する。そのさなかで、快男児壇竜四郎を魅了した謎の美女とは。
優秀なコンピュータ・エンジニアである本田一郎は、二つの顔をもっていた。妻との交渉はほとんどなく、夜になると女性を求めて街へとくりだす一郎は、甘いマスクを武器に孤独な獲物を狩るドンファンなのである。そんな一郎が、ある日突然逮捕された。彼が今までにつきあってきた女性達が次々と殺され、現場には一郎の犯行を裏付ける遺留品が残されていたのだ。巧妙に仕組まれた罠。彼を陥れたものは誰か?妖しい筆致で読者を夢幻の境に誘う異色のサスペンスロマン。
『社内局』経由で配付した会議用資料を回収することになったかれ。ところが『社内局』とはいったい何なのか、どこにあるのか、だれも知らない。たった一人、会社という迷宮をさまよう羽目におちいった困惑の一日ー。一九八九年度の野間文芸新人賞受賞の表題作と芥川賞候補作『パパの伝説』を収録。