1994年10月発売
この奇妙な青春のストーリーは、わたしが貧しく希望のない町をオンボロ車に乗って逃げ出したことから始まった。オクラホマのチェロキー・ネーションを通過中、インディアンの女が近づいてきて、頼みもしないのに車の座席に小さな子供を置いていった。わたしの体にしがみつこうとするばかりで、声も出せず、体じゅうに生々しいあざがあった。しかもその子は、女の子だったのだ。突然ころがりこんだインディアンの子供を連れたまま、わたしはアリゾナのとある町にたどりつく。そこにはまた、乳呑児をかかえ夫に捨てられた女や、暗い過去をまとうグアテマラからの亡明者夫妻がいた。それぞれの痛みや悲しみにとまどい、途方に暮れながらも、わたしはその町で生活の糧を得て、傷だらけの子供の閉ざされた心に光をあてようと試みるが…やがて、子供の心にさらに傷を負わせる事件が起こった。へらず口を叩きつつひたむきに生きる若い女主人公と、いたいけなインディアンの女の子との心の交感を描く感動作。
学校では問題児だが映画が大好きな中学生、翔一と知り合い、意気投合した〈俺〉。ところが、翔一の親友が惨殺死体で発見され、一緒にいた彼も行方不明になってしまった。担任の教師、春子に頼まれて、〈俺〉は懸命の捜索を始める。変質者による誘拐か、暴力団がらみか、学校にも飛び火している障害者施設建設反対運動に巻きこまれたか。翔一、無事でいろ。札幌の街を便利屋探偵〈俺〉は必死で走る。
「ゑびすだァ、ゑびすじゃねぇか」やつがれは、同町内の古株刑事・広田勘蔵を誘って、ケイヅ釣に行った。釣り上げたのが、正真正銘のゑびすの土佐衛門だった。水死体は白い狩衣をまとい、大きな黒鯛を抱えこんで、七福神のゑびすそのものだった。水死体の身元が割れた。兄が見つかったのだ。兄は色黒で大黒天とそっくりの恰好の闇米屋だ…(「ゑびす殺し」)。他、著者の博引旁証の奇想世界作品集。
NYの宝石商《ヘリテージ・ギャラリー》に勤める美女タラ・アルヴァラード。彼女は1150万ドル相当の12個のダイアモンドを盗む計画をかつての悪友に持ちかけられ、警察に通報する。捜査に乗り出したのはNY市警のリトル・ジョン・ローリングズ刑事とブレンダン・トマス刑事。水も漏らさぬ警備態勢の中、12個の宝石はきれいに盗まれてしまう。誰が、どうやって。お酒落なマンハッタン・ミステリー。
ストーリーの面白さ、第一級のエンターテインメント=大河ドラマ「龍虎八天狗」、「胡蝶陣」「戦国お千代舟」「武田菱誉れの初陣」「死の冠」「天女の冠」を収む。
江戸の日本橋界隅を縄張りとする岡っ引き・市蔵は、下手人を挙げるだけでなく、事件の背景の事情にも細やかに目を向け、市井の片隅でけなげに生きる人々に温い視線を送ることを自らの務めとしているー。大型新人が、江戸庶民の暮らしぶりを丹念に職り込みつつ哀歓漂う補物帳に仕立て上げた、珠玉の連作シリーズ。第12回「小説推理」新人賞受賞作。
平和を愛する民主国家である平成時代の東京が太平洋戦争の渦中に時空転移-ハルゼー率いる米太平洋艦隊に立ちむかうのは、旧帝国海軍と自衛隊による連合艦隊。司令長官は山本五十六。予期せぬ空母インデペンデンスの存在により大打撃をうけた日本軍は、昭和18年4月16日、決死の覚悟でマリアナ沖に出撃する。旧式艦船同士による最後の大海戦「第二次グアム攻防戦」の幕開きが近づく。一方、モスクワを陥落させ、ユダヤ民族国家「ネオ・イスラエル」を建国したヒトラーは1943年8月15日、ロンドンをも陥落する。ルーズベルト、スターリン、敷島・日本首相、そししてヒトラー…。混迷と動乱の嵐が強まる緊迫の世界を描く、シリーズ第2巻。
零戦・メッサーシュミット対スピットファイアの壮烈バトル。火の海と化す英航空基地、轟沈するプリンス・オブ・ウェールズ-。日独連合の“虹のヨーロッパ作戦”で英空軍は壊滅的打撃を受ける。一方、日本帝国軍はアジアでのイギリスの勢力を排除すべく、香港・シンガポールに侵攻する。そして遂に、日独連合軍のイギリス本土上陸作戦である“トナカイ作戦”が開始された。不敵な笑みを浮かべるヒトラー。苦悩するチャーチルに打つ手はあるのか。息もつかせぬテンポで描き切る第2弾。
邦友銀行香港支店のディーリング・ルーム室長村木晴彦は日々刻々と変動する為替市場で神経をすり減らしていた。円高に相場が動くなか、村木は上司の命令でドル買いに走り、一日で十億円の損失をだした。それは、香港のブラック・マネーを扱う大物・柳宗源の仕掛けた巧妙な罠だったのだー。瞬時に大金を動かす男たちのプライドを賭けた戦いを描くハードロマン。
大手都市銀行の新宿西口支店預金課に六年間勤務する沢口由美は、入行当時から机上での横領計画を練っていた。そして、この計画は外資系会社名義の13億円にものぼる「残置預金」を見つけたときから、現実のものとして動き始めた。由美は天性の美貌と預金課という立場を利用して、緻密な計算の上に構築された横領のトリックを次々と実行していく…。内からの犯罪に対しての無防備さを鋭く指摘した犯罪小説。
戦国の世も終焉を迎えようとする頃、身一つで戦場を徘徊する一人の男がいた。男はその後、関ガ原の合戦で一番槍をとるという武勲をあげるも、浪人となってさすらい、やがて大坂の陣で天下掌握の大勢を決しようとする徳川家康の前に大きく立ちはだかった。男の名は塙団右衛門直之。武将としての死に花を咲かせるべく、落城秘至の大坂方にあえて馳せ参じた男の豪気なる生涯。
国が、君主が、権臣貴人たちが、陰媒をめぐらし、権力と利を求めて右往左往するなかで、人はいかにふるまうか-。秦・晋・楚・斉の四大国が覇権を競っていた中国の春秋時代、斉の国で軍事の才を発揮した晏弱将軍と、その息子でのちに名宰相として斉の黄金時代を築いた晏嬰父子の見事な生き方を、激動と変転の歴史の中に描く長篇1700枚。
弁護士のジェフは、気づいたときにはすべてを失っていた。くじを当てて大金持ちになった妻が、何もかも奪ってしまったのだ。専業主婦だった女の復讐なのか。家も財産もおいしい料理も、いまの彼には自由にならない。残されたのは愛車と愛人だけ。やがて彼は完璧な殺人計画を思いつくが…。
愛し合っていた筈の妻が突然失踪し、投身自殺する-なぜ、どうして。警察を辞め、単身真相究明に乗りだした主人公の前に、暴力団の影が。デビュー長編『慟哭』でミステリ・ファンを唸らせた貫井徳郎、待望の長編第二作。