1994年発売
十九世紀末、日本の琉球処分に反発、清国に支援を求めて海を渡った男たちがいた。福州琉球館を舞台に、憂国の思いに燃える彼らを待っていたのは…。歴史の波に翻弄されながらも、時代に立ち向かう琉球人の群像。
幕末、15のときに江戸は芝大門・惣兵衛親分の若い衆になって10年、渡世の義理をつとめてきたツブテの歌吉は、乗った船が難波して大海を漂っているところをアメリカの船に救助された。再び、渡世の義理を果たすべく、大西部をさすらいつつ絶世の美女を探しまわる挙銃無宿・歌吉の破天荒な冒険譚。
けがれなき悲しい存在ー。飽食の象徴、残パンを食べて育ち、やがて飽食の世界に連れ戻される豚たち。都市の近郊で畜産業を営む祖父とともに豚と暮らしてきたロック青年の六平と、変貌する街を見ながら「景色が壊れていく」と呟く家出少女・うさぎ…。ふたりの無垢な魂の彷徨を描く青春小説。
ニューヨークのマンションで、ありふれた毎日を送る未亡人は、静かに雪の降りしきる夜、〈ミリアム〉と名乗る美しい少女と出会った…。ふとしたことから全てを失ってゆく都市生活者の孤独を捉えた「ミリアム」。旅行中に奇妙な夫婦と知り合った女子大生の不安を描く「夜の樹」。夢と現実のあわいに漂いながら、心の核を鮮かに抉り出す、お洒落で哀しいショート・ストーリー9編。
初雪の舞うクリスマスの夜、姿田有季は津城祥貴と出逢う。涙と雪で濡れた唇に優しいキスが降りてくる。後日、有季は赴任先の学校で再び祥貴と出逢う。自分の生徒に涙を見られ唇を奪われた。彼の視線はまっすぐ僕を見つめる。弱い心も見るように。僕は彼の視線に応えられない。強くなりたい。二人の想いを弄ぶような天使の悪戯…。春原いずみが貴方に贈る、センチメンタル・ラヴストーリィ。
容姿も性格も違う双子、一樹と二葉。いつしか違いすぎる二葉を求める一樹。近すぎる一樹を拒む二葉。二葉はその愛から逃れる為に誠司に抱かれる。抱かれた体は禁断の愛欲を目覚めさせた。心は一樹を責める。一樹の嫉妬は二葉を責める。こんなにたがいを愛しているのに、求めているのに…。それは禁じられた愛欲だから。近すぎた二人、違いすぎた双子。冬城蒼生が貴方に贈る禁断の恋愛物語。
勇猛果敢にして慈悲の心のあふれ、今日なお語り伝えられる多くの逸話を残した異色の戦国大名・加藤清正。戦乱の世には剛毅なる武将として名を馳せ、天下治まってからは、築城・治世の名人としてその才能を讃えられた名君。波乱に富んだ全生涯を壮大なスケールで描き、併せて秀吉による朝鮮出兵の知られざる側面を明らかにする。
後に明治のフーシェとたとえられる密偵使いの名手川路大警視とその影に控える内務卿大久保利通。対するは影の御隠居こと、駒井相模守を初めとする元南町奉行の面々。黒田清隆、山県有朋、高橋お伝、皇女和の宮等、多彩なる人物が織りなす事件の裏で彼らの狐と狸の化かし合いにも似た知恵比べは続く。富国強兵を急ぐ明治の側面を描く連作物語の完結。
芸能誌の副編集長である小早川に、伊豆の観光ホテルへの招待状が届いた。差出し人は「海」とだけ書かれていたが、交通費が同封してあるので、ジャーナリストとしての好奇心もあり、出向くことにした。指定された部屋に入ってみると、見知らぬ4人の先客がいた。いずれもお互いの名も顔も知らないという…。不気味な招待状に隠された殺人事件解明の手がかり。