1994年11月30日発売
失恋からコンピュータ犯罪の片棒を担ぐにいたる微妙な女性心理の動きを描く表題作。『火車』の原型ともいえる「裏切らないで」。切なくあたたかい「ドルシネアにようこそ」など6編を収録。日々の生活と幻想が交錯する東京。街と人の姿を鮮やかに描き、爽やかでハートウォーミングな読後感を残す。宮部みゆきワールドを確立し、その魅力の全てが凝縮された山本賞受賞前夜の作品集。
紀元一世紀のブリテン島。ローマ軍の侵攻によりケルト諸部族は次々と平定され、いまや島はローマ化の一途をたどろうとしていた。そんななかで、ケルト穏健派の大ドルイド僧の孫娘エイランは、ローマ人の青年士官ガイウスと出会い、恋に落ちた。しかし、対立する民族の血をひくゆえにふたりは結ばれず、エイランは巫女になる道を選ぶが…。滅びんとするケルト人の運命を描き、〈アヴァロンの霧〉の前史をなす三部。
アメリカ南部の都市チャールストンで、戦慄すべき連続殺人事件が発生した。一見何のつながりもない九人の老若男女が殺し合いを繰り広げたのだ。捜査を担当するジェントリー保安官と被害者の娘ナタリーは、訪れた精神科医のソールから驚くべき事実を打ち明けられる。事件には、人の心を自由に操る能力者、マインド・ヴァンパイアが深く関与しているというのだ。ブラム・ストーカー賞をはじめ数々の賞に輝くホラー超大作。
チャールストンの連続殺人は、三人のヴァンパイア同士の反目が原因だった。そのうちの一人、ボーデンはナチの大佐時代、強制収容所で囚人たちを使い、人間チェスに興じたことがあった。その駒として命を落としかけたソールは、大佐追跡に執念を燃やしていたのだ。だが大佐たちを追うものはほかにもいた。世界の要人を操る大富豪バーラントに率いられた別のヴァンパイア集団が、彼らを亡きものにしようと狙っていたのだ。英国幻想文学賞受賞作。
ヴァンパイアが人の心を操るメカニズムを解明したソールとナタリー。彼らは、毎年バーラント一味が彼の島でパーティを開き、人狩りゲームを楽しんでいることをつきとめる。今年はそこに大佐も現われるという。精神コントロールへの対抗策を秘めたソールは、人狩りの獲物になりすまして島に潜入、大佐との対決を試みる。だが大佐の前に引き出された彼を待ち受けていたのは、悪夢の人間チェスだった。超大作ホラー全三巻。ローカス賞受賞。
シングルマザーの再就職にしちゃ悪くないわ。面接の際の奇妙な雰囲気に戸惑いながらも、アンは採用されたことを喜んだ。ところが出社第一日目、社長が殺され、アンにその容疑が。独自に調査を始めると、健康マニアの副社長、オーラ信者の総務係など社員は怪しい人間ばかり。やがて、社長の極秘ディスクを手に事件の謎を追うアンの命が狙われた。急成長するコンピュータソフト会社を舞台に素人探偵アンの推理が冴える。
風刺劇を演じる道化役の男が何者かになぐり殺された。リープホーン警部補直属の部下になったチー巡査は、失踪した少年の行方を追って、たまたまこの事件の現場に居合わせることになった。捜査を始めたリープホーンとチーは、最近起きたもうひとつの殺人事件との間に、わずかな接点を見出すが…。
仕事よりも女遊びに熱心な探偵マクナリーは、百万ドル切手盗難事件の調査に乗出すが…。陽光がまぶしい南フロリダのリゾート地を舞台に、ストーリーテリングの神様が放つ、新シリーズ第一弾。
1926年の冬、黒人たちのシティ。男が女を撃ち殺した。女は18歳の愛人だった。葬儀の日、柩の中の女の顔に、男の妻がナイフで切りかかった。ジャズの即興のように過去、現在、未来を自由に往来しながら、謎の語り手によって明かされる事件の周辺。深遠や愛の物語に木霊する情熱、詩情、そして官能-センセーションを巻き起こした話題作。
異星人にさらわれたと少女は主張する「キラキラと輝くもの」、超能力少女の哀しい恋物語を描き、第25回星雲賞を受賞した「くるぐる使い」、少女に憑いた悪霊とオール・ジャンル・エクソシストが闘う「憑かれたな」、ひとり自分の世界に閉じこもった少年が、毎日、鉛筆の先を尖らせてくらす「春陽綺談」、いじめられっ子が一世一代の人生の大逆転を図る「のの子の復讐ジグジグ」-青春の残酷と、非日常の彼方に見える現代のリアルを描く5短篇を収録する。
戦争はいかなる意味においても我々が考えているようなものではない。それを行うために大戦略は必須であるし、勇壮極まりない情景も存在しよう。だが大部分は、常識と、退屈極まりない時間の連続であるということもまた確かだ-日独対戦が激化するなか戦場に臨んだ兵士の内部に迫る圧力や米国上陸作戦の戦闘、大西洋上の商船護衛、米国土における日本軍に浴びせられる独軍戦車部隊の攻撃、冨岳によるベルリン爆撃そして戦後にまで視野を広げて、非日常の中で苦闘する日本側兵士たちの迫真の姿を熱描する一大戦場報告。
城達矢は東京旅行社の人気添乗員だ。自慢の巨根と持続力、淫蕩なテクニックで世界各国の美女たちと悦楽のときを過している。だが、彼には密かな野望があった。十兆円産業ともいわれる旅行業界で、独立を果すのが夢なのだ。ある日、元スチュワーデスで財閥会長夫人、美貌の徳王寺郁代から呼びだしがあった。若く淫らな体をもてあます彼女に、たっぷり満足を与えた城は、意外な依頼を受ける。城が添乗するツアーに郁代の娘が新婚旅行で参加する予定だが、旅先での娘の体を奪ってほしいというのだ。
東京湾を遊戈していた「米賀」の警戒空域を旅客機に偽装したリビア軍のDC6機が侵犯した。上空で哨戒飛行中の石川大尉の零戦が迎撃に向かったが、そこへメッサーシュミットが襲いかかる。傭兵飛行隊長〈殺し屋〉フリースナー率いる四機のME109だった。航続距離六百六十キロのメッサーシュミットが東京湾まで出撃してこれるはずはない。中国か朝鮮半島のどこかにカダフィ大佐の秘密基地があるはずだった。さらに空母二隻を中心とするカダフィの機動部隊が密かにアラビア海を東進中との情報も入ってきた。藤田提督は秘密作戦を胸に巨大空母「米賀」を九州沖に進出させた…。