1993年8月10日発売
若き中上健次が、根の国・熊野の、闇と光、夢と現、死と生、聖と賎のはざまで漂泊する、若き囚われの魂の行脚を、多層の鮮烈なイメージに捉えようとして懸命に疾走する。“物語”回復という大きなテーマに敢えて挑戦する力業。短篇連作『熊野集』、秀作『枯木灘』に繋ぐ、清新な十五の力篇。
リィアン皇室を滅ぼしたザーン皇室の背後には、四百年の時を越えて甦った伝説の黒魔道術士オーガスタ・ディーと彼が操る魔族の存在があった。乱を呼ぶ“蛍星”の運命を知りながら、シェスタは彼らの野望との対決を決意する。そんなとき、奴隷商人に追われる少女アージュラを助け、彼女の話から、砂の荒野「大砂地」の奥に失われた「土の神霊」に仕えた聖者の子孫が暮らしていることを知る。早速、リヤド達とともに「大砂地」へと向かうシェスタだったが、彼女を狙うオーガスタの魔手が…。
中国奥地を旅する日本人商社マンが、桃源郷の名をもつ村に迷い込んだ。そこで彼は、村の名前からは想像もつかない奇怪な出来事にであった。謎の溺死体、犬肉を食らう饗宴…。桃花の薫りがする女に導かれるように村の秘密へと近づき、ついに彼が見た真の村の姿とは。話題の芥川賞受賞作と他一篇を収録。
ドライビング・ハイとは、ある一瞬、「スピード」という存在を、征した者のみが出会える、不思議で、劇的な感覚。映画「ドライビング・ハイ!」原作、女騒ぎのN1耐久レース小説。
1945年4月30日、ヒトラーは自殺し、ナチス・ドイツは崩壊。数日後、デーニッツの命を受けて一隻のUボートがひそかにブレーマハーフェンを出ていく。謎の男と積荷を載せて。1990年夏、クレタ海。嵐がすぎた海をただよっている小舟に、漁師の死体があった。その手が握っていたのは騎士十字勲章。死体の陰に隠れていたのは、見まがいようもなく、金塊。3ヵ月後のエーゲ海。トルコ領の離れ小島の重罪犯監獄で、元イギリス海兵隊コマンド隊員マイケル・ローガンが呻吟している。麻薬組織の罠にかかり、20年の長期刑をくらったのだ。その日は重労働の屋外作業。突然、沖合から高速艇が突進してきて、ウェット・スーツの男がさけんだ。“早くこい、ローガン。ハリーだ!”男は昔の密輸仲間のハリー・ドナバンだった。行方不明のUボートをさがしている、金塊を積んでいるはずだ、宝さがしに手を貸せ、と言う。
クイン・パーカー・シリーズ第2作。サンフランシスコに住むクインはセラピストという名の無職。というのも、事故による“六桁”の補償金を株に投資して大儲けしたから。家族は猫のローラとインコのオスカー。つまり独身である。親友のハンク・ウィルキーは独演が宿願の売れないコメディアン。問題は家計と芸道の両立。そのハンクに弁護士から書類がとどいた。学生時代の尊敬する友人が死に、ジャマイカ島の浜辺の家とすばらしい景観の十五エーカの土地を遺贈するという。時価五十万ドル。その日暮らしのハンクには胆をつぶすような金額であり、夢のような話だ。さっそく弁護士に電話すると、麻薬取引きのこじれによる射殺が死因という。驚いたハンクは頼りになる友人クインに同行をたのみ、結局二人はカリブ海に飛ぶ。ところが現地についてみると、二人の周辺には不気味な影がただよい、夢は悪夢と化していくのだった。
極度に発達した“メディア”が支配し、現実と疑似現実が錯綜する近未来都市・東京では、麻薬テクに溺れ、罪悪感をなくした若者たちが犯罪を繰り返していた…。電脳少女・ユイは、超人的パワーとアイドル並みのルックスで、麻薬テク組織の壊滅へと乗り出すが、彼女の行手には次々と強敵が出現して…。鬼才が贈る近未来アクション長編。